社会不適応の人をどう支援するのか?

私たちの事業所が行っている業務は「就労移行支援」というものです。これはわかりやすく言うと就職サポートです。
就職サポートと聞くと、履歴書の書き方を指導したり、面接の練習をしたり、ということをみなさんは思い浮かべるかもしれません。
しかし、実はそれは最終段階で、私たちの仕事のほんの一部でしかないのです。

「就労移行支援」の重要な役割

一番重要な部分は、社会に適応していくための学びを提供することです。
私たちの事業所を頼って来て下さる方のほとんどは、心の病で、社会に適応できなくなり悩んでいる、という方たちです。
そういう方たちが、心身ともに健康になり、社会の中で生きていく術(すべ)を新たに身に着け、巣立っていく、というのが、通常の流れになっているのです。

そういう業務を日々行っているので、「社会に適応できなくなり、孤立して、反社会的感情をつのらせていった」というような話を聞くと、私としてはどうも自分と無関係な話とは思えない。

私たちの事業所に所属している利用者さんたちは、犯罪傾向とは全く無縁で、むしろ心やさしすぎる方たちばかりなので、その点で心配したことはないのですが、川崎無差別殺傷事件の岩﨑容疑者のような人の家族から相談を持ちかけられたら、自分ならどうするだろう、と考えてしまったのでした。

「自分が支援していたら社会復帰させられた」などと大言壮語するつもりはもちろんありません。
おそらく誰が支援しても、就職まで導き、就労を継続させ、それなりの人付き合いを成立させる、という形にまで持って行ってあげることは困難だったでしょう。そもそも誰も彼と話し合いをすることすら出来なかったのですから。

しかし私が思うことは、彼には本当に殺人という出口しかなかったのだろうか、ということです。
誰とも心を通わせることがなく、誰にも認められず、という完全な孤立状態の中で、殺人決行という異常な観念が彼の頭の中でふくれあがっていくのを、だれも止めることが出来なかった。

いったいどうすれば彼の内面に働きかけることが出来たのでしょうか。

「内面に働きかける」とは

「内面に働きかける」ということに関して、犯罪者を多く取材したというあるジャーナリストがこんなことを書いていました。
「岩﨑容疑者のような反社会的感情を抱いている人は、被害者意識が強く、『自分がこうなったのも~のせい』という言い方が多い。とにかく、人のせいにしたがるので、同情してあげても増長するだけで、反省にはつながらない。善意を持って接したところで、何の解決にもならない。」

この「同情」というのが、実は、くせものなのです。
たくさんの人が勘違いしているのですが、支援は「同情してあげる」こととは違います
あなたはこんなイメージを持っていませんか。
支援の手を差し伸べて、同情してあげると、それをありがたく思い、改心して生まれ変わったように努力を始める・・・
そんなことは幻想であって、現実には起こりません。
「同情」や「おもいやり」があればみんなうまくやっていけるようになる、というような単純な話ではないのです。

社会に適応できていない人を適応させるために内面に働きかけるとはどういうことでしょうか?

支援の手順

専門で支援をやっている者がどういう手順で進めようとするか、ご説明しましょう。

私たちは同情やおもいやりによって人を立ち直らせる事ができるなどと考えていません。
まず何をやるかというと、本人のつらさの中身をよく聴き取り、理解することから始めます。それぞれに事情は違うので、こちらの勝手な思い込みで「こんなことで困っているんだろう」と決めつけてはいけません
そして、その先にすることは、本人の思いを受けとめることなのです。
この「受けとめる」は「同情」とは違うのです。

同情されると気分はよくなりますが、さきほどのジャーナリストが言うように、「増長」の方向に行ってしまい、甘えが入って自分の問題に向き合えない、ということがしばしば起こります。
「本人の思いを受けとめる」というのは、支援者が相談者のありのままをいったん引き受けるということです。それは言い換えれば「包容」ということでしょう。しっかりと思いを受けとめてもらえた、と感じてもらうことで関係(=ラポール)の構築が開始され、つまりそこから問題に向き合うための準備が進んでいくのです。

よい形で関係(=ラポール)が出来れば、社会適応のための方向付けが可能になるのです。時には厳しい指導もありますが本人と二人三脚で進んでいく過程が始まります。

もし岩﨑容疑者と話をすることができたら、わたしならこんなことが言いたかった。
「社会は決してあなたの敵ではない。
いままで誰かからひどい扱いを受けてきたとしても、攻撃行為によってその恨みを晴らしたところで、その先に何がある?
虚(むな)しくなるだけ。
そんなことが本当にやりたいのか?
それとは別のやり方で、NOを突きつけることは出来るはずだ。
自分の手で未来を作っていくことが出来ると信じて欲しいのだ。」

言葉は容易には届きません。

それでも日々たんたんと支援努力を続けている人たちは大勢居るということ、
相談する意志さえあれば、思いを受けとめてくれる人は居る、扉は閉ざされてはいない、ということを知っていただきたいと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

森山 晋悟(就労移行支援事業所 Ponte施設長)

▼プロフィール:
2015年9月 函館で、Ponte〈ポンテ〉を開所。主に心の病を持つ方々に就職サポートを提供。「癒やしと成長」をテーマに、たくましく社会で生きていける人材の輩出を行っている。
2017年2月20日 中小企業家同友会函館支部で講演。
2017年10月からはうつ病リワークプログラム(復職支援)も開始。
集団認知行動療法研究会会員。
2019年3月よりテレワーク就職を目指す方のための在宅訓練も開始した。
(2019年3月17日北海道新聞にPonteの活動が紹介されました。)
Facebook「就労移行支援事業所 Ponte」に最新情報載せています。


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