これからの障がい者雇用で人事担当者が準備しておくと良い6つのポイント【前編】

2020年から世界中を巻き込んだ新型コロナウイルスは2021年がそろそろ終盤を迎えようとする時期になり、ワクチン接種率が上昇してきたことによる効果もあって、徐々に感染者数が落ち着いてきたように感じられます。このまま、次の感染の波が来ないことを祈りたいという気持ちです。

新型コロナウイルスにより企業が取り組む様々な活動が停止、または規模を制限されるような状況にあります。このような動きは、障がい者の求人や採用活動も例外ではありません。私が障がい者雇用のお手伝いをしているいくつかの企業でも新規採用や実習の受入れの計画に影響が出ていることから、これまで順調だった流れを邪魔してしまい、取り組みが思うように進められていないことが大きな懸念となりました。
その一方で、障がい者の雇用数は過去17年連続で前年数を上回っていることや障がい者求人数が想定したよりも低下していないため、感染者数の減少による経済の回復から企業経営への安心材料が整えば、障がい者の新規採用も回復してくるだろうと感じています。

障がい者雇用を進める際に企業の経営者や人事担当者に「障がい者雇用は継続性が重要」だということをお伝えしています。
ある企業では目標となる法定雇用率が達成すると活動をひと休みさせ、次に退職者や法律改正による引き上げなどの変動があるまで積極的な動きを止めてしまいます。こういった企業は法定雇用率もギリギリで達成しているため、急な退職者が発生した時に納付金(罰金ではなく罰則金)を支払うことになってしまいます。現在、障がい者雇用に求められているのは雇用義務としての取り組みではなく、多様な人材活用を含めた「社会的な役割り」を表現するひとつだと考えます。

今、企業が出す障がい者求人は、精神障がい者や発達障がい者のように周囲が理解しづらい障がい特性のある人材を対象とした内容が多くなっています。そのため、新たな採用がない時期であっても、年間を通して組織内で取り組むことはたくさんあります。
コロナ禍にある今を、本格的な障がい者雇用の再開に向けた準備期間として実施しておきたいことをまとめてみました。

1,自社の障がい者手帳取得者をすべて把握していますか?


企業が障がい者雇用を進めていく指針のひとつに「法定雇用率の達成」があります。従業員数43.5人以上の企業は2.3%の法定雇用率をクリアするように国から求められています。そのため、障がい者手帳を所持する従業員から手帳のコピーを提出してもらい、毎年のロクイチ報告で雇用状況を申告することになっています。
仮に、障がい者手帳を所持していることを会社側に伝えていない従業員からの届け出があったなら、正確な数字を申告することで2.3%をクリアすることができるかもしれません。
その場合、なぜ会社側に申告しなかったのかの理由として考えられるのは、

  • A,「障がい者手帳を会社に申告することを知らなかった」
  • B,「障がい者だということを会社に伝えたくなかった」

という2点です。
上記を踏まえて、会社から従業員へどのようにアプローチすれば良いでしょうか。もし伝え方を間違えてしまうと大きな問題へと発展してしまう可能性があるため注意が必要です。

「A」も「B」も会社に障がい者であることを申告するのは本人の意志を尊重することを大前提としていますから無理強いはできません。あくまでも、「我々の会社は法律によって障がい者を一定数雇用する義務があり、障がい者手帳を所持しているのであれば申告してほしい」という理由を従業員に周知した上で、協力を求めるといった態度を表した方が良いでしょう。
実際に、私のクライアント企業では、普段から自社による障がい者雇用に関する様々な取り組みを社内に発信しており、従業員の理解につながる活動を継続しています。そのような中で、改めて従業員に対して「障がい者手帳の届け出」のアナウンスを実施したところ、障がい者手帳を所持していた従業員からの新たな申告があり、法定雇用率をクリアすることができました。

繰り返しになりますが、障がい者であることを申告するのは個人の主観やプライバシーに関わってくることになりますので本人の意思を尊重することを忘れずに。

2,求人・採用方法はいつ見直しましたか?

企業が障がい者の求人を出す場合、長年にわたって最も多く活用されているのがハローワークです。同様に障がい者が求職活動をする際の相談窓口として利用しているのもハローワークです。そのため、求職中の障がい者とのマッチングはもちろん、活用できる助成金や雇用してから受けられるサポートなど、障がい者雇用に関連したあらゆる情報を誰もが得られるリソースですので活用するメリットは非常に高いです。

少し前から障がい者の求人も、一般的な求人ルートと同様にハローワーク以外に民間が運営する障がい者専門の求人窓口が増えてきました
例えば、「障がい者専門の人材会社」や「障がい者専用求人サイト」です。ハローワークとの違いは採用決定時(成功報酬型)または求人情報掲載時に費用が発生する点ですが、会社側の要望に適した人選を募集段階から行ってくれますので、こちらも活用するメリットはあると思います。
また、ハローワークのように費用が掛からず、専門性ある相談先としては就労系障がい福祉サービス(就労移行支援事業、就労継続支援AならびにB型事業)という採用ルートもあります。

最近の障がい者採用の傾向として、企業が活発に採用を進めているのは精神障がい者・発達障がい者になり、厚生労働省が公表している統計でも実雇用数・新規就職者数の割合が最も高くなっています。これまでは「障がい者雇用=身体障がい者」でしたが、障がい者を含めた多様な人材への理解が進んできた現在は、ひとめでは分かりにくい障がい特性のある人材に採用のターゲットが移ってきました。
次はそういった人材を職場に定着してもらうための「環境作り」が組織に求められています。「環境作り」とは、障がい理解・合理的配慮・処遇など、他の従業員と同じようにはたらきやすい職場と将来の人生設計が実現できる組織だと考えます。
障がい者雇用に真摯に取り組む企業は、採用段階から雇用定着を想定した準備を進めています。

続きは次回。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム