成年後見制度を利用している障がい者を一律に排除する「欠格条項」

このような記事を目にしました。

【読売新聞】
成年後見の利用で警備員が失職、警備業法の旧条項は「違憲」…最高裁が初判断・国の賠償責任は認めず
https://www.yomiuri.co.jp/national/20260218-GYT1T00491/

当事者の方は岐阜県内にある警備会社で勤務する30代の方です。
出来事を要約すると、
『脳出血で重い障がいを負った警備員の男性が、家族の支援を受けようと「成年後見制度」を利用したところ、当時の警備業法に存在した「成年被後見人を一律に排除する欠格条項」により、職を奪われた事案です。本人の就労能力や意思は一切考慮されず、権利を守るための制度利用が、逆に「働く権利」を一方的に剥奪する引き金となりました。2024年、最高裁はこの一律排除を憲法違反と断じ、個別審査の必要性を認めました。』
というものでした。

1. なぜ問題になったのか(ポイント)

この出来事の最大のポイントは、「仕事ができる能力があるか」ではなく「成年後見制度に登録した」だけで「職を奪われた」という点です。当時の警備業法には、成年被後見人を一律に排除する「絶対的欠格条項」がありました。

当事者は脳出血で倒れ、一命は取り留めましたが高次脳機能障がいが残りました。懸命なリハビリの末、医師から「就労可能」との診断を受け、本人も職場復帰を強く希望していました。家族が今後の生活や手続きのために成年後見制度に登録したところ「法律上、警備員として働けない人」に分類され、結果として会社は彼を解雇せざるを得なくなりました。
当事者は「自分はまだ働けるはずだ」と、この不条理な仕組みに対して裁判を起こしました。

2. 旧警備業法と「成年後見人」の関係


もし、成年後見制度を利用(登録)しなければ解雇されなかったのか?
結論から言えば、登録しなければ(後見人を立てなければ)解雇されませんでした。ここがこの制度の最大の問題点です。

成年後見制度は、判断能力が不十分な人の「権利を守る」ための支援制度です。しかし、当時の法律では、その支援(後見人)を受けた瞬間に、資格や職を失うという「欠格条項(権利の剥奪)」がセットになっていました。家族が良かれと思って手続きをしたことが、結果として本人の職を奪う引き金になってしまったのです。
「欠格条項」は旧警備法だけではなく、医師・弁護士・教員・公務員などの職業を定めた約190の法律にも同様の規定がありました。今回の国への提訴後の2019年に旧警備法を含めて全ての「欠格条項」が一括削除される法律が成立しました。

3. 現代社会との「ずれ」

何十年も前に作られた法律と、現在の社会通念には大きな乖離(ずれ)があります。昔は「障がい=何もできない」という短絡的な判断が当たり前のようにあり、それに基づいて定められた法律が今でも残っています。現在になりリハビリやICTツールの活用で、障がいがあっても能力を発揮できる場面が増えています。認知症や知的障がい、精神障がいを一括りにして「一律禁止」とするのは、個人の尊厳を無視した管理主義的な発想です。
「ノーマライゼーションとダイバーシティの観点」を忘れず、障がいがあっても、特別視されることなく普通の生活(働くことを含む)を送れるのが当たり前という考え方。旧法はこの権利を真っ向から否定していました。

多様な人材を受け入れることで社会を豊かにするという考えが浸透してきました。この「欠格条項」は「標準的な人以外は排除する」という、多様性とは真逆のベクトルを向いている法律であるということを我々に突きつけられたような今回の出来事。
全員を一律に扱う(平等)のではなく、障がいがある人にはその人が求めるポートを社会が提供し、働く機会を確保する(公平)ことが求められていますが、旧法は「一律排除」という偽りの平等で、これまで障がいのある人たちの機会を奪っていたことになります。

4. 本人の意思の軽視

この問題で最も深刻なのは、「本人がどうしたいか」という意思が全く介在しなかったことです。
「働きたい」という意欲、「ここまで回復した」という実績、「この補助があればできる」という提案について、一切が旧来から変わることのない考え方一つでシャッターを下ろされ、自分の知らないところで「君はもう働けない人だ」と決めつけられたのです。

5. 最高裁判決の意味(2024年判決)


この男性が訴えた裁判に対し、最高裁は成年被後見人を一律に排除する規定について、憲法14条(法の下の平等)と22条(職業選択の自由)に違反すると認めました。このことは歴史的な判決となります。
「後見人がついているからダメ」ではなく、一人ひとりの業務遂行能力を個別に判断すべきだと明確に示しました。社会情勢が変わっているのに、長年放置してきた国の不作為を厳しく問う形となりました。

一方で国への賠償責任は認められませんでした。2019年の法改正が行われるまで、何十年もの間、障がい者の権利を奪う条項が放置されてきました。技術や社会意識はとうに変わっていたのに、「改正中だったから免責」とするのは、当事者の犠牲を軽視していると感じざるを得ません。憲法違反のルールによって、30代という若さで職を失い、人生を狂わされた男性がいます。裁判所が「ルールは間違いだった」と言いながら「誰も責任は取らなくていい」とする結論は根本的な課題に目を向けていない姿勢に見えます。

まとめ

この事件は、単なる一人の警備員の解雇問題ではありません。「支援を受けることが、社会からの追放を意味する」という矛盾した日本の制度に風穴を開ける出来事でした。
もし当時、旧警備業法に「個別審査規定」があったなら、この男性は解雇されなかった可能性が極めて高いはずです。

  • 本人の意思: 「働きたい」という強い希望。
  • 専門家の評価: 医師による「就労可能」というお墨付き。
  • 現場の状況: 会社側も、本来は辞めさせたくなかったという背景。

これらが総合的に判断されていれば、彼は今も警備員として活躍し、キャリアを積み上げていたかもしれません。このような「制度の形式的な壁」が、人の人生を大きく左右することになります。
現在、多くの法律で『個別審査』が導入されました。これからは、本人の意思と能力が正当に評価される社会であってほしいと願います。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム