こころの病を癒す「環境調整」

私たちの事業所ポンテに通ってくる方々のほとんどは心の病があって、みなさん就職を目指しています。
「心の病が改善されてきたけれど、まだフルに活動できるエネルギーはない」という状態で通所を開始する、という場合も、よくあります。
ご本人は就職に向けてがんばりたいと思っても、そこへ向けて気持ちを整えていくことが、どうしてもまだ難しい。
そういう人に対しては、私たち支援者は、「訓練なのだから厳しく」という接し方はできません。
厳しくするというよりも、まずは「癒やし」を提供することが大事になります。
私たちは医療機関ではないので、心の病を治療する、ということはできませんが、心の状態がよくなっていただけるように、癒やしの環境を提供するよう心がけているのです。
今回このコラムでは、「心の病の治療プロセスにおいて、環境がいかに大切か」についてお話したいと思います。

こころの病の治療において大切なこと

こころの病を治療しようとする時、まずはメンタルクリニックなどに行って、薬をもらいます。昔と違って、最近では良い薬がたくさん発明されているので、症状の改善にとても役立つことが多いです。
それに加えて、カウンセリングなども、もちろん有効な治療法です。
しかし、精神科医は多忙で長時間話す時間を取ることができませんし、独立して営業しているカウンセラーは高額ですので、なかなか気軽に利用できるものではないというのが実情ではあります。(ポンテスタッフはカウンセラーではありませんが、安心して話せる相談相手にはなれます。)
治療においては、上記2つに加えて、「環境調整」が大事であると言われています。
わかりやすく言いますと、日々どんな雰囲気の中で時間を過ごしているか、ということです。
雰囲気というのは言語化できないので、良い影響を与えられているとしても、悪い影響を与えられているとしても、無意識のものになりがちです。
ゆえに、自分を取り巻く「環境」にまったく無自覚な人も少なくないのです。
しかし、これは実はとても危険なことです。
自分が嫌な雰囲気の中で長時間過ごしていて、自分のこころが悪化して行っているのに気付かない。
そういうことはよく起こります。
特に、人に遠慮し勝ちで、「波風を立てたくない」「自分が我慢すればすむことだから」というような考え方をしている人は、危険が大きいのです。
じっと我慢しているうちに、こころが悪い方向へ押し流されていってしまう、ということが起こるのです。

ですから、こころをよい方向へ向けるために、「環境調整」という考えを持って見守ってくれる人がいることが望ましいのです。

精神科医の斎藤環先生は「一般に精神科医はケースワークの発想が弱い」ということをおっしゃっています。
つまり、患者さんを取り巻く状況にまで目を配り、日常を良い空気の中で過ごさせてあげることが大事だということは、医師ももちろん理解している。
しかし、「関係する人々に介入して環境を調整することは医師の仕事ではない」という認識がまだ主流だというのです。
斎藤先生はこのように説明しています。

「精神疾患は複合的な現象なのです。
脳や心に問題があるのは事実ですが、それが症状としてどのように発現するか、というのは、家族の関係や職場での人間関係、地域との関連性、つまりご本人を取り巻く環境が関係しています。
薬が変えられるのは脳の状態だけなのです。
カウンセリングで変えられるのは心理状態だけです。
精神疾患というのは、その2つだけでは済まない複合的な現象ですから、ケースワークという発想を持って環境調整をしていくことが必要なのです。」

ポンテの役割

私たちポンテの支援において、この「環境調整」が実は最も重要な役割かもしれない、と思っています。
事業所内において、なごやかな、安心できる雰囲気をみなさんに提供しなければなりません。
ちょっとおおげさな言い方になりますが、理想としては、事業所が人々を包容しているかのような。いだかれて、ほっとできるような、そういう空気に包まれること。それができれば人は癒やされていきます。
なかなか理想通りには行かないのですが。
私たちを頼ってきて下さる方々は、さまざまに多様なので、「あの人は嫌いだ」「相性が合わない」というような不和もしょっちゅう起こります。
しかしそれでもお互いを許容しあい、小さな差異はあっても、大きなところでは、同じような痛みを分かち合う仲間である、と信じて共に歩んでほしいと願っているのです。
我を通すことをやめられずに、その結果、組織内に分裂状態をもたらす、という人は、どこにでも居るものです。
わたしたちは、たとえそういう人が来ても排除しようとはしません。ただ「攻撃的になっても、なんの解決にもならない」ということを説得し続けるだけです。

ポンテが癒やしの場として、完成した所であると主張する気はまったくありません。
けれども、わたしたちの思いをよく理解してくれた卒業生が、就職してからも元気に活躍している姿を見ると、少しは良い方向に行っているかな、と感じることができるのです。

ABOUTこの記事をかいた人

森山 晋悟(就労移行支援事業所 Ponte施設長)

▼プロフィール:
2015年9月 函館で、Ponte〈ポンテ〉を開所。主に心の病を持つ方々に就職サポートを提供。「癒やしと成長」をテーマに、たくましく社会で生きていける人材の輩出を行っている。
2017年2月20日 中小企業家同友会函館支部で講演。
2017年10月からはうつ病リワークプログラム(復職支援)も開始。
集団認知行動療法研究会会員。
2019年3月よりテレワーク就職を目指す方のための在宅訓練も開始した。
(2019年3月17日北海道新聞にPonteの活動が紹介されました。)
Facebook「就労移行支援事業所 Ponte」に最新情報載せています。


Facebook:https://ja-jp.facebook.com/ponte.hakodate/