(体験談)聴覚障害者の両親を持った家族が感じたこと

私には障害を持つ家族がいます。それは、両親です。私の両親は聴覚障害者です。二人とも耳が全く聞こえず、重度判定2級の障害者です。父親については、幼少の頃に高熱を伴う病気にかかり、聴力を失ったと聞きました。昔は病気が原因で聴力を失くす子供が多かったと聞きますが、父親もそのひとりだったようです。

両親の話はセミナーや従業員向けの研修会などの場でお話しをさせていただくことがあるのですが、私が障害者に雇用に関する仕事をしたのは両親が障害者だからではありません。どちらかというと逆で、気持ちとしては、一番身近な存在としての親が障害者ですので、これ以上障害を持つ人たちと関わりたくないというのが本音でした。

小さい頃から、常に「自分の家族は他の家族と違う」「親同士の交流がない家庭」という風に感じて生きてきました。

今でも、強く心に刺さっているエピソードがあります。それは私が小学校1年生頃の話です。私には3歳下の妹がひとり居りまして、時々家族4人でファミリーレストランに食事に行くことがありました。お店に入ると、私たちと同じような家族がそれぞれのテーブルで食事を楽しんでいます。普通なら私も楽しく食事を摂りたいのですが、そのためにはひとつ乗り越えないといけないことがありました。案内されたテーブル席で注文をする時、他のテーブルではお父さんか母さんがお店の方に対して注文をしますが、私の家族の場合は両親が聴覚障害者のために声を出して料理の注文をすることができませんでした。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、発語(声を出す)ができない聴覚障害者が話す場合、はっきりと聞き取れない特徴的な声でお話しをされます。私は親のその姿を周囲に見られるのがとても嫌だったために、注文をするときは小学校1年生の私がしていました。その姿も周りからは変に見られているのではないかと思っていました。

他にも、両親と出掛ける時に電車で移動している際、両親が手話で話をするのですが、車内の乗客がこちらに向ける視線がとても嫌でした。これも、自分の親が聴覚障害者だと周囲が不思議な目で見ていると感じてしまっていたからです。

こういった経験から、当時私が住んでいた地域は大阪市内でも非常にやんちゃなところでした。中学校の時代は、煙草を吸う同級生も多く、他の学校と喧嘩をしたりして警察のお世話になる話というのもよく聞きました。普段から周囲がそんなところでしたから、私自身もいわゆる不良の仲間入りをしてもおかしくなかった状況に置かれていたのですが、大きな問題も起こさずその時代を過ごしてきました。理由は分かっています。それは、両親が聴覚障害者だからです。冒頭でお話ししましたように「自分は周囲と違う」ということを強く感じていましたから、煙草を吸ったり、喧嘩をしたり、家に帰らなかったりということが、すべて違う世界の話のようでした。

ずっとそういう感覚で生きてきたからなのかもしれませんが、周囲からの目線にとても敏感で、どちらかというと自分よりも家族がどのように見られるかが気になってしまいます。また、他人と自分を比べるということに関してもどこか冷めているような部分があったり、自分から積極的に他者と関りを持とうという感覚が希薄なように感じています。今となっては、それを受け入れているので、ストレスなどは全然感じないようになりましたが。

もうひとつ冒頭でお話しをしました「これ以上障害者と関わりたくない」という私が、なぜ障害者の雇用に関わる仕事をしているのかもお話ししておきたいと思います。

前職で障害を持つ求職者を企業に紹介するという人材紹介に携わったのが、この仕事に関わる大きなきっかけでした。当時、たまたまこの業務の担当をできるのが自分しかおらず、仕方なく依頼をこなしていたというのが実際でした。この頃は、派遣や人材紹介が大きく世の中に認知され、働き方のひとつとして企業からの受入れも進んでいました。そのため、競合他社も多く、他の人材会社との差別化を持たないと企業から選んでもらえない時代でもありました。一般的な派遣や人材紹介で企業へアプローチしてもなかなか担当者とつないでもらえなかったのが、「障害者の人材紹介」という切り口でご案内すると、多くの企業担当者とお会いすることができました。自分の心とは裏腹に、私の話を熱心に聞いていただく企業担当者がいらっしゃったり、障害者雇用での悩みをご相談いただけたりと、私のことを必要としてくれる多くの体験をすることができました。

実は、その時に自分が抱えている“障害者に対する感情”を一旦心の奥に仕舞い込んでしまったらどうだろうと考えるようになり、実践したところ、スッキリした感覚になったのを覚えています。そこからです。障害者の方と仕事を通じて接することが苦にならなくなったのは。

美談ではなく、昔は苦しみでしかなかった障害者が、その方たちと関わる仕事を天職だと感じています。今では聴覚障害を持つ両親には感謝しています。

ABOUTこの記事をかいた人

上前 忠司 (イルネス障害者雇用総合研究所代表)

[障害者雇用コンサルタント] 企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・採用コーディネート、また障害者人材を活用した事業に関するアドバイスを実施。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。講演のご依頼や雇用に関する相談は、当サイトお問い合わせからお願いします。