レポート:「日本障害者雇用企業協議会『障害者雇用企業見学会in博多』(20250605-06)」

本コラムの著者である上前が代表を務めている一般社団法人日本障害者雇用担当者協議会が2025年6月5〜6日の2日間に実施しました企業見学会の様子をご紹介いたします。

一般社団法人日本障害者雇用担当者協議会は2022年8月に発足しました。同会は障がい者雇用に取り組む企業の人事担当者や職場担当者が集まり、情報交換・相談・グループワーク等の活動を通じて自社の障がい者雇用を企業の成長に繋げる取り組みにすることを目的としています。

【過去の記事】

「一般社団法人日本障害者雇用担当者協議会」について

2023.02.14

レポート:一般社団法人日本障害者雇用企業協議会の活動紹介【前編】

2024.04.23

レポート:一般社団法人日本障害者雇用企業協議会の活動紹介【後編】

2024.05.07

レポート:日本障害者雇用担当者協議会『東京セミナー』(24.10.24)

2024.11.12

レポート:一般社団法人日本障害者雇用企業協議会の活動報告「定例会」【前編】

2025.03.25

レポート:一般社団法人日本障害者雇用企業協議会の活動報告「定例会」【後編】

2025.04.01

見学会の目的

◯成功事例の学習:実際の取り組みから自社に活かせるヒントを得る
●意識改革:障がい者雇用への理解を深め、偏見をなくす
◯ネットワーク構築:他社との情報交換や連携のきっかけに
●課題の発見:自社の改善点を明確にする
◯当事者視点の理解:障がいのある社員の働き方や支援の実態を知る

近年、企業における障がい者雇用は法定雇用率の引き上げや社会的活動としての視点の広がりなどにより、年々増加傾向にあります。今後も法律の改正や多様性社会の構築といった考えが浸透することに伴い、社会参加する障がい者の姿を目にする機会が増えてきます。
一方で障がい者の雇用に苦慮する企業も少なくなく、障がい種別に関係なく雇用が進むことにより、受け入れ先の職場での配慮に関する理解を求める声は更に高くなります。また、障がい者に任せる業務についても、ICTやAIの普及により業務範囲に変化が生まれた結果、従来の仕事ではない領域を任せる企業が増えてきました。それに伴い、従来からある業務の進め方や評価方法の見直しを検討する企業も多くなってきました。

他の企業が先進的に取り組んでいる障がい者雇用事例の現場には様々なヒントや気づきがあります。当会では先進企業の生の声と職場の見学を通して、自社での取り組みの大いなる気づきに変える機会として見学会を実施してきました。

見学会当日は晴天に恵まれ、心地よく初夏を感じられる気候となりました。初日はASKUL LOGIST株式会社の福岡物流センターでの見学会となりました。

【初日】

《訪 問 先》ASKUL LOGIST株式会社 福岡物流センター
福岡県福岡市東区みなと香椎二丁目2番1号
https://www.askullogist.co.jp/
《行動内容》13:00 JR博多駅 集合
13:23 JRにて移動 博多駅 ― 千早駅
13:32 JR千早駅到着 タクシーで移動
14:00 ASKUL LOGIST株式会社 訪問
・スライド資料をもとに企業紹介、取り組み内容・特徴
「障がい者の採用から雇用定着、業務マッチング、健康管理」
「支援する従業員の教育」
・所内見学
・質疑応答などの交流
16:30 終了
17:10 JR博多駅にて解散

見学会では同センターの人財開発課課長 坂井 博基氏から障がい者雇用を始められた経緯、これまでの経験から同センターで培ってきた障がいのある人材の強みを活かしたはたらき方など、スライドをもとに詳しくお話をお聞きしました。坂井氏のお話で驚いたのは、これまでに同センターではたらきたいという障がい者をひとりも断ったことがないということでした。

ひとつの事例として10日間の実習に参加した方のお話が印象的でした。
その方は実習が始まった当初、同センターではたらきたいという意欲が30%程度でした。実習が進むにつれ自分のできることが自覚でき、周囲から評価されることで日毎にはたらきたい意欲が高まり、最終日には90%になっていました。坂井氏は障がい者ひとりひとりに注目し、微妙な変化も感じ取ることが重要であるとお話をされていました。その方も仕事を通じて少しずつ変化が生まれ、それを周囲が感じ取ることで、はたらく大切さ・人から感謝される喜びを本人に認識させて、就職に結びつけた好事例だと思います。



