前回からのコラムで、「新たな障害者雇用の枠組み作りのひとつとして考えられるのが『地方』での採用」ということを取り上げ、5つの項目に分けてお話しを進めてきました。
- 『地方』に目を向ける理由
- 障害者雇用の現状を振り返る
- 『地方』採用のメリット
- 『地方』の現状
- 『地方』における課題
続きとなる今回は、③~⑤についてご説明します。
③ 『地方』採用のメリット
若く意欲の高い人材が豊富
地方には人材がたくさん眠っています。それも若くて働く意欲の高い人材です。健常者であれば、働く先を求めて都心部へ移動する方が多いのですが、障がいを持っている方は今ある生活環境などを変えたくないと考える方が多く、どうしても地元に残ることを選んでしまいます。親御さんの中には、無理して働かなくても障がいを持つお子さんのひとりぐらいは養っていけるという思いから、手元に置いておくケースも少なくありません。但し、親の思う通りの方ばかりではなく、自分で働いて少しでも自立した生活を送りたいと考える障がい者がたくさんいらっしゃいますので、そういった方々に向けた求人活動をすることで、これまで成果に結びつかなかった採用が生まれると思います。
経験の浅い企業にとっては負担が軽減
ここ数年、新規の障がい者採用の半数は精神・発達障がい者になりつつあります。近い将来には企業で働くたくさんの精神・発達障がい者の姿が日常となるでしょう。しかし、移行期である現状においては経験値が高くない企業がほとんどです。それらの企業が準備もしないまま、義務感だけで精神・発達障がい者の雇用を進めることは現実的ではありません。職場定着を実現させるための準備が必要にも関わらず、焦った雇い入れをした結果、ミスマッチが原因による社内理解の遅れも雇用促進の邪魔となってしまいます。
企業が採用時期を選べる
売り手市場での人材採用の場合、義務感から障がい者の求人活動をしても求職者からのエントリーがないと始まりませんから、企業側としてはタイミングよく進められないというフラストレーションを抱えます。しかし、地方での採用であれば人材が豊富にいるため採用の時期を選ばずに、企業のタイミングで求人を掛けることができます。
④ 『地方』の現状
就職先が少ない
売り手市場なのは都心部の多い一部の地域が中心で、産業や企業の少ない地域では障がい者を雇い入れるところは少ないのが現状です。
進路となる選択肢が限られている
支援学校を卒業してからの進路についても、都心部のある地域では就職先となる企業やビジネス訓練を積める就労系支援事業所などの選択肢も多いのですが、地方では働く能力の高い障がい者でもB型事業所への通所か、もしくは自宅で何もしないままの生活を送らないといけない方たちもいます。
就労系支援機関がようやく増加
地域によっては就労移行支援事業所などの支援機関がようやく増えてきました。それぞれの支援機関によって特徴や訓練内容にも違いがありますので、就職を目指す障がい者にとっては、増えればそれだけ選択肢が多くなります。しかし、まだまだ特定の地域だけであり、支援機関不足の解消にはいたっていないところが多くあります。
地域によっては行政が支援策を取っている
地域によりますが、行政が障がい者の雇用を後押しするような取り組みを実施しています。新たな障がい者の雇い入れにつき助成金を支給したり、テレワークによる離れた地域の企業の雇用を支援するなど、徐々にではありますが実績が増えてきています。
地元に残る障がい者であふれている
地方から都心部の大学に進学する障がい者も一定数は存在しますが、多くは地元に残ってこれまでと大きく変わらない環境の中で生活を送ります。障がいの特性によっては環境の変化に対応することが難しかったり、治療を受けている方であれば現状の医療機関で続けていきたいという考えもわかります。
⑤ 『地方』採用における課題
テレワーク制度の導入準備が必要
地方にて障がい者の雇用を実施する場合、企業内でテレワーク制度の導入を進める必要があります。既に導入されていたり、下地ができている企業であれば準備にかかる時間や労力は問題になりませんが、イチからとなると「従業員への周知」「セキュリティの構築」「データ管理」はもちろん、「労務管理」「環境整備」などの準備が必要になります。しかし、一昔前に比べてテレワークで使用するツールなども選択肢があり、従業員の意識も変わってきていますので、人事担当者が思っているよりもハードルは高くないと思います。(テレワークの導入に対しての助成金制度もありますので、検討する場合は各地事態にご確認ください)
それに、外出の多い営業担当が、移動の合間にはいったカフェで会社から支給されたPCやタブレット(スマホも)を使い仕事をする姿を見ることが当たり前な時代になりましたが、それもテレワークのひとつです。実は、簡易ながらもテレワークによる仕事をしているのです。
就労系支援機関の数が少ない
地方といわれる地域にも就労移行支援事業所などの支援機関が増えてきたとはいえ、そこで暮らしている障がい者の就労支援をまかなえるだけの数があるのかというと答えは“NO”です。当然のことながら、事業所の所在地には偏りがあるために片道に多くの時間を掛けないと通所できないところも存在します。また、地域によっては就労訓練の内容も、本来企業が採用したい人材として身に着けておいてもらいたいスキルや経験とは程遠いカリキュラムをサービスとして提供しているところもあります。おそらく、企業のニーズを掴めないまま訓練を実施しているという感じでしょうか。
遠隔となる現地でのサポート体制への不安
地方のため離れた場所での雇用は、雇用した障がい者に何かトラブルが発生した時の対処も準備する必要があります。すぐに駆け付けない点は企業の人事担当者にとっても不安となる部分ではあります。しかし、テレワークの普及が進んでいる現状では、いくつかの体制を準備することで遠隔であってもフォローをすることができるようになってきました。
企業事例では、常時通信回線を開いた状態にすることで本社と地方となる執務スペースをカメラでつなぎ、お互いの存在を意識することができます。そうすることで何か体調不良などのトラブルがあっても確認することが可能ですし、地方にいる障がい者も会社とつながっているという意識が生まれます。
また、最近ではサテライトオフィスの開設も見られるようになり、現地には障がい者支援の専門スタッフが常駐しており、緊急なトラブルの対処も含めご本人へのサポートもしてもらえるようになっています。
これからも法定雇用率の引き上げなど、障害者雇用に関する法律が施行されることでしょう。(もしかすると、今後は罰金制度である納付金の引き上げもあるかもしれません)企業である以上、義務として遵守しないといけないとはいえ、簡単に進められないことも事実としてあります。障害者雇用に限らず、実現させるためにはこれまでの形にこだわらず柔軟に変化させていくことを忘れてはいけません。