前回は障害者雇用に関する法律や実現に掛ける時間についてお話をしました。
今までに企業から「パッケージ化された雇用モデルが欲しい」「1年以内に障がい者を5名採用したい」「助成金を貰える体制に急いでしたい」といったご相談をいただくことがありました。システム導入や設備設置と違い、障害者雇用に時間を掛けずに実現するというのは、かなりのハードワークとなり、失敗のリスクも大きくなります。
ぜひ、このコラムを参考にご理解いただければと思います。
4.特例子会社が障害者雇用を上手く実践できる理由
全国には400社を超える特例子会社が存在します。
これは特例子会社制度というものがあり、親会社のほとんどが雇用義務のある大企業となります。この特例子会社に雇用されている障がいを持つ労働者を親会社の労働者とみなし、親会社が雇用する法定雇用率に加えることができる制度です。
特例子会社では、障がい者の雇用を率先して行いますので業務や設備などにも障がい者が働くための配慮を取り入れています。
実は特例子会社が実践している採用や雇用定着活動の中には一般企業に参考となる取組みがあります。
皆さんは国からの許認可事業となる福祉サービス事業で就労移行支援事業所をご存知でしょうか。
従来からある福祉事業所とは違い、第一の目的は一般企業への就職。そのために必要なビジネスマナー・スキルの習得や日常生活の訓練などを行っています。
また、自己の障がいを知るための学習や就職した際に重要となる周囲とのかかわり方なども学びます。就労移行支援事業所に通う障がい者は就職への意欲が高く、能力のある人材もたくさん在籍されています。この福祉サービスは全国に3,000ヶ所以上あり、現在も増加傾向にあり、こちらを人事活動に利用するメリットは非常に大きいのですが、企業からの認知が進んでいないのが大きな課題のひとつです。
実は、特例子会社のほとんどはこの就労移行支援事業所と連携を取り、利用者として通所している障がい者の中から就職に近い程度に訓練を受けられた方を企業実習として定期的に受け入れています。
企業実習生全員を対象としているわけではありませんが、その中から適性に合った人材を採用するようにしています。採用側としては、費用を掛けずに適性を見極めたうえで採用をすることができる。また、通所していた就労移行支援事業所からも定期的なフォローをしてもらえるので職場定着にも繋がりメリットが大きいです。。
私も以前に勤めていた会社で就労移行支援事業所からの企業実習を毎月受け容れていたのですが、想像以上に障がい者の業務レベルの高さに驚きを感じました。
当初は「席に座って作業ができないのではないか」「業務中に奇声を発したりしないのか」などの心配した声を周囲から投げられました。でも実際は、個人差はありますが、実習で来られたほとんどの方が時間通りに就業し、質問があれば自分から声を掛けてこられ、間違いなどもほとんどありませんでした。ちなみに実習生の障がい特性は発達障がい者でしたが、実習開始から3回目ぐらいには周囲の従業員も普段と変わりない風景といった感じで勤務していました。
この就労移行支援事業所との連携は障がい者への理解促進にはとても有効な手段のひとつとなります。
5.案外知らない障がい者の採用・雇用に使える助成金などの制度
私のコラムをご覧いただいている人事に携わる方々はご理解いただいていると思いますが、現在国は障害者雇用をどんどん進めていこうという流れになっています。
一方で障がい者の雇用が企業の負担になってしまう面があるのも事実です。それら負担を少しでもしてもらうための助成制度をご紹介したいと思います。
大きくはハローワーク(厚生労働省)管轄の助成制度と独立行政法人 障がい・高齢・求職者雇用支援機構管轄の助成制度があります。
ハローワーク(厚生労働省)管轄の助成制度は、新たな採用に関わる助成制度で「特定求職困難者雇用開発助成金」「トライアル雇用奨励金」「ファーストステップ助成金」などがあります。
独立行政法人 障がい・高齢・求職者雇用支援機構管轄の助成制度は、雇用を継続したり、職場の改善に必要な設備設置に関わる助成制度となり、「障がい者作業施設設置等助成金(2種類)」「障がい者介助等助成金(7種類)」「職場適応援助者助成金(2種類)」などがあります。
活用に関する詳細につきましては、各窓口に確認をしていただきたいと思います。
例えば、前者のハローワーク管轄の助成制度に関しては直近で会社都合による解雇があった場合、助成資格から外れてしまいますので注意が必要です。また、以前に比べると助成金の金額が減額されたりなど、年度ごとに内容の見直しがあります。
とはいえ、活用できるのであれば企業にとって負担の軽減に繋がりますので、障がい者の採用・雇用を取組んでおられる企業は改めてご確認をした方が良いと思います。
いかがでしたでしょうか。これからも、企業の障害者雇用に必要な正しい情報をもとに理解ある取組みの実現をお手伝いしたいと思います。