障がい者雇用がうまくいく職場づくり~5つのポイント~(後編)

前回の続きになります。

障がい者雇用がうまくいく職場づくり~5つのポイント~(前編)

2020.10.06

3、担当業務と役割期待を明確に

最近よく言われるようになった「メンバーシップ型」と「ジョブ型」。
ここでは、「ジョブ型」の視点で考えてみたいと思います。

ジョブ型ですので、担当する業務は明確にします。

  • 担当業務をリストアップ
  • 予定表の作成(1日、週間、月間など)
  • 締め切りや納期も示す
  • ゴール(どこまで担当するか)の明確化

この際、その日の業務量によってスキマ時間が出る場合には、「手伝ってほしい業務」もリストアップしておくことをお勧めします。
事前に伝えておけば担当業務として意識づけすることもできるため、業務として明確にしておいてもよいように思います。

また、職場では、「ただ単に業務だけこなせばよい」というわけではなく、周囲とのチームワークはとても大切です。
職場内の人間関係やコミュニケーションも大切なことであり、「役割期待」として明確に示しておくとよいかと思います。

例えば、担当する業務は全体の一部分である場合が多いと思います。
前後の状況や一部分を担っている意味を伝えることで、役割期待が理解でき、仕事へのモチベーションが上がることもあるように思います。

「この業務は、◯◯さんが入力した後、経理部を経由して部長に決裁され、取引企業様に渡されます。入力がミスなく正確に行われていることで、その後の担当者がスムーズに取り組め、取引企業様との信頼関係が継続できます。」

「このトイレ清掃は、◯◯さんが手順通りに丁寧な清掃を行うことで、トイレを使用する社員みんなが気持ちよく使用することができます。きれいなトイレやきれいな職場は人の気持ちを晴れやかにします。快適な職場環境は社員みんなが働きやすくなるため、毎日の清掃はとても大切な仕事です。」

ジョブ型でよく話題になるのはジョブディスクリプションですが、そこまで明確にする必要はないかと思います。
「どんな仕事をどこまでするか」、「会社にどう貢献しているか」が少しでも伝われば、お互いにとって働きやすくなるように思います。

4、業務日誌で状況把握する


日々の出勤状況は、タイムカードなどで労務管理することができますが、仕事の中身は把握しづらいものです。
業務日誌では、以下のようなことを日々の退勤時に書いてもらい、上司に提出してもらうものです。

  • 今日の体調と睡眠時間
  • 業務内容と自己評価
  • 今日の感想(よかったことや気づいたこと、伝えたいこと)

私の職場でも、このような業務日誌は活用しており、毎日メールで報告をもらっています。
また、部下の正社員にも同じようなことをしていて、今日の感想は「今日のひと言」と題して毎日の仕事を振り返ってもらい、専用のチャットツールで退勤時に書き込んでもらっています。

このような非対面のコミュニケーションは、お互いが自分のペースでインプット・アウトプットできるため、情報へのアクセスがストレスフリーなように思います。
また、非対面のコミュニケーションがあるからこそ、対面で話しがしやすかったり、雑談がしやすくなったりと、相手との関係性がつくりやすいように思います。

障がい者雇用で考えてみると、障がいのある人は自分の意見をタイミングよく相手に伝えることを苦手とする人は多いため、業務日誌を活用して紙やメール、チャットなどで表現してもらうとこちらも把握しやすくなります。
また、記録としても残ることから、体調不良の原因を探ったり業務量の調整を検討するなどの際、過去の実績を活用することができるため根拠ある対応が可能になります。

業務日誌では、相手の書き込みに対して軽くでもコメントを返すことが有効です。
文字でのやりとりは最低限で構いませんが、書き込んだことに対する反応があるとご本人にとっては嬉しいことですので、非対面では軽く文字でやりとりし、密なコミュニケーションは対面で雑談や面談をすることが望ましいと思います。

5、プロと連携し、三者面談を定期実施する


最後は、プロとやりとりする話です。
プロとは、ハローワーク、障害者職業センター、障がい者就業生活支援センター、就労移行支援事業所などです。
これらの人たちはこの業界の専門家ですので、困った時は迷わず相談し、連携することをお勧めします。

また、民間企業などがコンサル(有料)として関わってくれることもあるので、必要に応じて活用することもよいかと思います。

ここでのポイントは、障がいのある社員と職場(上司や教育担当者など)の二者で解決することは望ましくないということです。
もちろん、うまくいっている場合は二者で進めることで大丈夫ですが、問題が起きてからでは遅いため、コミュニケーションがズレ始めたり、職場内の人間関係がギスギスしてきたなど、うまくいっていない兆候が現れたら、プロに相談しながら解決することが近道なように思います。

また、採用時からプロと連携していたのなら、1~2ヶ月に1回でも半年に1回でも構わないので、定期的な三者面談(ご本人、職場、プロ)で現状のモニタリングと今後の方向性の共有をしていくとよいかと思います。

5つのポイントは以上になります。

冒頭にもお伝えしたように、障がい者雇用の職場定着は時間がかかるものです。
定着への取り組みを進めていく上では、焦らず時間をかけながら職場内の人を巻き込み、上記のような取り組みをオープンにする仕組みづくりが大切かと思います。

無理なく進めていくことで双方にとって少しでも働きやすくなるよう、ご参考にしていただければと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

▼プロフィール:
京都生まれ京都育ち。児童福祉の専門学校を卒業後、長野市にある社会福祉法人森と木で障害のある人の就労支援(企業就労の支援、飲食店での支援と運営管理等)に限らず、生活面(グループホーム、ガイドヘルプ等)の支援、学齢期のお子さんの支援などに従事。2013年に帰阪し、自閉症・発達障害の方を対象に企業就労に向けたトレーニングをする2つの事業所ジョブジョイントおおさか(就労移行支援事業・自立訓練事業を大阪市と高槻市で実施運営)にて勤務。2014年より所長(現職)。また、発達障害のある大学生に向けた就活支援プログラム(働くチカラPROJECT)の運営にも力を入れており、2016年より大阪にある大学2校のコンサルタントも務めている。

▼主な資格:
社会福祉士、保育士、訪問型職場適応援助者(ジョブコーチ)

▼主な略歴:
長野市地域自立支援協議会 就労支援部会 部会長(2011〜2013)淀川区地域自立支援協議会 就労支援部会 副部会長(2015〜)高槻市地域自立支援協議会 進路・就労ワーキング 委員(2016〜)日本職業リハビリテーション学会 近畿ブロック代表理事(2017〜)NPO法人ジョブコーチネットワーク、NPO法人自閉症eサービスが主催する研修・セミナー等での講師・トレーナー・コンサルタント等(2013〜)