義務感?邪魔モノ?近くて遠い「企業と福祉事業所」の関係

私が障害者雇用の分野に携わるようになって約15年が経とうとしています。まだまだ経験値の浅い私の目から見ても、「法定雇用率の上昇や納付金(罰金)の対象企業拡大などの法律改正」や「雇用促進による障害者求人の増加」「多様な助成金制度」など、この15年で障害者雇用の世界は変化してきたように感じます。その一方で、「義務感のみの雇用」「思い込みが先行する障害者への理解」など、10年以上が経過してもあまり変化が見られない部分も残っています。

正反対の意見交換会

最近の話になりますが、複数の企業と複数の就労支援系福祉事業所が参加して意見交換を実施する会に立ち会う機会が1ヶ月にうちに2回もありました。それぞれ、企業は人事担当者、福祉事業所は支援スタッフや現場責任者の方々でした。

どちらの意見交換会も定例として行われている会ではなく、それぞれ別々の企業が主催したシンポジウムや情報交換会を名目とした場でした。両方の会では、あるテーマについて『企業』と『就労支援系福祉事業所』両者が持つ意見や考えを出し合ってもらうという時間が設けられていたのですが、この2つの意見交換会で取り上げられたテーマで共通するところがありました。それは、「これから先の障害者の働き方について」というものでした。

この2つの会にはアドバイザーという立場で参加させてもらい、『企業』と『就労支援系福祉事業所』両者の意見を第三者的な観点から聞かせていただく貴重な時間で、個人的にはメリットが多い機会でした。

仮にひとつの意見交換会を《A》、もうひとつの意見交換会を《B》とします。共通するテーマを持つこの2つの意見交換会ですが、始まってみると全然違った中身を見ることになりました。《A》の意見交換会を簡単に表現すると『両者の歩み寄りが感じられない会』。一方の《B》の意見交換会は『障害者雇用に可能性を感じさせてくれる会』でした。

もう少しそれぞれの印象を上げてみましょう。

『両者の歩み寄りが感じられない会』の場合

  • 『企業』と『福祉事業所』がそれぞれの思い込みで意見を言う
  • 否定的な言葉が目立つ
  • この先に可能性が感じられない

これから障害者の雇用を積極的に実施していこうとする企業の中には、限られた経験や知識からアイデアや考え(「〇〇な業務なら大丈夫ではないか。」「障害を持つ者同士なら助け合うだろう。」など)を出してきます。中には乱暴ともとれる意見が出されることもありました。一方の福祉事業所からも後ろ向きな意見や考え(「△△の仕事は障害者を疲弊させる。」「障害者のことを理解していない企業には行かせたくない。」など)が多く出てきました。当然具体的にではありませんでしたが、お互いに相手のことを邪魔しようとしているようにも見えました。

『障害者雇用に可能性を感じさせてくれる会』の場合

  • 具体的な正解はないが強い可能性を感じる
  • お互いを認める・求めるような言葉
  • それぞれができる事を見つけ出そうとしている

参加された企業がこれまで経験した失敗談や成功事例を話すことで、他の企業や福祉事業所も「良い部分」や「自社で出来そうな取り組み」に強い関心を持っている印象でした。その証拠に熱心な企業の人事担当者や福祉事業所の支援スタッフからは質問が相次ぎ、「どのようにすれば自社に合った雇用が生み出せそうか。」「どのような訓練が企業にとって必要なのか。」を少しでも持って帰ろうという強い意欲を感じることができました。

この2つの会に参加し、このコラムを書く時に感じたのですが、参加される企業や福祉事業所の置かれている「状況」「環境」「経験」、それに加えて「テーマ」によってその時に話される内容というのは変化するのだなぁということでした。

意見の一致の前に、まずは意見の交換から

今回は、私の主観で『両者の歩み寄りが感じられない会』と『障害者雇用に可能性を感じさせてくれる会』という風に書かせてもらいましたが、どちらかが良くてどちらかが悪いということではなく、このような場面が少ないことが今後の障害者雇用促進にマイナスな影響になるのではないかと危惧しています。現状のまま、両者の交流が少ない状態が続けば、お互いに対する信頼度もなかなか上がることがないのではないでしょうか。もっと両者がお互いを知る場面を作っていくべきだということを強く感じさせられました。お互いの距離が短くなることでもたらされるメリットも多くなります。

これまでのコラムでも書いてきましたが、企業にとって義務感ではない本当の障害者の雇用と職場定着の実現には助成金の活用だけでなく、専門性の高い福祉事業所との関係強化が結果に大きく影響してきます。

未熟者の私が申し上げるのも大変恐縮ではありますが、敢えて書きたいと思います。

企業は、就労支援系福祉事業所を含めた専門性の高い外部リソースをもっと活用することで、これから求人の対象となる精神障害者や発達障害者への可能性を感じて欲しいと思います。

一方の福祉事業所は、企業を信頼し、実習や支援などを通じて障害者の成長を企業に理解してもらうことを根気強く進めてもらいたいと思います。

そうすることで、両者の目指すところは一致するのではないでしょうか。

ABOUTこの記事をかいた人

上前 忠司 (日本障害者雇用総合研究所代表)

[障害者雇用コンサルタント] 雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。