前回は数字から見た障害者雇用の現状とこれからの方向に関する解説をご紹介しました。
今後、精神障がい者に雇用対象を向けるに際して、人事が抱く「精神障がい者の雇用には不安がある」を解消することが必要となってきます。不安を抱えたままでの雇用定着の実現は困難となりますから。
2.雇用定着の実現には費用よりも時間を掛ける
このイメージを解消し安心して雇用を実現するためには時間を掛けじっくりと取り組んでいかなくてはなりません。
特に一番時間を掛ける点は「従業員からの理解と協力」に結びつくところです。
今まで多くの企業で実践されている事例を見てきましたが、障がい者の採用や雇用を実現されている企業の特徴のひとつは、一緒に働く従業員が障がいを持つ人材のことを分かり、定着に繋がる協力をしているという点でした。
人事担当者が苦労して障がい者を人選し採用をしても、職場での受入れが上手くいかなくて短期間で退職してしまう企業というのは結局周囲の理解が不足したまま障がい者を配属してしまい、本人が必要とする配慮ができなかったり、まるで腫れ物でも触るかのような扱いをしてしまったために起こった結果でした。
これらを防ぐ手段としては「従業員への事前研修」「職場環境の確認と見直し」「配属先への詳細な情報連携」などを社内で実践することで従業員に理解をしてもらうことです。当然のことながら、一朝一夕で結果を出すことは難しいですし、人が理解を示した行動をとるためには十分な時間を必要とします。
実践している企業は時間を掛け、失敗などを繰り返しながら雇用を定着させてきました。決して、ショートカットなんてできません。
費用を掛けることも大切ですが、成果の出る障がい者の雇用定着を実現するためには業務上一番接する機会の多い従業員への理解と協力体制を社内に構築することになります。当然、これらの実現には時間の掛かることが多くなりますので、一日でも早く取り掛かることをお勧めします。
3.障害者雇用の希望企業が倍増で競争激化
障害者雇用の義務化対象企業数(常用雇用労働者50人以上)は全国に約90,000社あります。
そのうち、障害者雇用が不足している場合に罰金(納付金)を支払わないといけない納付金制度の対象となる企業は何社あるでしょうか。
答えは約47,000社です。
納付金制度とは、障がい者法定雇用率により定められている雇用数を満たしていない場合、一人に付き月額50,000円を支払わないといけないというもので、人事担当者はよくご存じだと思います。例えば、常用雇用労働者500人の企業が本来は10人の障害者雇用が必要なところ雇用数が0人だった場合、6,000,000円を国に納めないといけないことになっています。企業利益からです。これは支払ったから免除ということではなく、不足していた数字を納付金で補ったということで毎年不足数に合わせて支払いをしないといけません。
この納付金制度の対象企業数約47,000社というのは2015年度にありました法改正以降の数字です。実はそれ以前の対象企業数は約24,000社でした。
実は2015年度より対象企業が約倍増しています。ということは障害者雇用数が不足していると納付金を支払わないといけない企業の増加に比例して求人数も増え、競争率がより一層激しい時代となっています。2000年頃の障がい者の求人倍率は4~5社に1人程度だったのが、現在は14~15社に1人程度に急増しています。
これは、納付金対象企業の倍増にプラスして、前回にもお話をしました身体障がい者の採用が厳しくなってきたことが原因です。今は精神障がい者の求人よりもまだ身体障がい者の採用を希望する企業が潜在的には多いために、対象となる人材に求人を希望する企業が群がる状態となっています。
この状態に巻き込まれず、障がい者の採用活動・雇用定着を実現するのであれば精神障がい者や発達障がい者を雇用対象者として目を向けていく必要があります。現状は幸いにも精神障がい者や発達障がい者を雇用対象として取り組みだしている企業数はまだ僅かです。そのため、働くだけの能力を持つ精神障がい者や発達障がい者がたくさん求職者として活動をしています。数年後には、これらの障がい特性の人材にも求人が集まり、採用が困難になってくると思われます。
精神障がい者・発達障がい者の人材を採用し、雇用定着させるためには上記2でお話ししたことの実践が必要となります。そうすると、この点も時間が必要なことがお分かりになると思います。
ということは、企業がより良い障害者雇用を実現するためには一日でも早い取り組みのスタートが必要ではないでしょうか。
今回は、助成金や罰金を理由に障害者雇用に取り組みだした雇用義務のある企業が増えたことによる市場環境の変化についてお話しました。障害者雇用に限らないですが、短期的な雇用メリットを追いかけることなく、より腰を据えた雇用を目指すことでより大きなアドバンテージ・メリットを享受できるはずです。