現在、障がい者法定雇用率の達成企業・未達成企業に関わらず、今後の障害者雇用はどのような道に進んでいくのかということに関心を向ける企業経営者や人事担当者は少なくないと思います。普段から障がい者の採用活動に関わっている方々にとっては、情報収集に余念がないのではないでしょうか。
例えば、障害者雇用の義務のある企業にとって大きな影響を与えると言われる「精神障がい者の雇用義務化」が2018年に施行されます。
障がい者の雇用に関する法改正や新たな法律はこれからも続きますので、今後規制が緩和されることはなく企業は今以上に障がい者を採用していくことになります。結果として、企業で障がい者の働く姿が今まで以上に目に映る時代がやってきます。
では、雇用をする側となる企業・人事はこれからの時代をどのように乗り越えていけばよいのでしょうか。
企業が法律に従って採用活動や雇用定着の取組みを進めていくために、企業経営者や人事担当者が今知っておきたいと思うお話を事例や数字などをもとに、計3回に渡りご紹介していきます。
1.「身体障がい者」と「精神障がい者」の数字から見る雇用
企業に雇用されている障がい者の中で最も多い障がいの特性は、ご存知の通り「身体障がい者」で、327,600人となります。続いて「知的障がい者」の104,746人。最後が「精神障がい者」の42,028人。
ここで注目していただきたい数字が「身体障がい者」と「精神障がい者」の雇用数です。
「精神障がい者」の雇用されている数は「身体障がい者」の約1/8という数字になります。
確かに、企業に雇用されている障がい者をイメージできるのは「精神障がい者」よりも「身体障がい者」ですが、実は国が障がい者として認知している数字を見てみると「身体障がい者」の約394万人に対して「精神障がい者」は約392万人となり、ほぼ同数が分母として存在します。(ちなみに「知的障がい者」は約74万人で桁が一つ小さくなります)
母数が近いのにも関わらず雇用数に大きな開きがある原因として、『精神障がい者の雇用には不安がある』と企業は感じているからです。
「精神障がい者」は「身体障がい者」に比べて一目で障がいが認知しづらく、健康状態のバランスが不安定なために突発的な体調不良で欠勤になると業務に支障をきたしてしまうなどから雇用を敬遠されてきました。
今まではこのような理由から「精神障がい者」の方々を採用基準から外すことができましたが、今後はそのように行かなくなる理由があります。
まずは、雇用対象となる「身体障がい者」求職者数の減少があげられます。先ほど、「身体障がい者」と「精神障がい者」の母数がほぼ同数というお話をしました。
実はここには隠れた数字があります。両者の母数がほぼ同数ではありますが、年齢層別(~17歳・18~63歳・64歳以上の3区分)にみてみると大きな違いがあります。
「身体障がい者」で一番大きな割合を占めている年齢層は「64歳以上」で60%を超えています。企業として採用の対象となる「18~63歳」の年齢層は34.6%。更に既に働いている方や重度の障がいなために一般企業での就労に向かない方々を除くともっと数字は小さな値となります。
この限られたパイを全国の多くの企業で競い合っている状況です。
では、一方の「精神障がい者」の場合、一番大きな割合を占めている年齢層は「18~63歳」で59.8%となります。
「身体障がい者」とは対照的に働き盛りの年齢層が最も多い値です。私の見解ですが、働き盛りの年齢層が多いのにもかかわらず、雇用数が少ないということは生活保護などを受けている若い年代が多いといえます。こういった方たちを納税者にしたいというのが国の考えです。当然の話だと思います。
本来働く力のある年齢の方たちが「精神障がい者」というだけで働く機会に巡り合えず、仕方なく生活保護受給者になっている。この中から、働く力のある人材を受け容れる力のある企業が雇用していくという方向に進められていくことになります。
従って、2018年度に施行されます「精神障がい者の雇用義務化」以降に障がい者法定雇用率が見直されます。
おそらく、現在の2.0%よりも大幅なポイントアップが噂されています。全国にある障がい者の雇用義務化の対象企業約90,000社がこのタイミングを起点に採用活動に取り掛かることになります。
これらの数字から見ても、採用の倍率の高い「身体障がい者」を狙い費用と時間を無駄にするよりもこれからは人材が豊富な「精神障がい者」に雇用対象がシフトしていくことを感じていただけると思います。
次回は実際の障害者雇用の取組みに関する「今知っておきたい!」お話をしたいと思います。
厚生労働省「平成28年度 障害者雇用状況の集計結果」/内閣府「平成28年版 障がい者白書」