職場見学:農園型障害者雇用支援サービスIBUKI(いぶき)

法律の改正により障害者の雇用を促進する動きが活発化する中で、課題解決の糸口を探すために情報収集に余念のない人事担当者は少なくありません。当ミルマガジンも、法定雇用率の達成と維持が徐々に厳しくなる現状にあっても障害者の雇用と職場定着を実現していただくため、人事担当の方々の役に立つ情報を配信しています。

皆さんは、新たな障害者の働き方のひとつとして『農福連携』という言葉をよく耳にされることがあると思います。人手不足や後継者不足に耕作放棄地など、農業分野の抱える問題の解消として「農業」×「障害者就労」を掛け合わせたもので、各地でこの『農福連携』となる取り組みが進められています。

実は、野菜や果物の栽培や収穫などの農作業は障害を持つ方たちの特性にマッチしたものが多くあります。例えば、「不要な葉や実を間引きする作業」「基準通りの大きさや形のものに選別する」「水やりや収穫などの体力仕事」など、職域も広く、コツコツと根気のいる作業も多いため、個々の障害者に適した業務を見つけやすい点があります。

その一方で、農業ならではの参入障壁の高さというものが存在するために、特に未経験な分野となる企業にとっては簡単に取り入れることができない難しさがあるというのも事実です。
これら、農作業による障害者の業務マッチングと雇用を組み合わせた就労モデルを提供している企業をご存知でしょうか。

今回、見学レポートにご協力をいただきましたのは、株式会社スタートラインさんが神奈川県横浜市で2017年10月にスタートしたばかりの「農園型障害者雇用支援サービス」として運営されている『IBUKI(いぶき)横浜ファーム』をご紹介したいと思います。

この『IBUKI横浜ファーム』の就労モデルを簡単に説明すると、

  1. 農作業で障害者雇用を実践したいと考えている契約企業は、「場所」「農業ノウハウ」「採用や定着支援サポート」を受けることができます。
  2. 契約企業に採用された障害者は、室内に設置された水耕栽培装置でレタスなどの葉物野菜やハーブ類を「栽培」「収穫」「加工」する仕事に取り組みます。
  3. スタートライン社はそれらを総合的にサポートし、企業の障害者雇用、障害者の就労実現をフォローしています。 となります。

当日、『IBUKI』のご案内をしていただきましたのは株式会社スタートラインの取締役の白木孝一様です。

早速、施設の中をご案内いただきました。玄関では靴を脱ぎ、スリッパで移動をします。これは、外からの汚れや菌、害虫などを入れないようにする処置だということです。

まずご案内いただいたのは植物工場の設備がある栽培ブースのエリアです。こちらのエリアに入るためには簡易の白衣を着用しての見学となるのですが、エリアの入り口にはエアーカーテンが設置されており、細心の注意が払われていました。


『IBUKI横浜ファーム』では、利用可能な栽培ブースの数が13あるのですが、現在7社の契約でブースのすべてが埋まっている状況にあり、通路から見る各栽培ブースへの扉には契約企業名の書かれたシートが貼られていました。扉のすりガラス越しに中をのぞくと、各ブースとも数名ずつの障害者の方たちが作業をされていました。

栽培ブースですが、通路からの扉を開けるともう一枚の扉があり、なるべくブースの外からの空気が入らないような工夫がされていました。
そして、いよいよ栽培ブースの中に潜入です。



写真でご覧いただいたように、室内にもかかわらず立派に植物が栽培されていました。植物の匂いやハーブの香りもし、心が落ち着く感じがしたのですが、なにより植物の栽培をしてるのに清潔感があり、限られたスペースであっても圧迫感もなく、非常に明るい職場は働く障害者にとってもストレスが少ないのだろうという印象を持ちました。

『IBUKI横浜ファーム』に導入されている植物工場の設備の特徴として、水は循環式ではなくトレーに一定量の水を張った状態で栽培するために排水を行わないため非常に清潔な状態となっています。


収穫されたハーブ類は乾燥機に掛けられ、ハーブティーなどの加工品として従業員に配布されたり、販促品として活用されています。


私も見学会後の休憩室でハーブティーをご馳走になりました。

『IBUKI横浜ファーム』では、就労の場を用意するだけではなく、例えば「マインドフルネス」や「エクササイズ」など、心身の健康を維持するためのプログラムも提供することで、働いている障害者の方たちに向けた雇用定着のための取り組みなども導入しています。

今回ご紹介しました『IBUKI横浜ファーム』は、オフィス系障害者サテライト就労で多くの実績を持つスタートラインさんが新たに開始した農園型障害者雇用支援サービスの最初の事業所になるのですが、実は2018年5月には埼玉県戸田市に第2号ファームの準備をしているということで、企業からのニーズの高さを感じます。

障害者雇用を支援する立場の方たちの中には、本来の企業雇用とかけ離れた存在として見ているという事実もあります。

現在、法定雇用率は上昇傾向にあり、見方によっては企業の負担が大きくなっています。義務感だけではなく、しっかりと障害者の雇用に取組んでいる企業であるほど、雇用増に向けた新たな職域開拓というのはとても大きな課題のひとつです。本来、企業に通勤して本業である業務に就くことが望ましいということは理解しつつ、企業によっては今ある業務の延長線上の仕事だけでは新たな雇用を充足できないという現実も存在します。

一昔前と比べると、仕事を探す障害者の選択肢は少しずつではありますが、増えてきていると感じています。障害者であっても「進路がひとつしかない」よりも「選択肢のある未来」である世の中の方が良いに決まっています。それよりも活用する企業の考え方が重要なのではないでしょうか。

ABOUTこの記事をかいた人

上前 忠司 (日本障害者雇用総合研究所代表)

[障害者雇用コンサルタント] 雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。 ▼アドバイス実施先(一部抜粋) ・opzt株式会社 ・川崎重工業株式会社 ・株式会社神戸製鋼所 ・沢井製薬株式会社 ・株式会社セイデン ・日本開発株式会社 ・日本電産株式会社 ・株式会社ティーエルエス ・パナソニック株式会社 ・大阪富士工業株式会社 ・株式会社船井総合研究所 ・株式会社リビングプラットフォーム