【Q】
当社では毎年1〜2名程度ですが、障がい者の新規採用を行なっています。以前までは身体障がい者を中心に採用を行なっていましたが、ここ数年は障がい者採用の求人に対して精神障がい者・発達障がい者のエントリーが増えてきたと感じます。そのため、少しずつではありますが、精神障がい者・発達障がい者も採用することになり、雇用する障がい者の特性範囲も広くなってきました。一方で身体障がい者以外の雇用定着が上手くいかず、採用後一年未満で退職する方が多くいるため困っています。
退職する理由は様々ですが、目立つ理由としては「業務とのミスマッチ」「求める配慮の提供が困難」といったところになります。採用面接ではどのようなことを確認すればいいのか教えていただきたいと思い、ご相談の連絡をしました。
雇用後のミスマッチを防ぐための採用面接で確認するポイントを教えてください。
よろしくお願いします。
《通販会社、従業員数約400名、人事部課長》
【A】
法定雇用率の引き上げなどによる法律改正や多様性活躍を目指す社会的な動きもあり、障がい者の社会進出はここ数年で大きく飛躍したと感じます。
特徴としては、障がい者の雇用義務のある企業による障がい者の雇用で最も多い障がい特性は身体障がい者になりますが、直近の令和5年の統計では精神障がい者が知的障がい者の雇用実数を抜いて、2番目に多い障がい特性となりました。国内の障がい者人口で最も多いのが精神障がい者であり未就業の割合も大きいため、企業が求人募集を出すと求職中の精神障がい者・発達障がい者からのエントリーが多くなるのはそういったことが理由として挙げられます。
今回のご相談は離職を防ぐための採用面接でのポイントを教えてほしいという内容でした。しかしながら、採用面接だけでエントリー人材の中から求める人材を見極めることは非常に困難であると考えます。
その理由は、
- 面接だけでは障がい特性の理解を深める範囲が限定的となってしまう
- 求める人材のスキルや人柄を面接で確認するのは困難
- 本人の「できます」と採用側の「やってほしい」のマッチングが面接では精度が低い
といったことが挙げられます。
もしかすると、今回のご相談企業は採用面接だけで雇用の判断を行なっていたため、上記のような点が抑えられていないことが原因となり離職につながっていたのかもしれません。
全体を通して伝えられることとしては「本人にある障がいの特性やそれを踏まえた配慮に関する認識を深めるための別プロセスが必要」だということです。それは採用面接だけでは、取得する情報が非常に限られたものとなります。そこで私がお勧めする障がい者の新規採用で導入していただきたいのが「職場実習」になります。

「職場実習」とは障がいのある方が企業などの職場で一定期間、実習として実際の仕事に就くことで、受け入れる企業側としては想定する仕事や職場の雰囲気との相性を見たり、障がいの特性に関する認識を深めること・本人が求める合理的配慮を確認するなど、本採用に向けた判断をするために必要な様々なことを知る大切なプロセスとして、多くの企業で導入が進んでいます。
「職場実習」の目的を整理すると、
- 企業側
→採用前に想定する仕事や職場の雰囲気との相性を見れる。障がいの特性に関する認識を深めること・本人が求める合理的配慮を確認
- 求職者側
→業務内容や職場環境を事前に体験。採用前に求める配慮を認識してもらえる。
- 双方
→相互理解を深め、採用後のミスマッチを防止できる。
といったところになります。
また、「職場実習」の簡単な導入手順例を下記に記載します。手順としては「社内手順」と「社外連携」の大きく2点。
- 1. 社内準備
1-①周知:障がい者雇用の方針と実習受け入れの意義を社内に共有。
1-②業務設計:実習で担当してもらう業務内容を明確化。
1-③担当者の選定:業務に精通し、丁寧に指導できる社員を配置。
スケジュール作成:1日の流れを具体的に計画(余裕を持たせるのがポイント)。
- 2. 社外連携
2-①支援機関との連携:専門機関などと協力し、実習候補者を推薦してもらう。
2-②面談の実施:候補者と職場で面談し、特性や配慮点を確認。
2-③通勤・連絡体制の確認:遅刻やトラブル時の連絡方法なども事前に決めておく。
「職場実習」を初めて導入する企業の人事担当者にとっては、わからないことも多いかと思います。そういった際には上記の手順を参考にしてください。
プロセスの2-①は非常に重要なポイントになります。専門機関とは近隣にある障がい者の就労系支援事業所や障がい者就労・生活支援センター(通称:中ぽつ)などを指しています。自社の近くを探してみて、相談を聞いていただけそうなところがあれば連絡を入れ、相談してみてください。自社に合った形で説明・提案をしていただけると思います。
ミスマッチによる離職をゼロにすることは非常に難しいことですが、本日お伝えしたことを実践することで限りなくゼロに近づけることは可能だと考えます。