コロナ禍で障がい者雇用はどんな影響を受けているのか―当事者に聞いた

昨年1月以来、世界中に拡大した新型コロナウイルスパンデミック。日本ではワクチン接種が始まって数か月が経ちますが、一向に収まる様子がありません。

筆者は、コロナによる障がい者雇用への影響がずっと気になっていました。昨年11月のNHKの報道で、2020年1月から9月までに解雇された障がい者はおよそ1200人に上り、前年同期比で40%増でした。

今回は、コロナの影響を受けながらも働く当事者と、就職活動をする当事者に、話を聞きました。

9か月の自宅待機 テレワークができない視覚障がい者も

Aさんは、生まれつき視覚障がいがあります。右目は全く見えず、左目は視力0.01程度。明るくまぶしいところや薄暗いところではほとんど見えません。コロナ前は、情報サービス企業でパソコンを使って簡単な事務作業に就いていました。その傍ら、社内外向けセミナー・イベントで盲導犬の理解のための講演もしていました。

しかしコロナ拡大が始まった2020年3月、Aさんは会社から自宅待機を指示されました。

自宅待機の間は、盲導犬と近所を散歩したり、映画・ドラマを動画配信サービスで視聴したりしながらも、視覚障がい者関係のオンラインでのセミナーや勉強会に出席したり、友達とオンラインで会話するなどして、社会との関わりを持つようにしていました。テレワークの環境が整えば仕事を再開できることが分かっていたので、仕事に役立ちそうなビジネス書なども読んでいました。

12月になって会社から連絡が入り、やっとAさんはテレワークを開始できました。この時には会社に、テレワーク用パソコンへのスクリーンリーダーのインストールおよび設定をサポートしてもらいました。

テレワークになってからも、Aさんの仕事内容は特に変化はありません。
しかし、チームメンバーに対して積極的にコミュニケーションをとったり、業務の進捗を自ら伝えていかないといけない場面が増えました。視覚的に確認することが難しい時にすぐサポートを受けられない不便さはあり、そこでAさんはチームメンバーに遠隔でサポートしてもらったり、会社のヘルプデスクとやり取りをするなどして、解決しています。

Aさんはまた、「会社によってはテレワークでのパソコン環境が整わず、スクリーンリーダーで対応できないシステムがあったりするので、テレワーク自体をできない視覚障がい者もいる」と語りました。

Aさんにとってテレワークは、「通勤の負担が減り、移動の安全が確保されている面ではメリット」と語っています。しかし、「業務面では視覚的なサポートが受けられず、コミュニケーション面においても不安を感じている。さらにテレワークだと仕事や休憩の切り替えが難しい」とも語りました。

感染対策しながら就労訓練 オンライン実習も

Bさんは、2020年1月から都内の就労移行支援事業所に通所しています。

事業所では、席数を減らして密にならないようにするなどの工夫が取られています。事業所で訓練を受ける人数を制限し、一部の利用者にはシフト制で在宅訓練をすることになっています。在宅訓練はGoogle Meetなどを使いながら行っています。Bさんも在宅訓練を体験しました。

コロナの影響で、Bさんはメンタルにも不調をきたしたことがあるようです。「ネット上だと言葉だけのコミュニケーションなので、意図がうまく伝わない事があり、心がもやもやする」と語ります。しかし、通勤時間がないこと、必要な資料にすぐ手が届くことで、在宅訓練には満足しています。

Bさんは現在、IT業界(特にSaaS企業のような最先端企業)を目指しています。「年齢に対してスキルセットや経験が不足しているのではないか」という懸念があり、支援員と相談しながら就職活動をしています。

コロナ拡大で、障がい者向けの企業実習も中止されるケースが相次ぎました。しかしながら、オンラインで実習を行う企業も現れました。Bさんもオンライン実習に参加しました。「耳からの情報のインプットに弱いという自分の苦手さが把握出来てよかった。苦手な部分は、チャットでの雑談ルームでカバーできた」と語っています。

コロナ禍でも障がい者雇用を後退させないために


コロナ禍でも障がい者雇用が後退することのないように、様々な取り組みが行われています。

株式会社ゼネラルパートナーズが企業向けに、障がい者雇用へのコロナの影響を調査した結果によると、大企業では2社に1社の割合で「この1年で雇用が増えた」と回答しており、また来年度の障がい者雇用計画で「雇用を減らす」と答えた大企業は0でした。
一方で中小企業では「雇用が増えた」と回答した企業の割合は2割にとどまっており、来年度の障がい者雇用計画で雇用を「減らす」あるいは「未定」と答えた中小企業の割合は2割でした。

障がい者雇用コンサルタントの松井優子氏は、コロナ拡大後の障がい者の働き方をテーマにした電子書籍を出版しています。雇用する企業向けには『これからの障害者雇用はどうなるのか』、働く障がい者向けには『これからの時代、障がい者枠で働くために求められること』。いずれも大変参考になる内容です。

障がい者のテレワーク導入がなかなか進まなかったケースがあった一方で、好事例も発表されています。コロナ前から発達障がい者の戦力化でNHKなどのメディアにも注目されていた、株式会社グリービジネスオペレーションズは、総務省が主催する「テレワーク先駆者百選」に選ばれました。
グリーはグループ会社全体で2020年2月中旬以降、テレワーク勤務を導入しており、 同社においても在籍社員46名を対象にテレワークを導入し、障がいの特性に合わせてオフィス勤務と同様の業務を行えるよう環境を整えました。また、テレワーク支援金の支給など費用面でのサポートも行っています。

株式会社ミライロも、障がい者のテレワークに関する情報を提供しています。
「視覚障害者のテレワーク」メリット・デメリット
聴覚障害者がテレワークを実施する上で必要な配慮とは?
【車いすユーザーのテレワーク】メリットとデメリット

コロナに関する報道を見ていると、気が滅入ってしまうのも分かります。
しかし、必要以上に不安にならないことも大事だと思いました。

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▼プロフィール:
神戸市生まれ、都内在住。翻訳者・ライター。大学在学中に広汎性発達障がいの診断を受ける。発達障がいにより人間関係に困難さを抱えた経験を経て、ダイバーシティ&インクルージョンの進んだ外資系企業で新たな経験をする。障がい者が活躍できる社会を願い、当事者・社会双方に向けたメッセージを発信したり、相互理解とつながりを広める活動を行う。

NPO法人「施無畏」で、障がいのある女性向けフリーペーパー「ココライフ女子部」の制作や、障がい者に関する調査に関わる。ミルマガジンでは海外の障がい者雇用事情をリサーチ・翻訳・分析した記事を執筆する。

ブログ「艶やかに派手やかに」
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LinkedIn(Yuko Hasegawa)
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▼執筆メディア
障がい・難病の女性向け季刊フリーペーパー「CoCo-Life☆女子部」
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障がい者調査シンクタンク「CoCo-Life調査部」
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