映画:『星より静かに』

今回は発達障がいをテーマにした映画をご紹介します。
タイトルは『星より静かに』。仕事仲間から当作品のことを耳にしました。
邦画で発達障がいを取り上げた作品ということで、ネットで検索をしてみると小さな劇場での上映しかありませんでした。上映期間も限られていたため「劇場では見れないかもなぁ」と思いながら、近くの鑑賞できそうな劇場を探したところ、残り3日で終了とあったので滑り込みで観てきました。

【あらすじ】

ADHDと診断された君塚匠監督のカミングアウトをきっかけに描くドキュメンタリー×ドラマ映画のオリジナルストーリー

ADHD−“注意欠如・多動症”という意味を持ち、年齢あるいいは発達に比べて注意力が足りない、衝動的で落ち着きがないといった特性がある。現在、日本にはこの症状がある人が300万人いるとされており、正式な診断を受けていない人も多く、実際の人数はさらに多い可能性がある。55歳でADHDと診断された君塚監督は、「一人でも多くの人にこの症状を知ってもらい、生きやすい社会になってほしい」という思いから、映画を制作することを決意した。

君塚監督自身の実体験を基に描き出されるドラマ映画パートはADHDである夫(内浦純一)と彼を支える妻(蜂丸明日香)、ADHDの特性を持ちながら仕事に取り組む息子(三嶋健太)と見守る母(渡辺真起子)の思いや葛藤など日常が映し出され、当事者と支える家族の想いが丁寧に描き出される。

また、ドキュメンタリーパートでは監督自らスクリーンの前に立ち、街ゆく人々や、日頃から関わりのある人々、精神科医、薬剤師、講師を務める専門学校、さらには就労移行支援事業所を訪ね歩き、ADHDに対するさまざまな声に耳を傾けていく。映画は次第にドラマと現実の境界線を越え、登場人物を見つめる私たちの体内に複数の時間を宿し、目の前にある世界をほんの少し豊かにしてくれる

※「星より静かに」公式HPより抜粋



◯監督自身がADHD当事者

まずこの作品の大きな特徴は監督の君塚匠氏ご自身が発達障がいのADHD(注意欠如・多動症)であるということです。
そしてテーマが「ADHD」であることから、障がいの当事者である監督のこれまでの経験や体験をもとに制作されています。作品の主人公であるADHDの夫(=障がいの当事者)とその妻(=家族)がおくる普段の生活の中で見られる出来事や心の動きを見る側にも分かりやすく伝えられていると感じました。

ADHDの夫とその妻が作中で見せる描写やエピソードは決して特別なことではなく、日常の中で当たり前のように見られる光景です。発達障がい由来の出来事では、当事者や近い関係性のある人は、時に笑ったり、時にはどうしようと途方に暮れることなど、たくさんのことを経験・感じることがあります。

近年はさまざまなメディアで発達障がいという言葉を見たり聞いたりすることが多くなりました。一方で、発達障がいを指すイメージが先行し過ぎてしまい、当事者やその家族が経験していること、伝えたいことが正しく発信されないことも少なくありません
全てを知ることは難しいことですが、作品を通じて発達障がいのことを正しく認識してほしいという君塚監督からのメッセージが強く感じられました。



◯進行は「ドラマ映画パート」と「ドキュメンタリーパート」

もうひとつの特徴が、夫婦の生活を中心としたドラマ仕立てによるストーリーと君塚監督自身が当事者としてこれまでに関わってきた関係者(主治医、薬剤師など)や自身が利用者としてお世話になった就労移行支援事業所の方々へのインタビューで構成されています。
ドラマ映画パートで演じられたエピソードは君塚監督自身が過去に経験したことをベースに制作されています。各エピソードの背景や当時の心境について、君塚監督に関わってきた方々との会話を通して映像化されています。中でも利用者として通所されていた就労移行支援事業所からの協力のもと、代表や支援者、実際に通所されている利用者の方々がインタビューに答えたり、演者として出演されているところは非常にリアリティさを強く感じました

就労移行支援事業所の様子を実際に目にする機会は少ないですから、他の利用者や日々障がい者を支援している支援者の生の声を聞くことができるのはリアリティが感じられる面白い試みであると思います。



◯ステレオタイプにならず個々の違いに目を向ける

さまざまな形で伝えられる発達障がいの特性やエピソードは、発達障がいのことをよく知らない人にとってインパクトを残す一方で、一括りの存在や偏った認識になりがちな点が障がい者の理解には大きな障壁になると感じています。
この作品も観ているときには、ADHDとは「注意が散漫である」「思いつきで発言・行動をしてしまう」「途中で物事を投げ出してしまう」などに意識が向きがちです。当事者にとって、この世の中から求められていることや見られていることがある中で、その社会で暮らすことでどのように感じているのだろうか。もし、周囲が発達障がい者に対して「異質な存在」であると感じているのならば、そのような世界で生きていくことがどれだけ辛くて息苦しいものであるかと想像してしまいます。

ただ、ストーリーはADHDのネガティブなところだけに焦点を当てているのではありません。自分と違うところが多くある障がい者という存在を、否定するのではなく受容するにはどうすればいいのかを気づかせてくれるヒントが隠されている作品となっています。
障がいの有無に限らず、自分と違う他者を受け入れることができると違った世界観を知るきっかけになると考えさせる映画でした。



映画『星より静かに』公式サイト
https://hoshiyori-shizukani.com/

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[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

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