2016年12月12日、三重県伊勢市に『クロフネファーム~伊勢からやさしい風が吹きますように~』がオープンしました。
野菜を中心としたビュッフェレストランで、60~70種類の料理がズラリと並びます。このクロフネファームは就労支援A型施設としての面もあり、現在では約25名の利用者さんと一緒に、毎日、笑顔でお客様を迎えしています。
私たちの事業のスタートはあるお店との出会いからでした。
仙台に『六丁目農園』というレストランがあるのですが、そこが就労支援A型施設として野菜ビュッフェレストランをやっていました。たまたまそこのオーナーと知り合う機会があり、お店にお邪魔して食事を頂いたときに、『この料理のクオリティーと品数を、障がい者さんと一緒に作られているんですか!?』と衝撃を受けたことが始まりです。そのときにオーナーさんから障がい福祉に対する思いを聞いたり、働いているスタッフさんに話を聞いたことが、クロフネファームをスタートするきっかけになりました。
実はクロフネファームはオープン当初、飲食業の経験者はいたものの、障がい福祉の経験があるスタッフは一人もいませんでした。完全なるド素人集団としてスタートしたわけです。代表である私も、それまで身近に障がい者の方がほとんどいなかったので、本当に0からの手探りだらけのスタートとなりました。
素人として一番最初につまづいたのは障がい者スタッフさんの募集でした。
伊勢はA型就労施設が少なく、軽度~中度の障がい者さんの働く場所が少ないと聞いていたので、ハローワークで募集を出していれば問い合わせが来るだろう、と思っていたのですが、最初はほとんど問い合わせが来ず、障がい者スタッフさんはたったの3名からスタートしました。
市役所へ行き、他の就労支援施設を回り、分からないことをリストアップして、ひとつひとつ教えていただきながらたくさんの方に支えていただきました。ド素人だからこその苦労をたくさんする中で、経験者をスタッフとして迎えるべきだったな、とか、もっといろんなことを勉強してからスタートすればよかったかな、とか、思うこともありましたが、今ではいろんな経験をさせていただいたおかげで『ド素人でよかった』と心から思えています。
クロフネファームには施設見学で、県内外からいろんな方がいらっしゃいます。県の職員さん、社会福祉協議会のみなさん、病院の先生方、他の障がい福祉事業所の方などなど。
お食事後に、みなさんにお話させていただくことも多いのですが、あるとき隣町の障がい福祉事業所の職員さんたちがご来店されて、お食事後にお話をさせていただきました。このときはある障がい者スタッフの男の子に関して、お金の使い道なども交えたプライベートにまで口を出しているというお話をさせていただき、その後、質疑応答の時間を取ったのですが、ある女性が『なぜでそこまでやれるんですか?』と聞かれました。
僕らにしてみたらこの質問はとても意外で、『え?普通、目の前に困ってる人がいたら助けませんか?当たり前のことでしょ。』と返答しました。
特に福祉の仕事をされている方って、目の前に困っている人がいたら助ける、を当たり前にする人たちだろうと思っていましたし、僕らからすると聞いてくださっているみなさんの方が障がい福祉業界の先輩であり、その方から『そこまでやる必要ないよ』と言われた気がして、ちょっと感情的になってしまいました。『障がい福祉業界の中でいろんな考え方があったり、しがらみなんかもあるのかもしれませんが、僕らは目の前の困ってる人をほっとくことは絶対にしません。』と言うと、その女性が目をウルウルさせながら今にも泣きだしそうになっていました。
あ、ちょっと言葉がきつかったかなと思って、終了後に謝りに行ったら、謝らないでください、といわれてその方の胸の内をお聞きしました。
実はその方は障がい福祉事業に熱い思いを持っていたのですが、就職した施設で『仕事として関わるのはここまで』という線をビシッと引かれてしまい、しっかりと障がい者さんに関わることができなかったのだそうです。『深く関わると後々面倒だから』『最終的には責任を取ってあげれないんだから』上からそう言われ、彼女は仕事に対する熱も少し冷めかけていたのだそうです。でも今回のことをきっかけに、上から何を言われようがもう一度しっかりと障がい者スタッフさんに関わっていこうと思います、と言われました。
僕らはまだまだ障がい福祉業界として新参者なので、知らないことも多いし経験値も浅いです。でもこの素人の感覚は忘れてはいけないと思っています。
経験を積むとやる前からある程度予想が立ち、挑戦する勇気が薄れてしまいます。経験を積むと目の前の方を無意識にカテゴライズしてしまい、真剣に向き合わずパターンに当てはめてしまうかもしれません。
僕らはそんな接し方は絶対にしたくないと思っていますので、これからもずっとド素人感覚を忘れずにいたいと思ってます。目の前の方ひとりひとりと向き合って、たくさんの方とつながりを作って、明るい新しい未来を作っていこうと思います。