障害者雇用で成功している企業の共通点

今回は、このテーマで書いてみようと思います。

私は、研究者ではなく支援者なので、今回のテーマについてどれくらいエビデンスがあるかと言われると、就労支援の現場で感じる感覚的な話が多いかもしれません。
でも、現場で感じていることは、それなりに共通していることも多いように思います。
個人的意見も多く含んでいますが、ぜひ最後までご覧いただければうれしいです。

障害者雇用の効果(価値、二次的効果など)

多くの企業は、法定雇用率の達成や社会的責任(CSR)など、企業の経営姿勢として障害者雇用に取り組んでいます。
これは、企業として重要なことであり、当然のことと考えているところは多いです。ただ、効果や価値を生み出すための取り組みというよりは、義務感が優先されて取り組まれていることが多いように思います。

さて、障害者雇用の効果とは、いったいどのようなことなのでしょうか?
就労支援の現場では、以下のことをよく感じます。

  • 経営課題の解決

営業の効率化、コスト削減、内省化、残業が多い部署(人)などを障害者雇用で解決。

  • 人手不足の解消

業務分担を整理し、できる仕事・できそうな仕事を障害者雇用で行った結果、人手不足が解消。

  • 生産性(量)の安定

時短・休暇等の多様な働き方・人手不足などによる生産性の不安定さを障害者雇用で補って安定化。

  • 社内・職場の雰囲気向上

元気よく挨拶する、律儀・真面目さなど、障がいのある人の特性・人柄が他の従業員にとって見習うことが多く、結果として雰囲気向上。

  • 多様性から生まれたイノベーション

障がい者に限らず、外国人・高齢者・LGBTなど、ごちゃまぜで雇用。それぞれの立場から多様な意見があり、それがヒントとなってイノベーション。

共通した職場環境

上記の効果は、障がいのある人が雇われ、戦力となって働いているからこそ生み出される二次的効果です。
そこには、障がいのある人の働きぶりは重要な要因ですが、障がいのある人が所属する職場の雰囲気や働きやすさなど、共通した職場環境があることを忘れてはいけません。

・3S等のきれいでわかりやすい職場

3S(整理・整頓・清潔)の実施で、どこで何をするか、どこに何があるかなど一目でわかりやすいことが働きやすさにつながっている。

・障がいのある人に合わせることができる柔軟さ

障がい特性や配慮事項について周囲の従業員は固く考えることなく、許容範囲が広く、柔軟に考え、対応している。業務に人を合わせず、人に業務を合わせている。

・人財育成にお金をかけている

社内外での研修、eラーニング、視察など、学ぶことができる機会が成長につながり、モチベーションにつながっている。

・やさしい従業員が多くいる

大目に見てくれる、励ましてくれる、笑顔で接してくれるなど、やさしさのある従業員の多さが働きやすさにつながっている。

いかがでしょうか。
障がいのある人にとって、所属する職場、身を置く環境は、ご本人の働きやすさに直結します。これは、とても重要な視点だと思います。

とある製造業の成功例


この企業は、障がい者を雇い入れする数年前から、職場環境の改善、生産性の向上、業務効率の向上などを目指して「3S活動」を始めました。

それまでは、捨てられないものが多く、資材や道具の置き場も不明確で、ムダが多かったようです。
従業員全員で、無理なく少しずつ3S活動を長年続け、今ではとてもきれいな職場となり、どこに何があるか、どこで何をするかなど、初めて社内を訪れた人でも一目瞭然です。
障害者雇用は、就労支援者から障がいのある人のインターンシップの受入れ提案をきっかけに取り組みが始まりました。受け入れ前に何か特別なことをしたことはなく、3S活動が障がいのある人にとっても働きやすい職場であったことを再確認でき、受け入れはむしろスムーズであったようです。

とある営業部署の成功例


こちらの企業では、営業部門で障害者雇用の戦力化を実現されています。

障害者雇用では、営業担当者ができるだけ外にエネルギーを向けることができるよう、お客様や商品情報など常に最新データにする業務を障がいのある人が担当され、具体的には、名刺や事業所、商品情報などのデータを入力、更新、メンテナンスなどに取り組まれています。
障がいのある人がチームとなって営業部隊をサポートすることで、最新情報をいつでもお客様にお届けすることが可能となったようです。

障害者雇用の内勤は、人事部や総務部などで雇用されていることが多いですが、このような営業サポート業務は、戦力化としての可能性をまだまだたくさん秘めています
例えば、多店舗展開している小売店・飲食店では、店長業務をサポートする障害者雇用の成功例もあり、従業員が本来の仕事により専念できることで障害者雇用を戦力化した成功例は多くなってきています。

共通したプロセス(進め方)


成功している企業は、「専門家とのパートナーシップ」、「計画的、段階的に取り組む」、「採用前のインターンシップを実施」、「柔軟な担当業務でミスマッチを防ぐ」、「定期的な面談で状況把握」など、障害者雇用の進め方においても共通しています。

他社の成功事例は、独立行政法人高齢・障がい・求職者雇用支援機構のサイト「障害者雇用事例リファレンスサービス」で検索することができます。

ぜひ、成功している企業の共通点をヒントにしていただき、企業内で活躍する障がいのある人がたくさん増えていけばと、願っています。

ABOUTこの記事をかいた人

▼プロフィール:
京都生まれ京都育ち。児童福祉の専門学校を卒業後、長野市にある社会福祉法人森と木で障害のある人の就労支援(企業就労の支援、飲食店での支援と運営管理等)に限らず、生活面(グループホーム、ガイドヘルプ等)の支援、学齢期のお子さんの支援などに従事。2013年に帰阪し、自閉症・発達障害の方を対象に企業就労に向けたトレーニングをする2つの事業所ジョブジョイントおおさか(就労移行支援事業・自立訓練事業を大阪市と高槻市で実施運営)にて勤務。2014年より所長(現職)。また、発達障害のある大学生に向けた就活支援プログラム(働くチカラPROJECT)の運営にも力を入れており、2016年より大阪にある大学2校のコンサルタントも務めている。

▼主な資格:
社会福祉士、保育士、訪問型職場適応援助者(ジョブコーチ)

▼主な略歴:
長野市地域自立支援協議会 就労支援部会 部会長(2011〜2013)淀川区地域自立支援協議会 就労支援部会 副部会長(2015〜)高槻市地域自立支援協議会 進路・就労ワーキング 委員(2016〜)日本職業リハビリテーション学会 近畿ブロック代表理事(2017〜)NPO法人ジョブコーチネットワーク、NPO法人自閉症eサービスが主催する研修・セミナー等での講師・トレーナー・コンサルタント等(2013〜)