第1回「大学に見る発達障害を持つ学生への支援について」

働くことを望んでいる障害者が本来必要とする支援の形を作るためには、一般企業の存在が不可欠だと考えています。これまでの障害者支援は福祉的な立場が強く、障害者が“本来必要としているサービス”という観点からは掛け離れた部分も多く見られましたが、一般企業による障害者福祉事業への参入で、競争が生まれた結果として障害者個々が受けたいサービスや支援を選べる時代へと変化してきました。

今後、企業による障害者(特に精神・発達障害者)への理解が進んでいくことで、最適なサービスや支援を受けた人材が労働力として活躍していくことになります。

それでは、もうひとつ障害者を取り巻く環境の中から、障害者採用や雇用に影響する課題についてお話ししたいと思います。

それは大学です。企業の人事担当者の皆さんは、大学に通っている障害を持つ学生がどのような環境にあるかご存知でしょうか。障害学生といっても、特性により必要な支援や配慮が様々なのは、お気づきのことだと思います。また、障害学生への対応は学校により設け方も違っているのですべての大学が同じ課題に頭を抱えているということではありませんが、少なくとも発達障害を持つ学生や診断は受け入ていないが疑いのある学生についてはこれからお話しするような問題に直面しています。

最初に大学における障害学生の現状をご説明します。

先ずは身体に障害を持つ学生の場合。必要とする支援のかたちとしては物理的な対応が多くを占めています。例えば、聴覚に障害を持っている学生であればノートテイクと呼ばれる方法で、担当する学生が先生のお話しされた内容を手話やPCなどを使って授業の内容を本人に伝える支援や、上肢に障害がある学生であれば本人の代わりにノートの代筆やPC入力による筆記対応といったものになります。他には、スロープやトイレなどの設置も最近は進んでいるように思います。

就職活動においては新卒での採用を目標にしています。その点では障害の有無は関係ありません。数年前から障害者の新卒採用に力を入れている企業も増えてきましたから、求人サイトなどを通じて自力でエントリーする障害学生もいらっしゃいます。企業からすれば、支援も受けずに自分の力で就活に励む学生は力強さを感じて、増々競争が激しくなっている状況です。

では、発達障害を持つ学生の場合はどうでしょう。数年前から発達障害の認知が

増えており、大学の学生にも一定数の割合で発達障害やその疑いのある方たちが存在します。入学前から自己認知をしている方であれば、大学側に対して事前に相談があるために入試の時には一般とは別に用意された部屋などで受験してもらうような配慮が実施されています。

無事に合格したあと、学生本人とご家族は大学に対して、学生生活を送るための具体的な配慮やサポートをお願いするのですが、現状明確なかたちでのサポート体制を築いている大学はごく僅かです。

例えば、発達障害を持つ(または疑いのある)学生にとって、普段の学生生活での困り事としては次のようなものが挙げられます。

「授業のある教室の場所が覚えられない」
「掲示板やモニターから発信される情報が認知できない」
「課題の内容が理解できない」
「提出物の期限を守れない」
「同級生と馴染めず、休み時間等も一人で過ごしている」
「指示されたことや求められていることが分からない」

これらは、ほんの一例で発達障害を持つ学生すべてに当てはまるというよりも、Aさんは列挙された中の何番目と何番目の特徴が見られるといった感じ個々により困り事は様々となります。

これらを見てお気づきの方もいらっしゃると思いますが、上記に挙げた特徴は社会人になってからも影響のある内容になります。勉強のできるできないは、試験で判断することができますが、上記のような部分を持つ人材を採用活動時に見極めるのは難しいと思います。採用・配属後に所属部署の管理者から、「言っていることが理解できない」「書類の提出期限が守れない」といったクレームが発生するのはここ最近よく聞かれる話です。

当然、自身が発達障害者だと認知している学生だけではありません。発達障害の傾向があるにもかかわらず、自己認知のない学生の場合であれば、生活上の不便さを感じないためにどこにも支援を求めずに就職活動をしており、通常の一般採用枠にエントリーしてくることもめずらしいことではありません。そうなると、企業は採用活動中にしっかりと見極める力の重要性を迫られることになります。

大学生の間に社会生活で必要なスキルやマナーを習得したり、自分の特徴を深く知るための教育を受けたりできればいいのですが、残念ながら大学ではそれぞれの学部における専門性ある授業を提供するだけにとどまっています。

どこまで大学に求めるのとかと言った話にもなってきますが、一般的に大学を卒業した後の進路として考えられるのは企業への就職です。これらのような状況を知ってしまった採用担当者としては、大学側に対して学生の間に発達障害を持つ(または疑いのある)学生への支援体制も構築してもらいたいと考えるのではないでしょうか。

支援やサポートは早ければ早いほど、本人の将来にとって大きな影響力を持つこととなります。

次回は、大学における発達障害を持つ学生の具体的な問題点とこれから進んでほしい支援体制についてお話しします。

ABOUTこの記事をかいた人

上前 忠司 (イルネス障害者雇用総合研究所代表)

[障害者雇用コンサルタント]
企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・採用コーディネート、また障害者人材を活用した事業に関するアドバイスを実施。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。講演のご依頼や雇用に関する相談は、当サイトお問い合わせからお願いします。