取材レポート:『一般社団法人リスタート』

突然ですが「通信弱者」という言葉をご存知でしょうか。
かつて日本では「一億総中流社会」という言葉のもと、国民の大多数が「私たちの生活水準は中流階級だ。」と信じてきました。しかし、現在日本国内でも「貧困問題」がクローズアップされてきており、情報で見聞きすることも多くなったと感じるのではないでしょうか。その通り、この日本でも「貧困」は存在します。

「通信弱者」というのは、「携帯電話がないから就職活動ができない」状態の人のことを指します。
「携帯電話を持っていない=弱者・貧困」という図式がピンとこない方も多いと思います。携帯電話を持っていない方すべてにあてはまるわけではないのですが、携帯電話を持っていないために「就職ができない」「住むところがない」「銀行口座が作れない」といった問題に直面することがあります。

私たちの日常生活に必要不可欠なツールとなった携帯電話。(総務省の調べでは、2019年3月時点で国内の移動体通信(携帯電話・PHS・BWA)の加入件数は約2億4600万件となり、日本の総人口1億2709万4745人に対する普及率は193.6%となります。)実は、考えたことがありませんでしたが、今の世の中では「携帯電話の所持=個人の信用」と捉えられている場面が少なくありません。これは、携帯電話を所持する人は、契約時に身分が保証された人なのかどうかの確認が取られ、契約後も月々の携帯料金の支払い能力がある人ということになります。これがつまりは「信用」となり、携帯電話の所持が身分証となるわけです。

では、「通信弱者」になる方というのはどのような人たちなのでしょう。
例えば、健康で働いていた人がある日突然事故や病気により長期療養を余儀なくされた時に、頼れる家族や親類が近くにいなければ、一時的に社会から離脱した状態になってしまいます。その間、携帯料金の未払い状態が3ヶ月を過ぎるとブラックリストに入ってしまい、次に契約ができるようになるまで数年かかることも珍しくありません。その人は「携帯電話」という「信用」を失ってしまった結果、働ける状態にまで回復をしたとしても、社会復帰の道が閉ざされた状況に置かれてしまいます。このような状況下にある障がい者も少なくないと考えられます。
このような「通信弱者」という社会課題に関わり、ひとりでも多くの人を救済したいという気持ちで活躍している方を取材してきました。

今回、お話しを聞かせていただいたのは、「通信弱者」を対象に就労支援活動をされている『一般社団法人 リスタート』の代表 高橋翼氏です。高橋氏は、携帯電話のレンタルサービスを提供する「株式会社アーラリンク」の代表取締役でもあります。

「一般社団法人 リスタートを始めたきっかけ」について

2013年に創業した「株式会社アーラリンク」にて、一時的な連絡手段のひとつとして使用する企業や選挙活動・試験会場での運営側の通信手段として契約を伸ばす一方で、携帯電話レンタルを希望される個人客から気になるご相談がありました。
それは、事故や病気(疾患)が原因で一時的に携帯電話料金が支払えなくなったため、再度契約を結ぶことができなくなり職に就くことができなくなってしまった。という内容でした。

携帯電話が普及した現在、逆に携帯電話を持っていないことが、世の中から「信用」を得られない状態となってしまうことがあります。就職活動の場面を考えた時に、採用側である企業は書類選考や面接を通じて応募者を判断します。その判断材料の中には「連絡が取れる」かどうかというものも含まれてきます。つまり、簡単に「連絡が取れる」状態というのは、「信用」がある人と判断されてしまうわけです。これは、就職活動に限らず、「住むところ」を探す場面でも「銀行口座を作る」場面でもこの「信用」が関係してきます。それは、「連絡先がある」状態なのかどうかということです。

人生は色々なことが起こります。生きていれば、病気や事故にも遭うかもしれません。体が回復し働くことができるようになったにもかかわらず、携帯電話を持っていないという小さな理由だけで「就職できない」「住むところがない」「銀行口座が作れない」というのは、あまりにもリスクが大きすぎると感じました。

これでは、いつまでたっても貧困という負のスパイラルから抜け出すことができないと思い、この事業である『リスタート・ケータイ』を通じて就労支援を始めることにしました。

「リスタート・ケータイ」について

就労支援事業である『リスタート・ケータイ』とは、過去に携帯電話キャリア等の未払いがあり携帯電話契約が困難な方、高額な携帯電話の支払いが困難な方を支援するために「安い、安心、簡単」な商品を使えるようにサービス設計をしています。
企業で働く能力はあるが、様々な理由で携帯電話を持つことができない所謂「通信弱者」の人たちが、この事業を活用する事で社会復帰することができます。私は「働くことができる人材は納税者」になってもらいたいと考えています。それは、このままの状況が解決されないまま続くと、働けるにもかかわらず生活保護を受給する人たちが増えてしまうため、国の財政に大きな負担となってきます。そうすると、社会保障制度に影響が出てしまい、その結果として我々国民の負担も今よりも大きなものとなってしまいます。
公的な支援があれば良いのですが、現在のところこの問題は国のセーフティーネットの隙間となってしまっているため、一度落ちてしまうとなかなか抜け出すことが困難な状況となっています。

「成果と課題」について

最近では精神障がい者手帳を取得された方からの相談件数が増えてきています。特に軽度な方であれば企業で働くことも可能なはずなのに、一時的に社会から孤立してしまったために「通信弱者」となってしまい、就職できなくなってしまった方が多いと感じています。
『リスタート・ケータイ』は病気や疾患が原因で障がい者となってしまい、体調が整うまでの入院費や通院費で携帯代が支払えなくなってしまったことが原因で、新たに携帯を持つことができない方にも安心してご利用いただけるサービスです。利用者の方の中には携帯電話を持ったことでひととの繋がりに安心し、「心の孤立」から抜け出すことができたという声を聞くことがあります。
それだけ、携帯電話というものが普及した世の中で、「通信弱者」という状態が辛く厳しい状況なのかを知ることができます。

課題として感じているのは、世の中にはこのサービスを知らない「通信弱者」がたくさんいます。その方々にこのサービスの存在を認知してもらい、もっと多くの方に活用してもらうための活動をしていかないといけません。参入企業も少ないため、当社が中心となり大きな渦を作っていきたい。ですので、当社のようなサービスを提供する事業者が増えてきてほしいと感じています。
今後は、全国からの声にこたえるため実際に『リスタート・ケータイ』のサービスにより「通信弱者」だった当事者の方が、社会復帰できた方の協力のもと、積極的に普及活動を実施していきたいと思います。

企業の人事担当者や就労支援機関の皆さまより「詳細を聞きたい」「講演に来てほしい」などのご要望がございましたら、当社までご連絡ください。よろしくお願いします。

私自身、今回の取材を通じて初めて「通信弱者」という存在を知りました。代表の高橋氏の取材により感じたのは「明日は我が身」ということです。
人は健康な状態であり続けていると、いつの間にかそれが「当たり前」と感じています。しかし、病気や事故はある日突然降りかかってきます。そのようなときに『リスタート・ケータイ』のようなサービスが存在を知っていると安心できるのではないでしょうか。

とても素晴らしい取り組みを見せていただきました。ご協力ありがとうございました。

『一般社団法人 リスタート』
東京都豊島区南池袋2-45-2
URL:https://www.re-start.or.jp/

株式会社アーラリンク
東京都豊島区池袋2-47-3 キウレイコンビル6階
URL:https://www.ala-link.co.jp/

ABOUTこの記事をかいた人

上前 忠司 (日本障害者雇用総合研究所代表)

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム