「中央省庁による障がい者雇用水増し問題」から学ぶこと

2018年8月に今後の障がい者雇用に大きく影響するかもしれないニュースが報道されました。

皆さんご存知の「中央省庁による障がい者雇用水増し問題」です。企業の人事担当者の方々も一緒だと思いますが、障がい者雇用を応援する立場からするとまさに「開いた口が塞がらない」ニュースでした。少しここでおさらいをしたいと思います。

《発表内容》

  • 国の行政機関33ヶ所のうち27ヶ所で水増しが行われていた
  • 当初、障がい者雇用数6,867.5人だったのが実は3,407.5人だったことが判明
  • 実法定雇用率は2.49%から1.19%の半数以下に(不足数は3,396人)

「水増し」ということばを辞書で調べてみると、「水を加えて量を増やすこと。実質はないのに見かけだけを増やすこと。(例)経費を水増しして請求する」とありました。例題にある「経費を水増しして請求する」にあるように、“水増し”とはもともと存在するモノに少しの量を加えてかさを増すというイメージだったのですが、今回の水増しは「半数」が虚偽だったわけです。

国民を代表する方々がいろいろな理由(言い訳)を述べられていましたが、事実は「半数」が世の中に対して嘘をついた数字だったわけです。

次にどのようなことが原因だったのでしょうか。

《原因》

  • 厚生労働省による厳しい“目”が機能していなかった
  • 障がい者雇用に対する認識の低さ(「障がい者の判断基準」「無知な組織」)
  • 障がい者雇用が進んでいる世の中とのズレ

知識不足だったのですが、水増しによる雇用不足により行政機関も納付金(今回は罰金と捉える方が良いかも)を支払うと思っていたのですが、支払い義務はなかったのです。助成金の受給資格がないので当たり前なのですが。

特に「世の中とのズレ」は、非常に大きな問題点として厚生労働省や行政機関は認識をする必要があります。手本を示すはずの行政機関において障がい者雇用が進んでいないという事実は企業に対して障がい者雇用は「単なる義務」「デメリットしかない」と印象付けてしまうのではないかと不安に感じてしまいます。

《これからの問題》

行政機関で働いている障がい者には大きく2つのパターンが存在します。

ひとつは、高等教育機関を卒業された方が公務員試験を合格し資格を持って入社するパターン
民間企業でいうところの「正社員」と同じ立場です。仕事内容は、公務員になりますから当然のことながら他の障がいのない公務員と同じような業務を担当されています。

もうひとつは、中途採用としての雇用で、最大5年の有期契約としての雇用するパターン
民間企業でいうと「契約社員」としての雇用です。おそらく、行政機関で働く障がい者の方たちは圧倒的に「契約社員」としての立場が多く、仕事内容も事務補助や清掃など、付随的な業務を担当されています。

この「契約社員」という働き方が行政機関で抱える雇用問題のひとつとして、邪魔な存在なのではないかと考えます。

最大5年の有期期間が設けられているため、毎年どこかの部署では期間満了で解雇される障がい者の代わりとなる人材の採用活動を実施していかないといけません。年々、障がい者の新規採用が厳しいと言われる時代に5年おきに障がい者の入れ替わり採用をしないといけないルール。法律として定めたルールが障がい者の雇用に大切な「職場定着」の足かせになるというのは何とも皮肉な話です。

就職を希望する障がい者の方たちはたくさんいらっしゃいます。求職中の障がい者にとっても「行政機関に就職」と聞くと嬉しい気持ちにもなりますが、期間限定となれば徐々にエントリー者も遠のくことにもなり得ます。

また、行政機関内で一緒に働くことになる方々の障がい者への理解度というのはどの程度なのでしょうか。

本来達成しているべき数字から半数の障がい者が存在していなかったということは、職場で身近にいるはずの障がい者が本当はいないということです。雇用数の水増しに大きく関わっていた行政機関の人事担当者や責任者の障がい者雇用への認識レベルを考えた時に、民間企業であれば最も障がい者に対する知識を有し、率先して雇用の導入を進めるべき存在となる人事担当者とでは大きな開きがあると思わざるを得ないのではないでしょうか。その場合、組織への障がい者雇用に対する知識や理解の啓蒙についてどの程度の時間と労力を注いでいたのか、甚だ疑問を感じてしまいます。仮に組織内への障がい者に関する知識や理解を深めるための努力を怠っていたとすれば、この報道をきっかけとして不足していた障がい者の雇用を取り戻そうと求人活動を活発化させたときに起こる問題に大きな不安を覚えてしまいます

企業から障がい者雇用のご相談をいただくときの打合せで必ずお話しすることがあります。それは、「今いる従業員を大切に」考えて取り組みましょう。ということです。

障がい者を新たに雇用する場合、障がい者への配慮や安全を考えて様々な施策を企業と一緒に考えます。障がい者の職場定着に必要なことは、一緒に働く従業員の「理解」と「協力」です。その「理解」と「協力」を得るためには、障がい者に対する正しい知識を持ってもらい、従業員の方々が抱える不安を解消した状態にすることが重要となります。大切なのは、これまで会社に貢献していただいた「従業員」を大事に考えることです。「義務として法定雇用率を守る事」「罰則となる納付金を払わない会社になる事」「負担軽減のために助成金を活用する事」なども大切ですが、従業員が健康な生活を送れるようにすることが会社の務めだと考えます。

私が障がい者雇用のお手伝いをしているある企業では、従業員への「理解」と「協力」を得るための取り組みを1年掛けて実践していただいています。時間も掛かり地道な作業が多いのですが、一度ひっくり返したオセロの駒は簡単には戻りません。その企業は障がい者雇用を企業にとって大きなメリットに成長しているのを実感している私には、これからの中央省庁における障がい者雇用には大きなハードルが待ち構えていると思えてしまいます。

ABOUTこの記事をかいた人

上前 忠司 (日本障害者雇用総合研究所代表)

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム