はじめに:2026年、登壇やご相談の現場で感じていること
2026年に入り、私のもとへ届く機会の質と量が大きく変化してきました。
セミナーや研修への登壇、YouTubeなどのメディア出演、あるいはシンポジウムやイベントでのファシリテーターといったご依頼やご相談が、これまで以上に増えています。現在進行形で2027年以降の登壇に向けた調整を進めているものも含めると、これまでと比較してその数と広がりに私自身も驚きを感じているのが本音です。
また、ありがたいことに長年執筆を続けているこの「ミルマガジン」の読者数も着実に増えており、日々多くの方がこの記事に目を通してくださっていることを実感しています。
なぜ今、これほどまでに情報を求める声やご相談が増えているのでしょうか。
その背景や、障がい者雇用に取り組む企業様のリアルな状況を少し深掘りして考えてみると、そこには明確な構造的変化があることが見えてきます。
構造の変化と「障がい者雇用の質」への問い
大きな要因の一つとして挙げられるのは、2026年7月に実施された法定雇用率の引き上げ(民間企業は2.5%から2.7%へ)です。
引き上げが大きな要因のひとつとして、企業側の課題感や切実さはこれまで以上に増しています。しかし、現場の声に耳を傾けていると、単に「いかにして人数を揃えるか」という数合わせの課題だけではない、新しい変化の波を感じるようになりました。
それが、「障がい者雇用の『質』をどう担保するか」という議論です。
「ただ雇えばいいという時期は終わったのではないか」 「自社において、障がいのある社員にどのような役割を担ってもらうべきなのか」 「定着してもらい、互いに納得感のある形で長く働いてもらうにはどうすればいいのか」
法定雇用率の引き上げを経て、実務担当者の皆様や経営陣の方々が、自社の向かうべき障がい者雇用の「方向性」や「あり方」について、あらためて根本から問い直し、模索し始めている。そうした意識の変化が、正しい情報や本質的な知見を求める声の急増につながっているのだと感じています。
障がい者雇用を「人的資本経営」のマクロな視点から捉える

私はセミナーや研修に登壇する際、「障がい者雇用の法律」や「障がい特性に応じた配慮」といった知識の部分から話し始めることはほとんどありません。
最初に意識して伝えたいことは、日本全体が深刻な労働力不足に直面しているという点です。少子高齢化によ労働力の減少を企業の経営者はどのように感じているのでしょうか。
労働力不足が企業経営に大きな影響を及ぼしているこの時代において、特定の属性を持った人たちだけをターゲットにした採用・人材活用には自ずと限界がきます。企業が持続的に成長するためには、多様な背景や特性を持つ人材を自社の貴重な戦力として迎え入れ、活かしていく姿勢が不可欠だと考えます。
そう捉え直すと、障がい者雇用とは法律上の義務を果たすための「特別な施策」ではなく、企業が生き残るための「人材戦略そのもの」であることに気づきます。
さらに言えば、障がいのある社員との関わりの中で培われるマネジメント技術——業務の細分化や明確化、個に応じた丁寧なコミュニケーション、環境調整のプロセスなどは、決して障がい者雇用のためだけにとどまりません。
育児や介護で時間に制約のある社員、メンタル面に不調を抱える社員、あるいは若手やシニア世代に至るまで、多様な人材を活かすための「汎用的なマネジメント力」として、組織全体に転用できるものです。
障がい者雇用への取り組みは、結果として「人を活かせている強い組織」を作るための確かな土台になります。だからこそ私は、まずこの大きな視点からお伝えすることを大切にしています。
「数合わせ」からの脱却と、障がい者の「成長」を信じる経営

ここで、実務担当者や経営者の皆様にぜひとも気づいていただきたい重要なポイントがあります。
それは、障がい者雇用を「数合わせ」というネガティブな観点のまま進めている限り、その取り組みは必ず中途半端なものとなり、最終的に組織へ何ら益をもたらさないということです。
「法律で決まっているから仕方なくやる」「ペナルティ(納付金)を免れるために雇う」といった嫌々の姿勢で臨んでいる職場では、配属された障がい者本人も自らの価値を発揮できず、現場の社員も「負担が増えた」と感じて疲弊してしまいます。これでは誰にとっても不幸な結果しか生まれません。
しかし、発想を逆転させてみてください。
「自社の力にするために、前のめりな意識でどう活かすか」を考え、実践している企業が想像する以上に存在します。障がい者雇用で先駆的な取り組みを行い、成果を上げている多くの企業が証明しているのは、「障がい者雇用は、企業の力となり、明確な益をもたらす」という事実です。
その根底にあるのは、「障がい者は必ず成長する」という揺るぎない信頼です。
もちろん、彼ら彼女らの成長スピードやアプローチは、一般的な組織が求めるテンポとは異なり、ゆっくりに感じられるかもしれません。個々の特性によって、ペースや得意・不得意の差が大きいのも確かです。
ですが、適切な業務設計と適切なサポートがあれば、人は必ず成長します。
組織の論理や焦りから「早く結果を出せ」と迫るのではなく、一人ひとりのペースを信じ、その成長を信じて関わり続けること。その結果として障がい者が自社の重要な「戦力」へと育っていきます。そして、その成長プロセスを通じて職場全体のマネジメント力が高まり、組織に新しい風が吹き込む。それこそが、企業にとって代えがたい「価値」となるのです。
この本質に気づけるかどうかで、障がい者雇用が「ただのコスト」になるか「組織を活性化する投資」になるかが決定的に分かれます。
次回に続きます。