後半は物流センターを見学させていただきました。現場では実際に勤務している障がいのあるスタッフからの説明を聞かせていただきました。参加者からも障がいのあるスタッフへの質問を行い、双方で交流を図る良い機会となりました。



見学会二日目も天候に恵まれました。この日は朝10時から夕方16時までの長丁場となる見学会を実施いたしました。

【二日目】

《訪 問 先》株式会社障がい者つくし更生会 春日大野城リサイクルプラザ
福福岡県春日市春日公園6丁目2番地春日大野城リサイクルプラザ内
https://yoshiippo-kouseikai.com/
《行動内容》09:00 JR博多駅 集合
09:24 JRにて移動 博多駅 ― 大野城駅
09:35 JR大野城駅到着 タクシーで移動
10:00 株式会社障がい者つくし更生会 訪問
・所内見学(分別作業、リサイクル、大型廃棄物粉砕機、最終廃棄物処分場)
・スライド資料をもとに企業紹介、取り組み内容・特徴
「組織作り、従業員の意識、特殊な採用方法」
・質疑応答などの交流
16:20 終了
17:30 JR博多駅にて解散

当日は同法人の専務取締役 那波和夫氏から職場見学を皮切りに昼食を挟んでスライドによるこれまでの取り組みについてお話をお聞きしました。
職場見学では、我々が普段はあまり目にする機会がない一般家庭から出た不燃物ごみの処理を行っています。自分たちが出しているゴミがどのように処理されているのかを聞きながら、障がいのあるスタッフのはたらきぶりを目にするいい機会でした。同社でも前日のASKUL LOGIST株式会社と同様に、それぞれの部署ごとに配置されている障がい者の方から仕事の説明や分別の大切さについて丁寧にお話を聞かせていただくことができました。



昼食を挟んで後半は那波氏から、同法人のこれまでの取り組みを中心にお話をお聞きしました。
前半の職場見学時にお話を聞かせていただいた障がいのあるスタッフに自分の仕事について質問をしたところ「任せられている仕事をしっかりとこなすことでゴミが減り、資源の再利用になって社会が良くなる」という言葉が返ってきました。他にも「自分たちの仕事に飽きることはない」など、とても前向きな言葉を聞くことが多くありました。那波氏にこのことを質問すると「この仕事は何のためにやっているのか」ということを日頃の仕事を通して自分たちの役割認識を深めているからだと思います。とのことでした。
こういったことはこれまで数十年かけて積み重ねてきた失敗と成功の繰り返しから生まれた経験なのだと改めて感じる機会となりました。



最後に、見学会に参加された方々の感想を一部ご紹介したいと思います。

【感想】

◯様々なお話がありましたが、障がいというフィルターを通さずに企業として本人のスキルやできることに目を向ける、本人のニーズを探りできる限り応える、そのうえで必要な配慮を考えるという 坂井さんの視点に大変共感いたしました。

◯障がい者雇用に限ったことでもなく、目の前の人間とどう対峙していくのか、一人の人間としての生き方にもつながる出会いとなりました。

◯「平等な評価」「平等な機会」「公正な指導」も素晴らしいと思いました。自己理解と他者理解、自己成長と他社成長など、障がい者に考えてもらうことの重要性も感慨深かったです。ヘルプ(助ける)、サポート(促す)など、共感できる言葉もいただけました。

◯「良かったと思える体験が必要」「先に良い事をする」など、言葉の強味を本当に感じました。相手の立場とは、同じ方向を同じ目線でみる、私には出来ていたのか、と自問自答することもできました。私自身、社内でも社外でも、何か話をするときには、最後は、信頼関係です。と伝えているのですが、間違っ
ていなかったという気持ちになれたことも良かったです。

◯両社とも、障がい者を特別扱いするのではなく、個々の能力や特性を見極めたうえで、健常者と同じように責任ある仕事を任せ、成長の機会を提供している点が非常に印象に残りました。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム