前回の続きです。
4. 健康管理について:障がいの有無を超えた「全社員の健康」を守る仕組み
◯「健康・サポート室」の設置と有資格者による専門支援
ヤンマーシンビオシスでは、社員の心身の健康維持と長期的定着を組織的にバックアップするため、専門部署である「健康・サポート室」を設置しています。同室には、作業療法士(OT)、精神保健福祉士(PSW)、公認心理師、産業カウンセラーなどの国家資格・専門資格を持つ専門スタッフが常駐しています。
健康・サポート室の最大の特徴は、その目的が「障がいのある社員」だけにとどまらず、「障がいの有無に関わらず、全社員の健康を保つこと」に置かれている点です。現場で障がい者社員を日々指導・サポートする支援員やリーダー(健常者社員)もまた、過度な抱え込みや精神的負担からメンタルヘルスを崩すリスクがあります。同室は、支援員自身のラインケアやメンタルサポートも担うことで、組織全体の健全なサポート基盤を維持しています。
◯「事実」と「主観」を切り分けるピアスーパービジョン
支援員やリーダー層の育成手法として導入されているのが「ピアスーパービジョン」と呼ばれる研修・事例検討会です。現場で起きたトラブルや困りごとを検討する際、支援者が陥りがちな「主観(感情や推測)」と「事実(客観的な出来事・数値)」を明確に切り分ける訓練を行っています。
例えば、「〇〇さんは集中力がない」というのは支援者の「主観・感情」に過ぎません。これに対し、「1時間の作業中に5回前を横切る人が気になって視線を外した」というのが「事実」です。事実を正しく把握・記録して初めて、「視線が入らないようにパーティションを設置する」「座席の配置を変える」といった具体的な改善策・環境調整(合理的配慮)を導き出すことができます。この客観的見立ての技術を養うことで、感情的な指導を排し、再現性の高い支援を実現しています。
◯3段階の「定着会議」による多角的なネットワーク支援
社員の定着と課題解決のために、同社では多層的な定着支援サイクルを確立しています。具体的には「グループ定着会議」「事業部定着会議」「全体定着会議」の3段階の定着会議が定期的に開催されています。
現場の課題観察から事業部での見立て・対策検証、そして社長や経営陣が参加する全体定着会議へと段階的に連携することで、全社的なコンセンサスを形成しています。こうした組織的アプローチの最終ゴールは、専門職による特別な介入がなくても、現場の上長や同僚が日常の業務の中で自然な配慮と声かけを行える「ナチュラルサポート(ラインケア)」の状態を作り出すことにあります。
◯健康経営優良法人認定と地域貢献
ヤンマーシンビオシスでは、安全衛生・健康づくり活動を推進し、経済産業省が推進する「健康経営優良法人」に認定されています。また、大阪府より「大阪府障がい者サポートカンパニー優良企業」への登録や「大阪府健康づくりアワード優秀賞」を受賞するなど、全社を挙げた健康経営と社会貢献が高く評価されています。


5. 独自の実践取り組み:自立とモチベーションを高める先進的施策
◯ワークコミュニケーションOSAKA版成果発表会
ヤンマーシンビオシス大阪事業部では、社員の自立心と職業的誇りを育む取り組みとして「ワークコミュニケーションOSAKA版成果発表会」を実施しています。これは、社員が日頃の業務手順やチームでの協力・改善の成果を、経営陣や他部門の社員の前で実演・プレゼンテーションするイベントです。
発表会では、架空のオフィスを模した会場で清掃の実技を実演したり、チームで連携して名刺作成や封入封緘、郵便仕分け作業を精度高く手際よく行う様子が披露されます。単なる個人の作業精度だけでなく、「チーム内での報連相やコミュニケーションの円滑さ」が評価されます。「自分の仕事に誇りを持ち、他の人にも見てもらいたい」「仲間と協力してやり遂げたい」というポジティブな意欲を醸成する絶好の機会となっています。
◯現場の発想が生んだ「ユニバーサルクリーニング」
清掃業務の現場では、年齢、性別、障がいの有無に関わらず、誰でも安全かつ身体に負担をかけずに高品質な清掃を行える「ユニバーサルクリーニング」の概念を確立・実践しています。
現場の指導員と障がい者社員が知恵を絞り、独自の清掃道具を開発。階段のステップ部と蹴込み部を屈まずに同時に拭き取れる「けこみモップ」(第18回ビルクリーニング・アイデアグッズ大賞 奨励賞受賞)や、立ったままの姿勢で手すりやパイプをスピーディーに清掃できる「たってすー」(第19回 同優秀賞受賞)など、革新的な道具を生み出しています。これらの道具は身体的負担を大幅に軽減するだけでなく、作業効率と品質の飛躍的な向上を実現しています。
◯3つの“あい”を基盤とした文化の醸成
- かたりあい(語り合い):相互での対話を重ね、本音や困りごとを包み隠さず伝え合うこと。
- みとめあい(認め合い):お互いの障がい特性や得意・不得意を正しく理解し、人間として尊重し合うこと。
- ささえあい(支え合い):一人で抱え込まず、チームや組織、外部機関が連携して助け合うこと。
この3つの“あい”が連動することで、合理的配慮が単なる「特別な配慮・押し付け」ではなく、日常の自然な助け合い(ナチュラルサポート)へと昇華されています。


まとめ:取材を終えて
ヤンマーシンビオシス株式会社の取材を通じて強く感じられたのは、障がい者雇用を「福祉的配慮」や「法定雇用率の消化」として捉えるのではなく、一事業としての「戦力化」と「社員一人ひとりの人間的成長」を目指す確固たる経営姿勢です。
「メンダンハジブンジカン」に象徴される心理的安全性の確保、主観を排した事実に基づくピアスーパービジョン、経営方針と個人の歩みを一つにする「やくもく(役割と目標)」など、同社が構築してきた仕組みは、障がい者雇用にとどまらず、あらゆる企業における人材育成や組織開発の極めて優れたモデルケースと言えます。
「かたりあい・みとめあい・ささえあい」の精神のもと、社員が生き生きと誇りを持って働き、笑顔と感謝があふれる同社の挑戦は、これからも共生社会の理想を具現化し続けていくことでしょう。
設 立:2014年4月1日(特例子会社認定:2014年10月8日)
事業内容:オフィスサポート事業、生産サポート事業、農業ソリューション事業
事業拠点:本社・大阪事業部(大阪市)、尼崎事業部(尼崎市)、長浜事業部(長浜市)、サステナブルファーム事業部(栗東市)
URL:https://www.yanmar.com/jp/about/company/yss/
※本記事は、取材メモ(2026年7月31日実施)、ヤンマーグループ公式発表データ、および取材音声データに基づき、ミルマガジン編集部にて作成いたしました。




