障がい者がはたらく環境で気をつける4つのポイント【後編】

前回の続き

③可能性を考慮した雇用条件


特例子会社や一部の企業を除き、ほとんどの企業には障がい者が活躍するための雇用条件が整っていません。障がい者が望む雇用環境を整えるとは、「スキルアップ」「昇進」「希望の職種につく」「合理的配慮」などが実現できる職場です。

多くの企業が正社員での雇用をあらかじめ用意しているわけではなく、契約社員である有期雇用やアルバイト・パートなどの雇用形態からスタートするところがほとんではないでしょうか。
一般の従業員と比較した際に業務のできる範囲が限定的であったり、業務上でのサポートや体調の起伏などが業務遂行に少なからず影響することが理由のひとつです。
また、評価の面では能力の範囲や仕事のできる・できないが「障がい特性が原因」なのか「本人由来のもの」なのかの判断がつきにくいために、どのような人事考課を設けるかといった話を耳にします。確かに判断が難しいところです。

原点として、障がいのことが「分からない」があるからですが、今後「分からない」を理由にすることは難しく、これだけ障がい者雇用の認知が進んできた世の中であり、多様性理解が浸透した社会として、企業に求められるの「障がい者への理解」に対する義務が強くなってくることが考えられます。これは、「障がい者のことが分からない」と言った理由が通じなくなり、分からないのであれば「分かる努力をして障がい者を活躍させる組織作り」を明確に求めてくるのではないかと考えます。

これまで経験から、障がい者のことを理解するためには障がい者との接点を持つための取り組みが重要です。一番効果的なのは「実習」です。
近隣の障がい者就労支援事業所や支援学校など、障がい者の就労訓練を実施しているところから受け入れることが可能です。

障がい者の雇用を進める中での評価の際、「障がい者だから」とか「障がいの特性で一律に決めてしまっている」ということはないでしょうか。「障がい者だから反復作業が良い」「障がい者だから昇進は考えなくていい」「障がい者だから給料の上限はこれぐらい」となっていませんか。
「大きな契約を受注した」「SNSを活用したプロモーションにより売上が前年度を超えた」など、企業は人材に対して、仕事を通じた「成長」を期待しています。
同様に障がい者の成長についても期待してもらいたいと思います。
「できることの範囲が限定的」「覚えるまでに時間が掛かる」「体調の起伏があり安定して勤務できない」などなど。職場から聞こえてくる障がい者に対する意見でイメージすれば期待を込めた雇用条件を設けることは難しいのでしょう。

障がい者の中にはレベルを上げ厳しい環境で働くことを希望する人、今の状態をキープしたい人など様々だということを認識していただきたい。そのうえで要望が叶えられる環境を用意するのが組織の役割だと思います。全ての障がい者が選択肢のない環境で働くことが本来の社会ではないはずです。

④障がい者実務担当者を組織で支える


前編「②」でもお伝えしましたが、現在の障がい者雇用には専門性が強く求められるため、専門的な知識や経験が蓄積される組織体系や人員の配置が必要です。もちろん、専門的な外部リソースの活用も必要ですが、経験を増やしていく中で企業内には知識やノウハウが蓄積されますので、いずれは社内の専門性ある人材が中心となって取り組みを進めていくことになります。
企業で障がい者雇用に取り組む際に、主には人事担当者が専任の実務者となって求人や採用活動、配属先部署との調整役など、多岐にわたる業務にあたります。

繰り返しになりますが、専門性が求められる障がい者実務担当者の現状は、配置された瞬間から法定雇用率を達成するためのミッションを目指すようになる一方で、蓄積された知識やノウハウもなく会社であれば、まるで武器も持たずに戦場へ送り出されるかのような状態です。不安しかありません。
手探りで障がい者雇用の取り組みを進めさせられる実務担当者にしたら、苦痛と苦悩が始まるわけです。このような役割になりたいと思うでしょうか。分からないままに法定雇用率の達成のために闇雲に求人を出しても希望する人材とはなかなか巡り会えません。仮にエントリーする人材がいても採用できるかどうか分からない。思い切って採用しても、当事者が望む配慮が提供できず、一緒にはたらく従業員からは不満が出てしまい、結果も出せないために評価は上がらない。社内には味方になってくれる人もいない。
しかし、法定雇用率達成を目指す企業としては、居てもらわないと困る役割にも関わらず組織としての後押しももらえないまま実務担当者は戦っています。

真剣に障がい者雇用に取り組むのであれば、人事担当者や職場の管理者をサポートし、支える組織を作ってください。実務担当者のマンパワーには限界があります。組織が支えてやっと成果につながります

今回お伝えしたことは抽象的な対処が多かったと思います。
障がい者雇用の成功かどうかの判断は、定量的に測れない部分も大いにあります。したがって、法定雇用率の達成と同様に、障がい者の雇用に取り組んだことで企業としてどのような変化が生まれたのかを検証し、共有することが重要になります。
障がい者雇用という難しいことにチャレンジする。結果として間接的ではありますが本業への好影響と成長につながる事例となる企業が存在します。

今は想像の世界ではありますが、世界基準として多様性理解を求める社会が出来上がりつつある中、日本も同一の世界観を求められます。そのときに将来を見据えた環境づくりが必要ではないでしょうか。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム