Q&A:障害者手帳を持つ従業員の掘り起こし方法を教えて!

今、障害者の採用活動が熱を帯びています。障害者を雇いたい企業のニーズを獲得するために、人材会社は障害を持つ求職者の紹介事業を開始し、一般企業の参入も目立ち始めた就労支援系福祉事業所の開設数は年々増加しています。この状況は、東京オリンピック・パラリンピック開催にあわせて大きく注目を集めることになることが予想されます。

障害者の採用活動が企業間で熱くなってくるのに比例して、採用担当者の苦労の度合いも増しています。それは、障害者の採用競争が激しくなってきているからに他なりません。企業規模や障害者の雇用状況などにより、置かれている立場に違いはありますが、定期的に障害者採用を行っている企業の多くは、「新卒採用に伴う従業員増加に対する採用」「既存の障害者人材の退職(定年も含む)に対する採用」といった理由が原因です。それにプラスして、企業が掲げる「ノーマライゼーション」「ダイバーシティ」「CSR(社会的責任)」といった企業価値の追求や法令遵守といった考えもあります。また、納付金制度の対象企業拡大も障害者採用活動の競争を激しくさせています。

そのような中、今回は会社に申告をしていない障害者手帳取得者を本人の理解・納得の上で把握しておきたいといったご相談となります。こちらも、障害者雇用を社内で根付かせるための取組みと関連させることがポイントなりそうです。

Q

お世話になります。

当社では、法定雇用率にギリギリ届かない程度の障害者を雇用しています。雇用率を満たすために、新たに障害者採用活動を進めております。一方で、自社内で既に働いている従業員の中には会社に申告していない障害者手帳取得者がいるようです。まだ、会社に申告をしていない障害者の方々が新たに加わることで少しでも雇用率の改善につながると考えています。

そこで、障害者手帳を取得している従業員から会社へ申告をしてもらう何か良い方法はありませんでしょうか。よろしくお願いします。《メーカー、従業員数約1,100名、人事担当者》

A

こちらのコラムで何度もお話しをしているのですが、障害者の採用や職場定着が実現できている状態である“好循環な障害者雇用”を社内に根付かせるための重要な点は、『既存の従業員への配慮を忘れない』ということです。通常、障害を持つ従業員への配慮やサポートが職場定着に結びつくと思われていますが、実際は今働いている障害のない従業員への配慮が非常に重要となります。

もう少し詳しくお話しすると、障害者への配慮ばかりを気にするために、周囲で一緒に働く従業員への心配りをおろそかにすると、結果として障害者の勤務に対する理解と協力が得られなくなり、職場定着が実現できない状態になってしまうということです。既存の従業員に対して、「障害者雇用をする理由の説明」「障害者個々の特徴をしっかり伝える」「障害者だけでなく周囲の従業員の声もしっかりと聞く」といった対応を取らなかったために雇用が失敗してしまった企業を多く見てきました。障害者雇用が社内に上手く定着している企業というのは、特別難しいことをしているのではなく、時間を掛けて先ずは既存の従業員の理解と協力を得られるところからスタートさせているのです。

では、今回の障害者手帳を取得している従業員の掘り起こしという件ですが、これも時間を掛けて従業員の方々に理解と協力を得ることを重点にするところから始める必要があります。

基本的に従業員の皆さんは、企業が障害者雇用を義務付けられている理由を明確には知りません。雇わないといけないんだろうなぁ。といった程度です。人事部に所属した方でない限りは当然のことだと思います。では、場をセッティングして従業員に向けて障害者雇用の必要な理由を説明すれば、良いのかというとそういうことでもありません。障害者手帳の取得者が会社に申告をするというのは、義務ではなくあくまでも自己判断だというのはご存知だと思います。従って、会社側からの説明により理由を知ったからと言って、直ぐに未申告者が手を挙げてくれるわけではありません。でも、先ずは理由をしっかり説明し、会社としてのスタンスを明確化させましょう。徐々に浸透していくはずです。

次に必要なことは、会社へ私は障害者だと申告した結果、現状の雇用形態や待遇面において不利になるようなことはありませんといった意思表示をはっきりと伝えることです。2016年度の「障害者差別解消法」により、企業は障害者を差別することが禁止されていますので、従業員を障害者と認知したから会社内の立場が不利になったということはマイナスにしかならないわけですから考えにくいのですが、本人にしてみると不安を感じるのはよく理解できることではないでしょうか。「一方的に部署を異動させられるのではないか」「給料を減額されるのではないか」「周囲から差別を受けるのではないか」といった不安な感情を抱かないようにするためには、どうしても時間を掛けて会社の考えを浸透させていく必要があるのです。

今回のケースを含め会社の考えを示すことは非常に重要なことだと考えます。従業員に限らず、その家族や友人、取引先やユーザーなど企業と関わる“人”のネットワークは思っているより広いものです。目には見えないが、つながっている“人”がたくさんいるんだということをしっかりと意識することが、より良い企業づくりへの道になると思います。

ABOUTこの記事をかいた人

上前 忠司 (イルネス障害者雇用総合研究所代表)

[障害者雇用コンサルタント] 企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・採用コーディネート、また障害者人材を活用した事業に関するアドバイスを実施。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。講演のご依頼や雇用に関する相談は、当サイトお問い合わせからお願いします。