前回の続き
≪コラボレーションによる雇用を考える≫
繰り返しになりますが、これから企業に求められる障がい者雇用とは、法定雇用率に重きを置いた雇用となる「量」から「質」へと変化していくことだと考えています。
障がい者の雇用の「質」というのは、
『個々の強みを活かし、やりがいを感じられる業務に就く(適材適所)』
『障がい者の仕事が企業の売上や利益につながっている(経済活動)』
『業務を通じてキャリアアップや生活の向上を目指せる処遇である』
になります。
もちろん、法律として障がい者の雇用義務のある企業にとって、法定雇用率の達成ということが大きな目標のひとつであると認識しています。しかしながら、真摯な姿勢で障がい者雇用に取り組んでいる企業の経営者や人事担当者であれば、感じていると思いますが、従来からの障がい者雇用の取り組みでは今後の法定雇用率の引き上げや雇用の定着を進めていくことに限界が出てくるのではないだろうかという疑問についてです。
最近は新型コロナウイルスによる経済へのダメージも大きく、企業や事業所の経営に影響が出たために雇用調整助成金を活用しても障がい者を含めた従業員を解雇したり、障がい者の求人や新規採用についても影響が少なからず出ています。また、テレワークの導入などのはたらき方の見直しやそれに伴ってこれまでの仕事の進め方や業務の流れなども見直しや変更を求められています。
このような状況下であっても新たな障がい者が活躍する場を一から創造する方法もありますが、既にある事業やリソースを活用するという方法の方が自社にとってメリットがあるのであれば検討してみるのも良いと考えます。(今後もテレワークやITの導入に関連した助成金があると思います)
例えば、支援事業所の実習や施設外就労を活用しながら自社の障がい者雇用に結びつけていくという方法があります。施設外就労というのは、「就労支援機関が企業との請負契約のもと、事業所に通所する「利用者(障がい者)」と支援機関の「職員」によるグループで企業から請け負った業務を企業施設内にて実施する取り組み」になります。
製造業に当てはめてみると分かりやすいと思うのですが、自社内にある製造や検品のラインのうち、ある作業工程を委託した支援事業所の障がい者の方たちに来てもらって業務に就いてもらうという方法です。これまでは障がい者の配属先ではなかった業務に、先ずは施設に通っている障がい者に勤務してもらい、支援事業所との調整を図りながら直接雇用に切り替えていきます。
この場合のメリットとしては、
①直接雇用になっても通勤先や業務内容に大きな変更がない
②障がい者の仕事としての適性や見極めが可能
③社内理解が進みやすい
などが考えられます。
こちらも以前にミルマガジンの取材としてご紹介したB型事業所の取り組みが参考になると思います。
また、特殊技能を身に着けた障がい者を企業が雇用し、新しい事業をスタートさせるという方法も生まれてきました。できる仕事は限定的だが、ある特定の業務については丁寧さや集中できる特性を活かして成果を作り出すことができます。
先日、靴磨きの技術を習得した障がい者を雇用した企業と靴磨きの技術を提供した企業の対談記事を掲載しました。
対談内で取り組みを始めるきっかけとなった企業が抱える課題は、他の雇用義務のある企業が直面している課題や悩みと重なるところがあります。
≪忘れてはいけない従来からある業務≫
ここまで、障がい者雇用の新しい業務や事業につながる事例についてお話をしてきました。しかしながら、仮に法定雇用率が未達成で納付金(罰金)を支払っている状況にあるために焦って取り組むべきではありません。これらの事例の実現には時間や準備が必要です。計画を立てながらも、目前にある従来からある業務に絡めた雇用についても粛々と取り組まなければなりません。
恐らく、周囲からの協力や工夫をすれば、もう少し切り出して障がい者に担当してもらえる仕事が見つかると思います。
人事担当者の方は今までは障がい者に任せていなかった仕事について、「なぜ任せてこなかったのか」を考えてみてください。
例えば、
①自己判断が求められる業務
②取引先への確認が要る業務
③作業範囲が広い業務
という理由が雇用の促進を邪魔していたかもしれません。そのような場合は、それらを補う工夫を考えてみてください。
①自己判断が求められる業務
→「別の担当者が判断したものを入力やファイリングする」
②取引先への確認が要る業務
→「予め確認用フォームを作成し、メールで確認と回答をもらうようにする」
③作業範囲が広い業務
→「業務を細分化し、複数の人員で作業をこなすようにする」
という感じです。
これらはあくまでも例ですが、障がい者の雇用を実現させるためには「工夫を凝らす」というキーワードが重要です。ひとりひとり顔かたちが違うのと同様に障がいの特性にも違いがあります。個々のできることとできないことを見極め、本人の適性に応じた業務の配置や工夫を取り入れてください。
障がい者の仕事についての話を聞いていただきましたが、「優しい」「過保護」といった感想を持たれた方も多いと思います。実は、今回参考事例でご紹介した職場を含め、障がい者が活躍している職場には「厳しさ」があります。仕事に就いた当初は、分からないことばかりですから、丁寧に時間を掛けながら教えていきますが、その後は本人の主体的なはたらきを期待します。
それは、過保護というよりも「自立していかないとここでははたらけないよ」という雰囲気があり、彼ら彼女らはそれを感じて、自分が職場で何を求められているのかということを気付き、額に汗していると思います。
仕事をどのように捉えるかは職場であり組織が教えていかないといけません。私は、仕事や職場は自分を成長させてくれるところだという認識です。
人の成長は組織の成長となり、組織の成長は従業員とその家族の豊かな生活につながっていきます。障がい者雇用を単なる数合わせに終わらせないはたらき方を目指してほしいと思います。