前回に引き続き、高知県で実施されていました「テレワークによる障害者雇用支援」の事業についてご紹介いたします。
2日目は会場を「高知県立県民文化センター」に移し、朝からスタートしました。この日は、実践に近い内容として企業の仕事に就いてもらうことがメインとなります。
2日目のプログラム
- 前日の振り返り:昨日の面接時の振り返り[15分]
- 通信による研修:一般社団法人 Your Choiceによる遠隔でのテレワーク当事者からの研修[各40分]
- 業務説明:阪和興業株式会社の切り出した業務の作業説明[20分]
- 作業開始:PCによる入力作業[3~4時間]
- 業務の振り返り:当日の業務の振り返り[20分]
先ずは、参加者の方たちで「前日の面接の振り返り」を実施されました。この日は3名の参加でしたが、お互いの気づきをしっかりと共有されていました。
次に「通信による研修」。ここで、新たにテレワークにて障害者雇用を実勢いされている「一般社団法人 Your choice」の代表である織田さんと当事者である新井さんから、通信回線を使用し業務に入る前の研修を実施していただきました。
こちらの「一般社団法人 Your choice」様は、ワークスタイルコンサルティング事業としてWebツールを活用した新しいワークスタイルの形を企業に導入するお手伝いをしている法人です。今回の事業にもテレワークによる業務効率の改善をひとつの方法として、音声入力でのPC入力についての研修や体験講座を実施していただきました。研修自体もビデオチャットツールや画面共有ツールを用いて遠隔による研修の実施でしたので、参加者全員がテレワークの可能性を強く感じることができました。
講師がテレワークによる就労をしている障がいをお持ちの方とあって、的確なアドバイスを聞くことができました。例えば、「音声入力」を活用したテキストデータの処理を初めて目にしましたが、精度の高さと入力の速さには私も阪和興業株式会社の人事担当のお二人も驚かされました。
続いて、実際に作業していただく仕事の「業務説明」を前日より参加されている阪和興業株式会社の辻様と小原様からいただきました。
今回、参加者の皆さんに就いていただく作業を簡単に説明します。
アンケート調査の回答集計作業
- PDF化されたアンケート用紙の内容を確認
- Excelシートにアンケートの回答内容を項目ごとに入力
仕事自体は、PCの基本操作ができていれば問題なく、最近では「紙データ」を「電子データ」に変換していくオーソドックスな業務です。
しかし、将来的にはこの業務のマネジメントを遠隔(大阪―高知)で実施しなければなりません。
当然、業務の進行や精度を確認するだけではなく、イレギュラー事項や突発的な問題が発生したときの対処をどのようにコントロールするかという点が重要となります。
それでは、いよいよ「作業開始」となります。滑り出しは、皆さん恐る恐るといった感じでスタートしました。
実は3名のうちのひとりに発達障がいのADHDを持つ方がいらっしゃいました。彼は、障がいの特性から「入力ミス」が多いという特徴を自覚していました。どうしても同じレベルの人と比較した場合、「入力漏れ」や「文字の間違い」を見逃してしまい、ミス率が高くなってしまいます。これは、通常の入力作業の場合、「文字の確認」「入力」「入力内容の確認」といった作業工程がほぼ同時に発生するため、集中が散漫になり抜けが出てしまうのではないかと考えます。
そこで、彼には文字の入力をキーボードメインから先ほどの「音声入力」をメインに切り替えて実施してもらうことになりました。その結果は「〇」でした。マイクを装着し、アンケートにある自由回答を音声としてPCに認識させます。これまでの入力作業では「文字の確認」と「入力」は別の作業だったのですが、「文字の確認」と同時に「読む」作業をすることで、「入力の漏れ」は大きく改善されました。「音声入力」をすると、誤変換が発生するのですが、その確認作業を改めて実施することでかなり精度の高い結果を残すことができました。
このような、新しいツールを掛け合わせることで、障がいの部分を補うことができるということを改めて気づかせてもらう機会となりました。
そして、最後は「業務の振り返り」です。前日に続き、2日目の振り返りも積極的に意見を交わしていました。
今回の業務はこの後も数日にわたって実施され、最終的に参加者個々の結果を見ることができました。阪和興業株式会社の辻様が曰く、「個人差はあるものの、参加された皆さんを実習もしくはトライアルの形で、話を進めていきたいと思います。」ということでした。おそらく、従来からある求人だけではなく、『テレワークによる障がい者の雇用』の実現にハードルをひとつ越えたという感触がありました。
そして、今回のテーマである「テレワークに障がい者の雇用」がいよいよ本格的な形として実践していけるまで進んできたということは、企業にとって大きなメリットになると改めて感じました。
国や厚生労働省は2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催に合わせて、企業のテレワーク導入を推進しています。そのため、導入に際して活用できる助成金制度も用意されており、もしかすると法律による促進など進んでくると思います。現在、法定雇用率が満たされていない状態のために納付金(罰金)を支払っている企業はもちろん、法定雇用率を達成していてもその先の障害者雇用を想定した求人を進めている企業にとっても、この「テレワークによる障がい者の雇用」は検討材料のひとつとしていいのではないでしょうか。
これからの障害者雇用を助成金の活用や義務感以外で進めていても、何の策も持たないのであれば、遅かれ早かれ大きな壁にぶつかることでしょう。