Q&A:なぜ、精神・発達障がい者の採用を進めなきゃいけないの?

ある企業の人事担当者様から下記のようなご質問を頂戴しました。

ハローワークや人材会社から精神障がい者や発達障がい者の採用を勧められています。おそらく、身体障がい者の採用は競争が激しくなっているからだろうと思っています。なぜ、精神障がい者や発達障がい者の採用をしないといけなくなっているのかを教えてください。

ここ数年、障がい者の採用活動をされていると身体障がい者ではなく、精神障がい者や発達障がい者の提案や紹介が多くなっていることにお気づきだと思います。実は、障がい者求人の現場では数年前から身体障がい者の採用が非常に難しくなっています。当然これには理由があります。

障害者雇用に関連する法律が新しくなったのに伴い企業における障害者雇用の義務化が進み、社会貢献的な立場からも障がい者の雇用がクローズアップされるようになってきました。

そのため、企業で障がい者人材を活用する動きが活発化してきたことが、身体障がい者の採用競争が激しくなってきた原因のひとつです。(ご参考までに、フランスでは障がい者の雇用率を5%に設定しています。遠い将来ですが、日本もこの程度の水準を目指すのかもしれません。)

でも、理由はそれだけではありません。
もう少し違った視点でのお話しをしてみたいと思います。

ここで、発達障がいの場合ですが、診断を受けた方が手帳を取得する場合、「知的障がい」か「精神障がい」のどちらかとなります。発達障がい者で「知的障がい」と「精神障がい」にそれぞれ何人が取得されているのか明確になっていません。ここでは、精神障がい者に含まれていることを前提にお話しさせていただきます。

皆さんは国内の障がい者の人口はどの程度かご存知でしょうか。
昨年、内閣府から発表された直近の数字では、「身体障がい者:約394万人」「知的障がい者:約74万人」「精神障がい者:約392万人」となっています。

この数字を見ていただくと、身体障がい者は沢山いるんだなぁと思います。また、精神障がい者も同じぐらいいるんだということにも驚かれるのではないでしょうか。それと、知的障がい者は桁がひとつ少なく、身体と精神に比べて約1/5程度なんだということも知ってもらえたと思います。

それでは、この数字をもう少し分析してみましょう。

この障がい特性ごとの人口に年代層別の割合を加えて見てみたいと思います。
「身体障がい者:~17歳は1.9%、1864歳は28.8%、65歳~は68.7%、不明は0.6%」
「知的障がい者:~17歳は24.4%、1864歳は65.6%、65歳~は9.3%、不明は0.7%」
「精神障がい者:~17歳は7.4%、1864歳は56.0%、65歳~は36.6%」
となります。

先ず、身体障がい者の年代層別の特徴をご紹介します。

身体障がい者手帳を取得されている方の多くは「65歳以上」の年代となっています。なぜなら、身体に障がいを負われる方というのは病気や事故が原因で手帳を取得します。これは年齢を重ねるごとに病気や事故に合う確率が高まるために起こる現象なのです。

更に年代を「60歳以上」で見た場合、実は70%を超える数字になります。ということは、企業の採用ターゲットとなる年代層「60歳未満」は残りの30%を下回る数字となってきます。この30%を下回る中には、既に就職をしている方や重度の障がいのために働くことが出来ない人材も含まれていますので、そういった方たちを除けば全国で10%に満たない人口を多くの企業が採り合っているという構図になっているわけです。

次に、知的障がい者は、身体障がい者に次いで働いている人材が多く、主に工場や倉庫、スーパーなどの比較的大型小売りの現場で採用されています。身体障がい者に比べて採用できる人材はまだいらっしゃいますが、母数が少ない中での雇用率アップ等による影響で採用が進んでいますので、徐々に難しくなってきている状況にあるのは事実です。

最後に精神障がい者ですが、身体障がい者とは逆に一番多い年代層は「1864歳」となります。厚労省が毎年発表している障がい別の雇用実数を見ると、「身体障がい者:327,600人」「知的障がい者:104,746人」「精神障がい者:42,028人」(平成28年度)となり、精神障がい者の雇用が本格的になるのはこれからだということがお分かりになると思います。

精神障がい者の人口が身体障がい者の人口と同程度にもかかわらず、働いている人の数は大きな開きがあります。原因は精神障がい者に対する間違った思い込みのために、働くには十分な能力と回復が見られる人材であっても採用の対象とされていないからです。

実は、この点を理解し、精神障がい者や発達障がい者を採用のターゲットにシフトチェンジしている企業が出始めています。身体障がい者と違った受入れ方法の導入が必要となりますが、実情に合わせた雇用を目指そうとする動きが活発になってきています。障がい者の採用において、企業の要望(身体障がい者の採用)は理解できますが、事実はそれを満たせるようになっていないこと(精神障がい者の採用)を受け止める必要があります。

どのタイミングで事実に合わせた採用活動を始めるかで今後の障害者雇用の実現が決まってくることをご理解ください。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム