取材レポート:『株式会社 革靴をはいた猫』

「障がい者」×「働く」というテーマで仕事をしているとそれを実践している企業との出会いがあります。

上手く実践している企業に見られる特徴は『(相互)理解』と『工夫』ではないでしょうか。
例えば、最近では障がい者の労働力活用を社会問題の解決につなげる活動として「農福連携」ということばを耳にします。耕作放棄地や過疎化による労働力の減少を障がい者が持つ特徴や強みを活かして、「農作物の生産」「農業の継続」「雇用問題」「障がい者の社会参加」といった成果を上げる役割があります。
しかし、その一方で「農福連携」に参入した企業や自治体、福祉関連事業のすべてが成功をしているわけではありません。メディアに取り上げられるニュースなどで、「〇〇県で農福連携。㈱△△との連携で地元障がい者の雇用を活性化!」といった記事を目にすることがありますが、成功した事例を聞いたケースというのが本当に少ないと感じます。

私が考える障害者雇用の未来の形というのは一部の企業で実践された「稀な」「特異な」ケースであってはならず、「どこの場所でも」「どの企業でも」雇用の成果が出せるものにしないと世の中で受け入れられないのではないでしょうか。
それと、雇用する側が忘れてはいけないのが、『障がい者本人がやりたい仕事がどうか』ということを意識することです。本来、障がいのあるないにかかわらず意識しておきたい点ですが、特に障がいのある方たちは自分の気持ちを周囲に伝えるのが下手な人たち(「我慢してしまう人」「表現がまわりと違う人」)が多いです。本人が分かるように言わないからではなく、何を伝えたいのか何を考えているのかを分かる努力が求められます。
そこから、本人がやりたい仕事とマッチングさせていくことで、やりがいや人の役に立つ喜びを感じて、いつまでも働いてくれるのではないでしょうか。

今回、ご紹介する企業は京都市にある『株式会社 革靴をはいた猫』といいます。できたばかりの企業ですが、志高く障害者雇用を実践している企業になります。

株式会社 革靴をはいた猫

【株式会社 革靴をはいた猫】
https://kawaneko39.com/

取材の日はこちらの代表である魚見さんに起業したきっかけや事業についてなど、たくさんのお話を聞かせていただきました。

事業のきっかけ

この事業を始めることになったきっかけは、大学時代までさかのぼります。
京都にある龍谷大学のキャンパスには大学と社会福祉法人が運営するB型事業のカフェがありました。このカフェの目的は「障がい者と学生との交流や教育」の一環としてスタートしました。当時、先輩にあたる経済学部の学生たちが「チームノーマライゼーション」を立ち上げ、カフェに通所している障がい者の就労を応援しようという取り組みが始まりました。そこへ、途中から参加することになったのですが、カフェでの経験が楽しく感じられ、一緒に学んで実践していく場を作っていきたいという思いが強くなっていきました。

そんなとき、働き方のひとつとして「靴磨き」を提案され取り入れてみることになりました。
京都や大阪にある靴磨きの職人さんのもとで修業を積み、実践の場のひとつとして大学内での教授会に参加される教授たちから靴を預かり、会議中に靴磨きをさせてもらいながら経験値を上げる努力をしました。他にもこういった実践の場から学ぶことは多くありました。

起業をする際、もうひとりの役員である宮崎、靴磨きの職人となってもらう障がい者の藤井と丸山の4名でスタートするのですが、当初から無理強いではなく本当に靴磨きの仕事をしたいかどうかで判断をしました。

事業内容

当社の事業についてですが、起業後すぐのころは店舗を持たず出張による靴磨きをメインにして、企業への訪問やフォーラムなどの会社が多く集まる場所へ出向き、当社のビジネスを認知してもらうことに力を入れていました。
そんなとき、スタッフのひとりの「お店を持ちたい」という思いをきっかけに物件探しを始め、約1年前に家主である写真屋さんの協力で現在の場所に店舗を構えることになりました。
今では、在庫管理も含めたお店の運営全般を障がい者である二人に任せており、常連のお客様からも全幅の信頼をもらっています

現在では店舗と出張の二枚看板で営業しており、店舗での売上が約70%を占めています。今後の目標は、出張による靴磨きの売上を店舗の売上程度まで伸ばしたいと考えています。
ちなみに障がいのある二人は正社員として働いてもらっています。

障害者雇用について

自社の障害者雇用ですが、実は障がい者を雇用しているという意識はありません
おそらく、本人たちも自分が障がい者として雇用されているとは思っていないのではないでしょうか。(うち1名については障がい者手帳の失効を希望しています)

プロ意識を育て、技術を向上させるために本人たちには厳しいことも求めています。それでも仕事を休んだことは一度もありません。
先日の大阪北部で地震が発生した時にも、わざわざお店の様子を見に来てくれるぐらい責任感の強いスタッフです。働くことに対するプロとしての意識を持つことについては大学のカフェで就労訓練していたころから大切にしてきました。

この仕事を通じて、自分たちの活躍する姿を世の中に広めて障がいの有無に関わらず「自分たちにもできるんだ」という自信を伝えていきたいと考えています。

今後の展望

これからの展望ですが、大学時代から取り組んできました障がい者も含むいろいろな人材の働く場を更に発展させていきたいと思っています。
例えば、300人の雇用が実現したとした場合、300人全員が靴磨きの職人として働くのではなく、30人を1つの仕事として10個の職種で働ける場所ができればいいと考えています。これは、ひとつの企業といった単位ではなく、もっと広い範囲で新しいものが生まれてほしいという思いからに他なりません。
障がいの有無に関係なく、働きたい人が働ける場所を創出していきたいと思っています。

今回ご紹介しました『革靴をはいた猫』の魚見さんのお話を聞いて、新しい障害者雇用実現への可能性というものを強く感じさせてくれました。ひとつの職種にこだわらず、障がいのある人たちが強みを活かして世の中の役に立つ仕事に就ける良い事例ではないでしょうか。
障がい者に担当してもらう仕事がないと言っている企業にとって、『革靴をはいた猫』の取り組みは改題解決の答えを示してくれると感じます。

『革靴をはいた猫』では、出張靴磨きを受け付けております。詳しくは下記からお問い合わせください。

『株式会社 革靴をはいた猫』
住所:京都市中京区亀屋町370-1 サンルミ御池1F
Mail:shoeshine.cat39@gmail.com
Tel:080-2619-2843
URL:https://kawaneko39.com/
Facebook:https://www.facebook.com/shoeshine.cat39/?ref=page_internal
Instagram:https://www.instagram.com/explore/locations/1726897364287013/
Twitter:https://twitter.com/shoeshine_cat39
YouTube:https://youtu.be/uJnBzT6geBQ

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム