就労移行支援事業所Neuro Dive 見学リポート

今回お話を伺った、支援員の早川さんとセンター長の吉田さんが、就労移行支援事業所ニューロダイブの看板の前で立っています。

筆者は10月24日のミルマガジンコラム「米国IT企業から世界に広がるニューロダイバーシティ、日本の障害者雇用の新たな切り札となるか」で、「ニューロダイバーシティは日本でも始まる」と予測しました。

米国IT企業から世界に広がるニューロダイバーシティ、日本の障害者雇用の新たな切り札となるか

2019.10.24

それがまさに始まったことを象徴するように、11月1日、東京・秋葉原にAI特化型の就労移行支援事業所「Neuro Dive」(ニューロダイブ)が開設しました。
日本は、これからの社会を牽引していくAIやデータサイエンスの人材不足が深刻で、この分野で世界に遅れをとっている、と政府も企業も危機感を持っています。
かたや障がい者の法定雇用率を達成している企業は45.9%にとどまり、特に情報・通信業になるとその割合は25.4%にまで下がります(平成30年厚労省)。2020年度末には法定雇用率が2.2%から2.3%に引き上げが決まっており採用ニーズはさらに増える見込みですが、外注化や事務職の自動化(AI、RPA)により障がい者への業務切り出しは限界にきており、新たな職域拡大が必要になっています。

発達障がい者の雇用は待ったなしです。発達障がい者の多くが、周囲の間違った思い込みや理解不足により、働く能力があるにも関わらずそうでないとされ、埋もれた人材となっています。この中には、プログラミングや論理的思考力や語学力などに優れた人材もいます。
Neuro Diveはまさに、高スキルの発達障がい者と、AI・データサイエンス人材不足に悩む企業の橋渡し役になろうとしている就労移行支援事業所です。筆者は早速、見学・取材に訪れました。

PCの画面で、スーパーデータサイエンスという文字が表示されています。

施設内の机・椅子・PCはスタイリッシュなデザイン。教材には紙の書籍はなく、全てPCを通したテキストやeラーニング教材。

Neuro Diveは、データサイエンスの基礎を学ぶことを目指す、一般企業への就職希望のある18~65歳の発達障がい、精神障がい、難病のある人を対象(一部、身体障がい、聴覚障がい、視覚障がいも対象)にした就労移行支援事業所(国の認可した障がい者向け就労福祉事業所)です。
障がい者の就労支援会社として実績豊富なパーソルチャレンジ株式会社(総合人材サービスのパーソルグループの特例子会社)が母体です。

Neuro Diveのプログラム内容は主に、米国発の世界最大級オンライン学習プラットフォームUdemy for Business(ユーデミー・フォー・ビジネス)によるeラーニングです。Udemyには幅広いテーマの講座が10万以上あり、Udemy for Businessはその中でもビジネスで活用できる良いコンテンツを3,000~4,000厳選したものになっています。基本的に日本語の講座が主ですが、英語の得意な人はアメリカのエンジニアが投稿したコンテンツで学習することもできます。Udemyは有料制ですが、Neuro Diveの利用者になれば無料で受講できるというメリットがあります。

最新の講座の中からモデルコースをデータサイエンスに精通した支援員が提示し、利用者一人ひとりに個別の学習計画を立て、自分のペースで学習を進めることが可能です。分からないことは講座の開設者に質問して解決できます。
先端ITであるデータサイエンスを教えられる人材はまだ少なく確保が非常に難しいです。事業所の講師が教える学習とeラーニングという方法を使うことは利用者にとっても支援事業所にとってもメリットがあります。

PCの画面で、ユーデミーの講座、ジュピター 演習3 が起動してます。数字が羅列されています。

プログラム実行環境Jupyter Notebook上でpython言語を用いた近似曲線の描写を学ぶUdemyの講座。実際に手を動かしてプログラムを動かします。利用者は疑問があった場合、事業所の支援者やUdemyのシステム内で講座開設者に質問できます。

データマーケティングに携わってきたテクノロジー担当支援員の早川さんは「いずれは自己学習だけでなく、グループワークで論文をKaggle(カグル。世界中の機械学習・データサイエンスに携わる人々が集まるオンラインコミュニティ。企業や政府が課題を提示し、その解決策の論文を競うコンペがある)で発表するような実践的なこともやっていきたい」と述べました。
また現在、最先端のAI論文の大半は英語で発表されています。Udemyの英語講座を学習することで、最新論文の読解に必要な語学力を伸ばすことも可能です。

早川さんは、AI人材に必要とされることとして、以下の3つのバランスを保つことを挙げました。

重なり合った3つの円です。1つ目の円にはビジネス力、2つ目の円にはデータサイエンス力、3つ目の円にはデータエンジニアリング力と書いてあります。

図はNeuro Dive説明会資料より

  • ビジネス力 課題背景を理解したうえで、ビジネス課題を整理し、解決する力
  • データサイエンス力 情報処理、人工知能、統計学などの情報科学系の知恵を理解し、使う力
  • データエンジニアリング力 データサイエンスを意味のある形に使えるようにし、実装、運用できるようにする力

これら3つの能力はつながっており、上の図の中を常に回っているイメージです。

AI導入を例に取ると、AIの仕組みを導入すること自体を目的にするのではなく、そのAIを使ってどんな経営課題を解決するか/ビジネスに変革をもたらすかを念頭に置き、精度の高いAIを実現するためにどんなデータを集めることが必要なのかを考えることが重要になってきます。つまりデータを集める目的を先に考えて、そこから逆算して考えていくことが求められるのです。
そのうえで早川さんは、「利用者にはただ技術を学ぶだけでなく、学んだ技術を使ってその企業が抱える課題を解決する姿勢を身に付け、ビジネスを動かせるようになってほしい」と述べました。データサイエンスの難しさは、「言語化」と「抽象化」という相反する両方の能力が必要であることに加え、変化の多い業界でもあることから、たとえ一緒に働く人や使うプログラミング言語などが変化しても体調を崩すことなく逆に変化を楽しめるというスタイルを身に付けることも大切、ということです。

Neuro Diveには他にも、パーソルチャレンジがCSP(コミュニケーション・サポート・プログラム)や就労移行支援サービス・ミラトレで築いてきたノウハウを活かした、自己分析、ビジネスコミュニケーションスキル、セルフコントロール(アンガーマネジメント)、発信力・質問の仕方、就職活動・面接対策などの講座もあります。

今後の障害者雇用において、就労移行支援事業所と企業の連携はますます重要になってきます。パーソルチャレンジは3500社以上と取引し、人材紹介・雇用体制作りなどの非常に手厚いサポートで年間1500人以上の障害者雇用を実現してきました。Neuro Diveも同様に活動していく考えです。
IT業界は拘束時間が長くなりがちな現状があります。センター長の吉田さんは、「障がい者は時間に配慮すれば活躍できる。障がい者にも企業に貢献できる価値のある仕事ができることを、企業にもアプローチして伝えていきたい」と述べました。これまでの就労支援の多くにあったような「せめて単純作業にでも就かせられるように」という時代は終わりにし、日本の障害者雇用まで変えていくというコミットメントがあります。

近年、米国の大手IT企業などが、ニューロダイバーシティ・プログラムを通して自閉症などの発達障がい者を優秀なAI・IT人材として活用し、実績を上げています。これらの企業はそのプログラムを世界の支社にも広げています。やがては日本にも上陸するでしょう。
米国発のニューロダイバーシティ・プログラムは外部の自閉症に詳しい専門家の助言を聞いて作られましたが、日本の場合も障がい者のプロである就労定着支援事業と企業の連携があれば進むでしょう。そしてこうした事業所が採用ルートになりそうです。
高度なIT人材の採用を考える企業の方は、一度ご見学してみてはいかがでしょうか。

施設情報
施設名:就労移行支援事業所Neuro Dive
センター長:吉田 岳史
設立日:2019年11月1日
業種:就労移行支援
事業内容:データサイエンスなどを学べる就労移行支援事業
所在地:東京都千代田区神田須田町2-25-16 日宝秋葉原ビル 4階
ホームページ:https://challenge.persol-group.co.jp/datascience/

ABOUTこの記事をかいた人

▼プロフィール:
神戸市生まれ、都内在住。翻訳者・ライター。大学在学中に広汎性発達障がいの診断を受ける。発達障がいにより人間関係に困難さを抱えた経験を経て、ダイバーシティ&インクルージョンの進んだ外資系企業で新たな経験をする。障がい者が活躍できる社会を願い、当事者・社会双方に向けたメッセージを発信したり、相互理解とつながりを広める活動を行う。

NPO法人「施無畏」で、障がいのある女性向けフリーペーパー「ココライフ女子部」の制作や、障がい者に関する調査に関わる。ミルマガジンでは海外の障がい者雇用事情をリサーチ・翻訳・分析した記事を執筆する。

ブログ「艶やかに派手やかに」
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LinkedIn(Yuko Hasegawa)
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▼執筆メディア
障がい・難病の女性向け季刊フリーペーパー「CoCo-Life☆女子部」
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障がい者調査シンクタンク「CoCo-Life調査部」
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