新型コロナの影響で緊急事態宣言が発令されてから、我慢の生活が続いています。そのため、自宅で過ごす時間も増えてきていると思います。今回は、おうち時間を使って観ていただきたい障がい者に関連した映画のご紹介をしたいと思います。
タイトルは『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』。
アメリカの映画で日本では2020年2月に上映された作品です。
当時は国内でも新型コロナが広がりつつあった時期だったために、劇場で鑑賞することができなかったのは残念でしたが、今はいくつもある動画配信サービスのお陰で映画が好きな私にとっては自分の好きなタイミングで楽しむことができるのは非常にありがたいことです。
私がこの作品に興味を持った一番の理由は、ダウン症のある主人公の役をダウン症の俳優が演じているところを観てみたいと思ったからです。
もともと、アメリカではわずか17館の劇場からスタートしたこの作品は最終的に約1,500館で上映されるようになったということです。
【あらすじ】
両親に見放された主人公ザックは夢であるプロレスラーの養成学校に入るために高齢者施設からパンツ一丁で脱走。一方、地元で騒ぎを起こして漁師町から同じく脱走をしたタイラーは、出会ったザックの夢をかなえようと、一緒に遠く離れた養成学校を目指します。道中、高齢者施設でザックの世話をしていた女性職員のエレノアも加わり、たくさんの経験を経ながら3人で向かった先にあったのは・・・
一般的にダウン症の人は知的に障がいがある方が多いため、役を演じる「俳優」という職業に就いているイメージが持ちにくいのではないでしょうか。
主人公のザックを演じているのはザック・ゴッサーゲンという方で、ドレイフォーズアートスクールの演劇科を卒業した後、俳優兼ダンサーとして活動をしているれっきとした役者になります。
ダンスだったり表現力が豊かな印象をダウン症の方に持っていた私にとって、ダウン症の俳優が演じるこの作品は、ダウン症についてのイメージをガラリと変えてくれると感じさせてくれるものでした。
ストーリ―の中で気になったシーンが2つありました。
ひとつは、ザックと一緒に旅をするタイラーの接し方です。出会った当初から、ザックに対してひとりの人として平等に接しているタイラーの態度には、相手は障がい者だというフィルターが存在していないように感じられました。話し方も飲み水を分ける態度も、良くも悪くも「障がい者だから」という扱いをしないキャラクターだったと思います。
ザックから「プロレスラーになりたい」という夢を聞いたとき、本人よりも「プロレスラーになれる」と信じていたのではないかと感じられるような人物に見えました。
もうひとつは、つまずくと分かっている石を事前に取り除いてしまうことです。
旅に合流することになった女性職員のエレノアから「障がいがあるから無理だ」と止められるシーンがあるのですが、我々も障がい者に対して「障がいがあるから〇〇はできない」と決めつけてしまっていることがあります。そのため、彼らの可能性の芽を摘んでしまっているかもしれません。
高齢者施設以外の世界を知らないダウン症のザックにとってはタイラーとの逃亡の旅はひとつひとつが初めて得られる経験。しかし、エレノアから見れば旅自体が危険に感じられるため、早くやめさせたいと考えてしまいます。
本来、決めるのは本人であってほしいと思えれば、周囲の我々はなるべくできる環境を整えてあげる役割りなのではないかと感じさせるシーンでした。
作品は冒頭から笑える楽しいストーリーになっていますので、是非作品をご覧になっていただければと思います。
最後に、タイラー役を演じているシャイア・ラブーフという俳優をご存知でしょうか。
インディージョーンズ4やトランスフォーマーなどのメジャー作品に出演している有名な俳優なのですが、近年は映画以外で注目を浴びるお騒がせな人物として名が通っています。この『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』も2017年に作品が完成したにもかかわらず、撮影中の逮捕や人種差別発言による大バッシングが影響したため、公開が中止になるかもしれないという状況にありました。
そのような中、主人公役のザックから
「君はもう有名だけど、この映画がぼくのチャンスなんだ。それを台無しにした」
と言われたシャイア・ラブーフは心を入れ替え、アルコール中毒のリハビリ施設に入所し、体調の回復を図ったお陰で無事に公開がされたとのことでした。