レポート:松田崇弥(株式会社ヘラルボニー代表取締役社長)×小澤綾子(車椅子チャレンジユニットBEYOND GIRLS)クロストーク

2021年3月6日、車椅子チャレンジユニット「BEYOND GIRLS」が主催し、知的障がいのある作家のアート事業を手掛ける株式会社ヘラルボニー代表取締役社長の松田崇弥(たかや)さんと、「BEYOND GIRLS」リーダーの小澤綾子さんが、オンラインで対談するイベント「Beyond Story」が行われました。
その模様をレポートします。

「違いを楽しもう」小澤綾子 ライフストーリー

(語り手は小澤さん)

私は3つの顔を持ちます。外資系IT企業で人事として働く社員、主婦、そして障がいへの理解をテーマに個人やユニットで発信する社会活動家。
筋ジストロフィーという筋肉がなくなっていく難病の進行により、3年前から車椅子生活になりました。

小4の時から、身体が動かしにくいことで困るようになりました。学校でのマラソンや体育の時間。頭で「走れ」と命令していても、身体が動きませんでした。
クラスメート達からは「もっと早く走れ」。
先生からも「もっと真面目にやりなさい」。
友達の前では、みんなに認めてもらいたくていい顔をしていたけど、本当は誰かに分かって欲しかった、それを誰にも言えなかった。布団に入って泣いていました。「どうしてみんなと違うんだろう?」

20歳になり、その理由がやっと分かりました。「筋ジストロフィー」という診断。ここで初めて「自分はサボっていたわけじゃない」と分かり、ホッとしました。
でもそれと同時に、「車椅子になったら人生終わる!」という絶望が襲ってきました。私は、それまでに車椅子や寝たきりの人を見たことがなかったから。私は何歳まで生きられるんだろう。就職や結婚は無理だろう。そう考えていくうちに、鬱っぽくなってしまいました。

そんな私に、人生を変えた出会いがありました。

一つは、厳しかった病院の先生。
リハビリよりも、人生をどう生きていくべきかを教えられました。でもあの頃の私には分からず、「どうして病気を治してくれないの」と思い込んでばかりいました。そんな私に先生は、「このまま寂しく死ぬんだね?」。私は「先生をぎゃふんと言わせよう」と思って、様々なチャレンジを始めました。海外留学、スキューバダイビング…。そうしていくうちに、気が付いたら色々なことができるようになっていきました。

もう一つは、インターネットを通じて知り合った、30年間寝たきりの男性、えいじさん。
とてもアクティブで、「秘書が欲しい」と言うほどでした。えいじさんは素敵な曲を作っていましたが、残念ながら亡くなってしまいました。私はいま、全国を回ってえいじさんの作った曲を歌っています。

そして、車椅子でもイケイケな2人の女性。
私は彼女らと一緒にBEYOND GIRLSというユニットを結成しました。BEYOND GIRLSの活動内容は、「違いを楽しもう」をコンセプトに、車椅子で様々なことにチャレンジすること。

「障がい者」「寝たきり」という言葉にとらわれずに生きたい。つらい時よりも、幸せ・楽しいと思う時を大切にしたい。

小澤さん(中央)がリーダーを務めるBEYOND GIRLS。左は梅津絵里さん、右は「車椅子インフルエンサー」を名乗る中嶋涼子さん。一緒にコンサートやイベントに出演したりしています。

小澤綾子 プロフィール
千葉県君津市生まれ。20歳のときに進行性の難病「筋ジストロフィー」と診断される。
「筋ジスと闘い歌う」ことを掲げて活動。イベント・企業公園・学校・病院などで講演やライブを行い、病気・障がいの認知活動を行っており、全国・海外での公演を行う。
普段は外資系IT企業に勤務し、若手エンゲージメント向上プログラム開発・全社員向け研修などを担当している。
2019年に著書『10年前の君へ 筋ジストロフィーと生きる』を出版。
HP:筋ジスと闘い歌う 小澤 綾子
BEYOND GIRLS HP:BEYOND_GIRLS

「障がいは欠落ではない」松田崇弥 ライフストーリー

(語り手は松田さん)

私が代表取締役社長を務める「株式会社ヘラルボニー」は、「福祉」×「アート」を軸に、実験的な事業を運営しています。
福祉施設に通いながら創作活動をしている知的障がいのある作家とアートライセンス契約を結び、彼らのアート作品を多方面に使用してもらうよう提供し、ライセンスフィーを適切な金額で作家に還元していくという事業です。

私には、ヘラルボニーを共同創業し副代表を務める双子の兄弟の文登(ふみと)と、4つ年上の兄の翔太(自閉症、重度知的障がい)がいます。
幼いころ、周囲から「兄貴の分まで一生懸命生きろ」と言われることに、どうしても納得いきませんでした。なぜ兄は障がいがあることで「かわいそう」という前提なのか。それを変えたい、という思いがありました。

そんな私でしたが、「普通と違うこと」への圧力に抗えず、兄を拒絶してしまっていた時期もありました。中学校時代、クラスメイトの間で差別的な言葉が日常的に交わされていました。私は、自閉症の兄がいることが明るみになることで排除のターゲットになるのでは、という恐れを抱くようになりました。そのことから、兄とは一時「自宅内別居」状態になってしまいました。
高校の頃からは、兄と関係性が改善しました。美術系の大学に進学した頃からは、一緒に旅行するほどになりました。

ヘラルボニーの社名の由来は、兄が7歳のころに自由帳にたくさん書いていた謎の言葉「ヘラルボニー」から。この言葉を書いた兄自身も、この言葉の意味をわかっていないようでした。
私は、きっと自閉症やダウン症の人には、心では「面白い」と思っているけれど、言語化できていない何かが多くあるのではないか、と思っています。ヘラルボニーという社名には、「一見意味がないと思われる思いを、企画して世の中に価値として創出したい」という意味が込められています。

ヘラルボニーでは現在、全国の福祉施設から2000点以上のアート作品のアーカイブを収集しています。契約する作家には、例えば、「ある作風が繰り返されたと思えば、ある時期を境に作風ががらりと変わり、次は別の作風が繰り返される作家」、「字と字をつなげてしまうこだわりのある作家」、「平面図に色とりどりの色を塗る作品を40年間描き続けた作家」などがいます。自閉症やダウン症の人の表現の面白さは、繰り返しの表現方法にあります。

ヘラルボニーが売るのは、「知的障がい者が描いたアートプロダクト」ではなく、「障がいは欠落ではないという思想」

私が3年前に創業した頃に見た、福祉施設に通う知的障がい者が、3日かけて作った立派な革細工が、500円で売られている現実…。「知的障がい者だから、この値段でしかできない」ではなく、プロデュースする側の力で高く売れるように変えていくこともできるのではないか。

まずは、彼らのアート作品をデザインしたネクタイやハンカチの販売から始めました。そうしていくうちにデザインが評価され、今では様々な方面に彼らのアート作品が使われるようになりました。オフィスの壁紙、ホテルの内装、スポーツチームのユニフォーム、建設現場の仮囲い、駅ラッピング…。
私達が大切にするのは「理由をデザインすること」。なぜ数あるアーティストの中からヘラルボニーを選んでもらうのか。企画をするたびに、その理由付けを考えています。

私達は昨年、ある政治家の発言がニュースで伝えられたことを機に、意見広告「この国のいちばんの障害は『障害者』という言葉だ。」を発表しました。政党批判ではなく、「障害者」という言葉にあるバイアスを考えてもらうきっかけになることを意図しました。

知的障がいのある方が描くアート作品には、予定調和・バイアスを破壊する力があります。
これからも私達は、彼らの作品をどんどん世に出して、価値が付くようにしようとしています。

アート作品を使ったヘラルボニーの広告。

松田崇弥さん プロフィール
岩手県出身。2018年に双子の兄弟の文登氏と株式会社ヘラルボニーを共同創業し、代表取締役社長に就任。2019年にビジネス誌フォーブスの「世界を変える30歳未満の30人」にソーシャルアントレプレナー部門から選ばれた。

株式会社ヘラルボニー 会社概要
代表取締役社長 松田崇弥/代表取締役副社長 松田文登
主な事業内容:知的障がいのあるアーティストが描いたアート作品の社会実装(作品販売・ファブリック展開・制作物・空間演出)
本店所在地:〒020-0026 岩手県盛岡市開運橋通2-38 @HOMEDELUXビル 4F
東京拠点:100BANCH(渋谷)
会社HP:株式会社ヘラルボニー – ”異彩を、放て。”をミッションに掲げる福祉実験ユニット

「アートや歌には、人の心を動かす力がある」小澤綾子×松田崇弥 クロストーク

小澤さんと松田さんのクロストークの模様。手話通訳付きで行われました。

  • 小澤 ヘラルボニーの数々の成果やスピード感には、驚かされています。
  • 松田 ありがとうございます。これは時代の流れだと感じています。「知的障がいのイメージ変えよう」と思って始めたら、SDGsやダイバーシティが乗っかってきました。
  • 小澤 私の小学校時代に比べると、多様性を受け入れるようになってきているのを感じます。ヘラルボニーはまさにその時流に乗っていると思います。
    それに、ハイブランドとして確立されているんですね。私もショップに行ったのですが、アートがプリントされた商品を見て、「障がい者だから応援しよう」ではなく、「すごい」とテンションが上がります。
  • 松田 会社を始める時に、「福祉やアートに関係がない人でも欲しいと思えるものを作ろう」と思ってきたので、そう言っていただければありがたいです。
  • 小澤 松田さんがアートに注目するようになったきっかけは何だったんでしょう?
  • 松田 岩手のるんびにい美術館で、今ヘラルボニーと契約している作家の佐々木早苗さんの作品を見て、感動したことが始まりです。
  • 小澤 それは人生を変える出会いだったんですね。アートや歌には、人の心を動かす力があります。感性に訴えていく力が。
  • 松田 そうですね。障がいがあろうとなかろうと、いいものはいい
  • 小澤 松田さんの話を聞いていて、「障がい者を馬鹿にしていた同級生の1人を見返してやる」と言っていた話が印象に残っています。私も、元いじめっこををギャフンと言わせたいし、一生忘れない気持ちはあります。ただその元いじめっこからは「何かあったら応援するよ』と言われたんですね。
  • 松田 僕もそんな経験があります。中学校時代の元いじめっこが、今では電話で「商品買うよ」と言ってくれて。

ある政治家の発言に潜んだ問題を意識したヘラルボニーの意見広告「この国のいちばんの障害は『障害者』という言葉だ。」(2020年2月筆者撮影)

  • 小澤 松田さんはすごいし、これからも世界を変えていってほしい。新しい時代の人が変化の種をまいているのかもしれない。
    ヘラルボニーは、作家の障がいを抜きにして「かっこいい」と思える作品を発表している。意見広告「この国のいちばんの障害は『障害者』という言葉だ。」は、皮肉たっぷりで、意図もあり、パワフルなアート作品になっています。
  • 松田 その「障害者という言葉」なんだけど、小澤さんが、「病気が分かった時に「障がい者」という枠組みに入ることで安心した」と言っていたのを聞いて、そういうこともありうるんだな、と思いました。
  • 小澤 病気が分かった時には、「名前がついた」「許された」気持ちになったんですね。
    でも、「障がい者」のイメージに収まることで失うものもある。「障がい者」という言葉の向こうにある多様性というか、1人1人の違う個性を伝えていけたらいいな。
  • 松田 当社ではクライアントを福祉施設にアテンドして、作家の制作風景を見てもらうこともあります。最初は「障がい者にはどう接したらいいんですか?」と戸惑っていたクライアントが、「〇〇さんはすごいですね」と言って帰っていく。
  • 小澤 社会の障がい者への見方がヘラルボニーを通して変わっていくのは、同じ障がいをもつ者としてうれしいです。私も、自分が社会に出ていくことで、障がい者のイメージを覆していこうとしています。表に出る時には、障がいのある人が着なさそうな服を着て出たり。
  • 松田 かつてキモイと言われていた「オタク」が今「クールジャパン」の象徴のようになったように、障がい者も「自分にない感覚を持っている人」という捉え方になっていくんじゃないかな。
  • 小澤 そういうムーブメントになったらいいな。今、社会でも会社でも教育でも、没個性というか、金太郎飴になりがちなところを、「違っているから素敵」と楽しめる社会にしていけたらと思うし、そういう風潮になってきているな、と思います。
  • 松田 渋谷区も「ちがいをちからに変える街に」と言っているからね。

~あとがき~

松田さん、小澤さん、両者ともとてもアクティブで素晴らしい方々です。それぞれの活動は、大変意義のあるものであり、多くの人にとって励みになっています。

小澤さんは、多様性を受け入れるカルチャーのある外資系IT企業とご縁があり、障がいがあっても経済的に余裕のある生活ができ、色々なチャレンジができています。
松田さんは、企業で働く機会には恵まれないが、独自の世界を持つ重度知的障がい者に向き合い、彼らの表現方法を価値あるアートに昇華させ、色々なチャレンジをしています。

私は、多様性を受け入れるカルチャーの企業が増え、そういう企業が成長したい障がい者の雇用をリードしてくれたら、と思っています。一方で、アートの才能のある障がい者には作品が世に出て適切なフィーが支払われる体制が整えば、とも思います。

障がい者の自立には、その人の周囲に「違いを受け入れよう」という人がどれだけいるのかが大きく関わってくる、と改めて思いました。

注釈)ミルマガジンでは通常「障がい者」と表記していますが、一部に意見広告のオリジナルの表記を尊重し、「障害者」と表記している箇所があります。

ABOUTこの記事をかいた人

神戸市生まれ、都内在住。翻訳者・ライター。大学在学中に広汎性発達障がいの診断を受ける。発達障がいにより人間関係に困難さを抱えた経験を経て、ダイバーシティ&インクルージョンの進んだ外資系企業で新たな経験をする。障がい者が活躍できる社会を願い、当事者・社会双方に向けたメッセージを発信したり、相互理解とつながりを広める活動を行う。

NPO法人「施無畏」で、障がいのある女性向けフリーペーパー「ココライフ女子部」の制作や、障がい者に関する調査に関わる。ミルマガジンでは海外の障がい者雇用事情をリサーチ・翻訳・分析した記事を執筆する。

ブログ「艶やかに派手やかに」
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▼執筆メディア
障がい・難病の女性向け季刊フリーペーパー「CoCo-Life☆女子部」
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障がい者調査シンクタンク「CoCo-Life調査部」
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