ミルマガジンでは「障がい者」と「はたらく」をテーマに障がい者の自立を応援しています。
一般的に障がい者がはたらくとなると企業に「雇用される」ことがほとんどだと思います。法定雇用率の引き上げや企業における社会的課題に向けた意識の向上、多様性人材の活躍などの理解が進んだ結果、令和6年における企業に雇用される障がい者の数が過去最高となりました。
一方で企業に雇用されるのではなく、障がい者自らが起業し、事業を広めようと取り組む事例も、まだまだ少数ではありますが広がりつつあります。
【参考】
ミルマガジンではこれまでに障がいのある起業家をご紹介してきました。今回、新たに事業をスタートさせた起業家をご紹介したいと思います。
◆自己紹介
《話・牧野氏》
牧野友季(まきの・ゆき)と申します。宮崎県出身です。私は17歳の時に発達障がい(自閉スペクトラム症・ADHD・文字の読み書きが苦手)の診断を受けました。小さい頃から周囲の子達と違う点があると両親が感じていたようなのですが、大人しい性格だったこともありはっきりと障がいのことに気が付きにくいところがありました。学校の授業では文字の読み書きは苦手でしたが、記憶力が高かったので勉強面で問題視されることはあまりありませんでした。クラスでは忘れ物が多い、大きな音で泣くなどありましたが、比較的優等生な存在だったと思います。
なんとなく他の人との違いを感じたため医療機関で診察を受けても「様子を見ましょう」と言われ、そのまま生活を続けていたのですが、高校生の頃にやはり周囲との違いに気づきを感じ受診したところ発達障がいがあることが分かりました。
他にも明確な診断名が出ていないのですが、5年ほど前から手足に力が入りにくい状態にあります。実のところ疾患名が分からないため日常生活を送る上で受けることができる福祉サービスにも影響があるのですが、今は優先したいことがあるので家族や友人、ヘルパーの力を借りながら生活をしています。
現在、私はiU大学の3年生です。同大学の学生でありながら、起業する道を選択しました。そのことについては後ほどお話しします。
◆夜間高校での経験が自分を受け入れるきっかけ
幼い頃から理系の研究者になりたいという思いがあり、高校は全日制高校に入学しました。しかし、障がいの特性による周囲との違いから劣等感を持つようになり、自分の努力が足りていないからだと考えるようになりました。友人との会話では、伝えることも聞いて理解することも苦手なために、みんなが笑う場面でも自分だけがなぜ可笑しいのかが分からず笑えなかったりすることがあり、会話についていけないと感じていました。小さい頃であれば少し変わった子で済んでいたことが、年齢を重ねるにつれて変な人扱いをされるようになることも辛く感じました。その後、全日制高校を退学しました。高卒認定を取得して入学した大学も1年生の前期で退学し、その後は地元に戻り夜間学校へ通うことを決めました。
高校生で発達障がいの診断を受けた時に「人と違うのは自分の能力ではなく障がいが原因。私が悪いわけではない」と思った一方で「発達障がいは治らない」という事実を突きつけられたことにより、当初抱いた安心感が無力感に変わっていきました。そのような気持ちの中で通うことになった夜間学校での経験は私のその後を大きく一変させるきっかけとなりました。夜間学校には小学校から一度も学校に行ったことがない人など、いろいろな方が私と同じ生徒として通っていました。
様々なタイプの人たちが通う夜間学校では、これまでと違い自分が他の人と違っていても特別視されることなく暖かく迎えられました。運動が苦手な私が体育の授業でバスケットボールの試合をするときには「友季ルール」というものができました。それは私がシュートを打つとゴールに入らなくても1点がもらえる特別ルールでした。他にも学校生活を通してこのような私独自のルールを設けてくれた学校での経験は自分を認め受け入れてくれる場所であると感じさせてくれました。
私は場面によってパニックになってしまう特性があります。
例えば、傘を持っていないときに雨に降られてしまった時、「雨が降ってきたけど傘がない。どうしよう?」という気持ちが湧き起こりとても不安が強くパニックになっていました。これまでであれば、そのような状態の私に対して周囲は「めんどくさい」「なぜそんなにパニックになるの?」といった冷ややかな視線を投げかけてくるような環境でした。
それが夜間学校では「傘がないときに雨が降ってきたのであれば、誰か周りに人に声をかけて借りれば良いよ」教え、私に気づかせてくれました。他にも色々な経験、周囲からの配慮を通じて夜間学校での学生生活は私自身がこれまで感じていた「人と違うことへの劣等感」を取り除き、ありのままの自分で良いのだと受け入れることができるようになった大切な時期でした。
また東京大学先端科学技術研究センターが主催するプログラム「Do-iT japan(障がいや病気のある子どもたちや若者から、将来の社会的なリーダーを育て、共にインクルーシブな社会の実現を目指すプロジェクト)」に選ばれて参加した際の経験でも様々な気づきがありました。
あるプログラムでの取り組みで自分には読み書きが苦手な特性があることを知りました。その時に社会生活の場面で困りごとに遭遇することがあります。そういった困りごとを乗り越えるためには支援ツールやソフト等(イヤーマフやノイズキャンセリング機能、iPadなどのデバイス)があること。また、それらの活用が生活の質を向上させるのだということを知る機会となりました。
続きは後編へ