【Q&A】身体障がい者の雇用経験しかない企業が職場定着となる採用を実施するためのコツが知りたい①

【Q】
いつもお世話になってます。

当社では法定雇用率の達成に向けて障がい者の新規採用に取り掛かっています。過去にはハローワークや人材会社から障がい者人材を採用した経験しかなく、最近では思うように採用が進んでいません。来年度以降は法定雇用率の引き上げもあるため、今から新しい求人ルートを開拓したいと考えています。
また、当社の雇用実績は身体障がい者3名(聴覚障がい者1名、内部障がい者1名、下肢障がい者1名)で、いずれも数年先には定年退職となるため、それまでに新しい人材を採用したいと思います。
よろしくお願いします。

《製造メーカー、従業員数約300名、人事担当》

【A】

厚生労働省より令和6年度と令和8年度の法定雇用率の引き上げが公表されてから、障がい者の採用に関するご相談、今後の障がい者雇用動向についての質問が増えています。それだけ、企業にとっては大きなインパクトになりました。個人的には法定雇用率は今後3%を超えてくると考え、その数値の達成に対応できる採用が求められます。

これから障がい者採用に取り組む場合、現在の自社の状況を知るところから始めましょう
そうすることで、自社に足りないことや取り組む活動を具体化させていきます。例えば障がい者の求人活動の経験がないのであれば、ハローワークで障がい者の採用についての注意点(今は精神障がい者の採用が多くなっているなど)や求人方法のアドバイスを聞くことができます。
また、障がい者の採用を進めるにあたり不安に感じていること(従業員からの理解、仕事の切り出し方法について)などもこの機会に組織内で改めて共有化させることもミスなく雇用定着を実現させるには大切なプロセスです。

ご相談をいただいたこちらの企業の状況で今後の障がい者雇用を進めるにあたり、課題と感じるポイントが3つ。

  1. 限定された求人ルート
  2. 雇用実績が身体障がい者のみ
  3. 雇用する障がい者が定年退職を迎える

①限定された求人ルート

 


「①」の求人ルートについて、企業が障がい者求人を出す際に最も活用されるのが全国に設置されているハローワークになります。人事担当者にとっては身近に障がい者の求人活動に関する相談窓口として利用する一方で、求職活動中の障がい者にとっても就職・転職に向けたアドバイスを担当官から直接聞くことができますし、就職に有利な情報を得る場としての役割をハローワークは担っています。

また、障がい者の採用ニーズが高くなったこともあり、障がい者人材に特化した人材会社も求人ルートのひとつとしてのポジションを確立しました。スタイルは一般的な人材紹介と大きく変わりません。
企業側の要望にマッチした人材を登録者の中から選出し、提案してもらえますので時間と労力を軽減させるメリットがあります。一方で提案された人材を採用した際に紹介手数料が発生しますので、費用対効果との見極めも必要になります。

実はこれら以外にも障がい者採用を進める企業にとってメリットがある求人ルートがあります。
最もお薦めしたい求人ルートが「就労系障害福祉サービス」と言われる就労を目指す障がい者を支援する福祉事業所からの採用です。「就労系障がい福祉サービス」に該当する福祉サービスのうち、企業が取り組む障がい者採用に際して、求人ルートとして協力してもらえるのは就労移行支援事業、就労継続支援A型事業、就労継続支援B型事業になります。(「就労系障害福祉サービス」には採用後の職場定着を目的とした就労定着支援事業も含まれます)

就労系障害福祉サービスとは ※各事業所数はR3年1月国保連データ


障害者総合支援法における就労系障害福祉サービスには、就労移行支援、就労継続支援A型、就労継続支援B型、就労定着支援の4種類のサービスがあります。

  • 「就労移行支援(全国3,006事業所)」

就労を希望する障がい者であって、一般企業に雇用されることが可能と見込まれる者に対して、一定期間就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練を行います。

  • 「就労継続支援A型(全国3,922事業所」

一般企業に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が可能である者に対して、雇用契約の締結等による就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供を行います。

  • 「就労継続支援B型(全国13,828事業所)」

一般企業に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が困難である者に対して、就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供を行います。

  • 「就労定着支援(全国1,351事業所)」

就労移行支援等を利用して、一般企業に新たに雇用された障がい者に対し、雇用に伴う生じる日常生活又は社会生活を営む上での各般の問題に関する相談、指導及び助言等の必要な支援を行います。
(厚生労働省HP「障がい者の就労支援対策の状況」より抜粋)

これら「就労系障害福祉サービス」は社会福祉法人や株式会社などの民間事業者が運営しており、合計すると全国に延べ20,000以上の事業所があります。東京都や大阪府などの比較的都心部には各福祉サービスが多く開設されていますが、地域によって設置されている事業所の数や福祉サービスに違いがあります。

上記の福祉サービス以外にも下記のようなところで障がい者の求人相談に対応してもらえます。

  • 【地域障害者職業センターとは】

障がい者に対する専門的な職業リハビリテーションサービス、事業主に対する障がい者の雇用管理に関する相談・援助、地域の関係機関に対する助言・援助を実施しています。
(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構HPより抜粋)

  • 【障害者就業・生活支援センターとは】

障害者就業・生活支援センターは、障がい者の職業生活における自立を図るため、雇用、保健、福祉、教育等の関係機関との連携の下、障がい者の身近な地域において就業面及び生活面における一体的な支援を行い、障がい者の雇用の促進及び安定を図ることを目的として、全国に設置されています。
(厚生労働省HP「障害者就業・生活支援センターについて」より抜粋)

  • 【地域若者サポートステーション(サポステ)とは】

働くことに悩みを抱えている15~49歳までの皆さまを対象に、就労に向けた支援を行う機関です。
厚生労働省が委託した全国の若者支援の実績やノウハウがある民間団体などが運営しており、全国の方が利用しやすい「身近に相談できる機関」として、全ての都道府県に設置しています。
(厚生労働省HP「地域若者サポートステーション」より抜粋)

続きは次回。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム