【Q&A】今後『除外率』が撤廃された後の対処法について教えてください

【Q】
いつもお世話になっております。
当社は障がい者雇用除外率の対象になっている会社になります。
除外率という法律は撤廃になったと聞いていますが、現在のところ本来の法定雇用率で求められている数の障がい者よりも少ない人数の雇用となっています。
今後、我々のような除外率を受けている企業の障がい者雇用はどのようになるのでしょうか。近い将来、完全に撤廃となった時に向けてどのような取り組みが必要となるのでしょうか。
アドバイスをお願いします。

《建設業、従業員数約300名、人事担当者》

【A】

ご相談ありがとうございます。
『除外率』制度は障がい者雇用に携わる人事担当者であれば一度は耳にしたことがあると思います。本来障がい者法定雇用率は、障がい者の雇用が義務化されている企業に対して一律に求められています。しかしながら、業種や業態によっては障がい者の雇用が困難な職種もあるとの考えから、一般的に雇用が難しい業種を対象に法定雇用率に算定される労働者数を控除する制度として『除外率』が設けられました

《例》常用雇用労働者1,000名かつ除外率40%の企業の場合
通 常:1,000名 × 2.3% = 23名の雇用
除外率:(1,000名 – 400名) × 2.3% = 13.8名の雇用
従来よりも約9名少ない雇用で達成することが可能。

この制度は2004年に廃止となりましたが、最も除外率の高い「船舶運航業の事業」は80%もあるため、一度に全ての除外率を撤廃した場合に該当する企業にとって混乱を招く可能性も考えられるために、段階的に除外率を引き下げていくことになっています。直近では2010年に10ポイントの引き下げが実行されましたが、それ以降は除外率に変化はありません。
先般厚労省で行われた「労働政策障害者雇用分科会」でも除外率の引き下げについて様々な意見が挙げられ、法定雇用率の引き上げのタイミングや対象となる企業の状況も踏まえた上で引き下げが進むことになりそうです。

いずれにせよ、除外率は今後完全に撤廃となることは決定していますので、現時点で対象となっている企業は、障がい者の雇用が難しいとの判断を受けた会社ですから、採用と職場定着に向けた取り組みに関しては除外率の非対象企業よりも入念な準備と丁寧な雇用が求められると考えます。
ここ数年で企業の障がい者求人は身体障がい者から「精神・発達障がい者」に採用ターゲットが向いていることは、ハローワークから就職した障がい者の数を特性別で見たときに約半数が「精神・発達障がい者」になっていることでもわかります。

参考:厚生労働省:令和2年度障害者職業障がい状況等
https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/000956349.pdf

このことは、一緒にはたらく周囲の人から障がい者を見たときに「理解しづらい障がい特性の人たちとはたらく機会が増えた」と言い換えることができ、それは障がい者雇用で発生する課題に直面する職場が増えていることを指しています。(障がい者雇用で課題を抱える人事担当者が増えています)

理解に時間を必要とする障がい特性の雇用にも関わらず、採用人数に比重を置きすぎた取り組みとなってしまうと仮に雇用のミスマッチが発生したときの反動が大きくなります。
というのも、これまで積極的に障がい者雇用に取り組んでこなかった組織では、従業員にとって障がい者と一緒にはたらくことへの不安は大きく、それ自体が雇用にとって大きな障壁となりますので、障がい者が職場で定着しなかった事実はその後の取り組みを大きく後退させてしまう恐れがあります。

障がい者の雇用とは、

  • 「職場にとって安心・安全」
  • 「障がい者の労働力は業務の負荷を軽減してくれる存在」
  • 「障がい者がはたらく職場は誰にとってもはたらきやすい職場」

であることを組織として理解するために必要な行動を考えてください。

具体的には、

①社内で障がい者に担当してもらいたい業務の洗い出し

・コツは障がい者の労働力があることで助かる部署、チームから仕事を切り出す
・業務量が多くて残業過多となっている部署の労務問題の解消
・時間を掛けたい業務に集中することで対応できなくなる仕事

②ハローワークや近隣の就労支援事業所などの外部リソースの活用

・自社だけでなく無料の外部リソースを大いに活用する
・自社よりも経験値のある外部リソースは経験不足を補うレバレッジ

③社内理解促進は丁寧に時間をかける

・組織として障がい者雇用に取り組む理由説明の時間を設ける
・必要に応じて、外部リソース等による勉強会を開催

④就労支援事業所から実習の受け入れ

・障がい者理解には障がい者との接点を作ることで大きく進む
・職場で障がい者が働く姿を体験
・導入には準備と職場の負担を考えて

⑤実習参加者から業務や職場にマッチした人材を候補として選出

・複数回の実習を経て職場の理解が進んだことを確認
・実習生の中から業務適性、職場との相性などで判断
・具体的な採用に向けて

⑥面接のもと採用を決定

・実習での評価をもとに面接を実施

⑦ケースによって「助成金の受給申請」「精神障がい者の時短勤務」「トライアル雇用」などを導入

・「②」にて活用できる助成制度をハローワークに確認しておく
・受給対象となる助成金があればハローワークの指示のもと申請を開始

⑧就労支援事業所による定着支援、情報の共有

・採用にあたり就労支援事業所からの定着支援の確認をしておく
・その他職場の定着に必要なサポートや必要に応じてその後の採用に向けた相談も実施

⑨職場定着

・外部リソースによる定着支援に頼りすぎず、自社でのサポート体制も確立させていく
・実施のために不足しているところはアドバイスをもとに構築させる
となります。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム