2019年に内閣府から公表された「平成30年度調査」によると、推計で40~64歳のひきこもりが61万3千人いると分かりました。
この数は前回の調査(2015年)で分かった15~39歳のひきこもりの推計54万1千人を上回る値となりました。また、ひきこもり状態になってからの期間が7年以上になる人が半数近くもおり、これまで考えられていた「ひきこもりは若年層」に限定されたものではないことと合わせると、「ひきこもりとなった人の高齢化と長期化」がクローズアップされることになりました。
「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態」を「ひきこもり」と呼んでいます。
「ひきこもり」は、単一の疾患や障がいの概念ではなく、様々な要因が背景になって生じます。ひきこもりのいる世帯数は、約32万世帯とされています。
【厚生労働省HPより引用】
ひきこもりには「8050問題」と呼ばれる課題があり、高齢(80代)の親が中高年(50代)のひきこもりを抱えた家族を指し、定職に就かない子をいつまでも親が扶養し続けないといけない状態は非常に深刻な問題へと発展する可能性があります。
このような実態が明らかになる中、これまで行政のセーフティネットに掛かることが少なかったひきこもりに関する支援が各自治体で始まりました。
今回ミルマガジンでは神戸市が取り組むひきこもり支援をご紹介したいと思います。
取材には神戸市 福祉局 神戸ひきこもり支援室 担当部長の松原雅子氏と同市から支援の受託・運営を実施しているNPO法人神戸オレンジの会 理事長の藤本圭光氏にお話しを聞かせていただきました。
「神戸市ひきこもり支援室」「神戸オレンジの会」について
《話・松原氏》
神戸市ではひきこもりへの支援を国が補助事業を開始した平成21年10月から始めていました。今回、8050問題等が社会問題となり相談をはじめとする支援策を充実させていくことが喫緊の課題となり、神戸市は令和2年2月3日に神戸ひきこもり支援室を開設することになりました。ひきこもりはさまざまな要因が絡み合っており複数各種の専門的な機関から支援が必要であるため、複合的な課題に対応できるワンストップの窓口として活動をしています。
内閣府の調査(冒頭)では中高年のひきこもり対策が課題に上がる中、当支援室にも開設後から相談の問合せ件数が増加しています。
《話・藤本氏》
神戸オレンジの会は1998年8月にひきこもりの子どもを持つ親同士が支え合う自助グループとして立ち上げました。
当事業所では火曜日から土曜日の週5日12:00~18:00に地域活動支援センターとして活動していて、家から出てこれなかった人が集まる居場所になっています。日に8~10名の方が通所されているのですが、我々では就職などによる卒業を設けず、「はたらけるようになってから来ても良い安心できる居場所」であるようにしています。それは、就職してから安定する方ばかりではありませんし、安心できる居場所があるからこそチャレンジできる人もいます。
一度ひきこもりを経験した人が再度ひきこもりになってしまうと社会に出てくることはかなり難しくなってしまいます。そのために敢えて卒業ではなく、いつ来ても良い場所にしています。
【分身ロボット OriHime(オリヒメ)】(以下、「オリヒメ」)によるひきこもり支援について
《話・松原氏、藤本氏》
「オリヒメ」とは株式会社オリィ研究所が開発した分身ロボットで、操作する人が離れた場所からPCやスマートフォン・タブレットを使うことで、その場にいるようなコミュニケーションを取ることが可能です。我々神戸ひきこもり支援室では、ひきこもりなどが理由で外出が困難な方の社会参加を支援する方法のひとつとして、令和3年12月より全国では初めて「オリヒメ」を活用した支援をスタートさせました。
家族以外の人と関わりを始める場として、また、ひきこもりの当事者は社会からだけでなく家庭の中でも孤立してしまっている人もいるため自宅以外にも居場所ができるように情報を提供することが必要となってきます。
ひきこもりの方等が集まる居場所の存在を認識してもらうところから始まります。長らくひきこもっていた方は、何かされるところなのではないかと不安になったり、知らない人たちが集まる居場所に参加させてもらうという行為は非常にハードルが高いものになります。
そこで「オリヒメ」を使って、自宅に居ながらリモートで神戸オレンジの会にあるひきこもりの方等が集まる居場所に参加できないかと考えました。
ひきこもりの原因は病気や人間関係など様々。
特に学校や就職時に経験した心の傷が理由だと、人と接することに大きな抵抗感を持っていて、自分の顔を見られたくないと感じている人も少なくありません。「オリヒメ」では、ロボットの姿になって、身振り手振りで伝えたいことや感情を表現することもできるため、最初のコミュニケーションを取る手段としてはハードルが低くなります。「相手はロボットを見ているのであって、あなたを見ているわけではない」ということが分かると安心することができます。また、「オリヒメ」本体は軽くて持ち運びしやすいのでいろいろな場所に参加できます。
操作は非常に簡単になっていて、スマホやタブレットにアプリをダウンロードすればすぐに操作することができるようになっています。
国の施策のひとつであるひきこもりサポーターの登録者が神戸市内には100名程度おり、「オリヒメ」の操作やオリヒメの居場所参加に同行する等のサポートをしてくれます。現在、ひきこもり支援の方法は確立されていませんが、神戸市では今後もひきこもりから社会に出る第一歩をこの「オリヒメ」を活用することで、当事者とそのご家族の生活を支援していきたいと考えています。
普段、障がい者の就労に関わることが多いのですが、ひきこもりも障がい者と切り離して考えられない問題のひとつです。
今回、松原氏と藤本氏から聞かせていただいたひきこもり支援のお話しから「ひきこもり当事者とその家族を社会から孤立させない」ことだと感じました。そのためには小さな接点を重要視し、徐々に社会参加の道を進んでもらうことではないでしょうか。
取材を通して神戸ひきこもり支援室と神戸オレンジの会が取り組む「オリヒメ」を使った支援に大きな期待を感じることができました。
ご協力ありがとうございました。
URL:https://www.city.kobe.lg.jp/a77853/kenko/health/kokoro/life/soudann/hikikomori.html
所在地:神戸市中央区橘通3-4-1 総合福祉センター1階
電 話:#8900 または 078-361-3521
e-mail:hikikomori_shien@office.city.kobe.lg.jp
『NPO法人神戸オレンジの会』
URL:http://www.kobe111.jp/
所在地:神戸市兵庫区羽坂通4-2-22
電 話:078-515-8060
『株式会社オリィ研究所』
URL:https://orylab.com/
所在地:東京都中央区日本橋本町3-8-3 日本橋ライフサイエンスビルディング3 5F
『厚生労働省 ひきこもり支援推進事業 』
URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/hikikomori/index.html