This is my WAY ~ヒロくん第1章~

現在、クロフネファームには23名の障がい者さんがスタッフとして働きに来てくれています。オープン当初に比べると本当にたくさんの方が来てくれています。身体、知的、精神、難病などなど、その障害も様々です。ホール業務、厨房業務、事務など、その方々の障がいに合わせて様々な仕事をお願いしています。

その中に、クロフネファームのオープン当初から来てくれているスタッフでヒロくんという子がいます。ヒロくんの出身地は高知県です。
たまたま僕らと知り合う機会があり、地元には働く場所がないからと、わざわざ高知県から引っ越して伊勢までやってきました。側弯症という身体障害があり、引っ越してきたときも寮と会社の往復用で、電動の車イスを持ってきていたほど、体もあまり強くありませんでした。そんなヒロくんは本人の希望でホールの仕事をしています。ずっと立ちっぱなしの仕事なので、ヒロくんの体にとっては結構な重労働です。

お客様を席までご案内してお店のシステムを説明する。
温かい料理が出来上がったらお客様に案内する。
『○○が出来上がりました~温かいうちにどうぞお召し上がりください!』
今日もヒロくんの元気な声が広い店内に響きます。一生懸命にがんばるヒロくんの姿を見て、彼のファンになったお客様もたくさんいらっしゃいます

ある日、お医者さんの団体が施設見学にいらっしゃいました。その日もホールの中をところ狭しと走り回るヒロくんの仕事姿を、みなさん温かく見ていらっしゃる様子でした。その中の一人の方が僕に声をかけて、こう言われました。
『彼の障がいであの重さで、こんな仕事をさせてはダメですよ。』
僕は言われてドキッとしました。専門家の目から見ると、ホールでのこの仕事はヒロくんの体にとってはとても負担が大きいとの指摘だったのです。
素人の甘さ。自分の勉強不足。

僕は反省してそのことをヒロくんに言いました。
『お医者さんからこんなことを言われたんだけど、ヒロくんどう?おれの勉強不足でごめんね。体しんどかったら別の仕事にしようか?』
するとヒロくんはこう言いました。
『僕は大丈夫です。本当にしんどくなってきたら早めに言います。今の仕事はすごく楽しいので、続けさせてください。』
本当に楽しそうに働いている彼の姿を毎日見ていましたし、ヒロくんに会いに来てくださるお客様もたくさんいたので、ヒロくんにはこのままホールの仕事を続けてもらうことにしました。
僕は医者ではないのでその辺の専門知識はありませんが、一番は本人の意思とやる気を大切にしたいと思っています。ヒロくんがやりたいと言っていることをやらせてあげよう。彼の体に無理がくる前に気付いて、全力でフォローしよう。そう思い覚悟を決めました。

ヒロくんの変化

ヒロくんがクロフネファームに来て2年ほどしたころ、
『最近のヒロくんの変わったところはありますか?』
と、ヒロくんのお母さんに聞いたことがあります。するとお母さんは
『クロフネファームに来て彼は生き甲斐を感じています。』
とおっしゃっていました。クロフネファームは飲食店なので、お客様の反応がすぐに返ってきます。
『ありがとう、とっても美味しかったわ。』
『お腹いっぱい。みんなもがんばってね。』
自分のやったことで目の前の人が喜んでくれる。笑顔になってくれる。ありがとうの言葉をもらう。そんなことが彼の生き甲斐になっているとお母さんはおっしゃいます。仕事とは誰かに喜んでもらうことです。その喜びが直接見えるこの仕事は、働くみんなの生き甲斐にもなっているんだと感じます。

ヒロくんがクロフネファームで働くようになってから変わったことのひとつは、ご飯を食べる量があからさまに増えました。来た当初はお茶碗一杯のサラダと、少量のパスタでお腹いっぱいだと言ってました。ところが半年もすると、僕らと同じ量のまかないを食べるようになってきたのです。『一日中、ホールの中を動き回っているとお腹もすきますわ~。』と言って毎日モリモリ食べています。よく食べよく働き、おかげで体もずいぶん強くなったと思います。

ヒロくんはアニメとゲームが大好きです。部屋にはいろんなフィギュアやゲームがたくさんあります。そしてカラオケも大好きです。
ある日、休みの日は何をしているのかと訊ねたら、一人でカラオケに行っていると言いました。ヒロくんの家から近くのカラオケ店まで僕らの足で歩いても40分はかかります。ヒロくんの体では1時間半はかかるでしょう。僕らはびっくりしました。
来た当初、家と会社の往復約10分の距離を、電動の車イスを使うと言っていたヒロくんが、休みの日に自分の足で1時間半もかけてカラオケボックスに行っているなんて。1時間半かけて歩いて、3時間ひとりで歌って、1時間半かけて帰ってくるのです。こんなにヒロくんの体が強くなるなんて誰が予想できたでしょう。

仕事を覚えた、やれることが増えてみんなの役に立つことができた。そんなことよりもヒロくんの人生に、楽しみの幅が広がったことが僕らにとってもすごくうれしいことでした。お医者さんの言うことを守ってヒロくんの仕事を変えてたらこの結果は得られなかったでしょう。お医者さんの言ったことは専門家としての意見なので、否定するつもりも全くありませんし、ヒロくんの体が強くなったのはたまたまかもしれません。しかし今回のことで専門家の意見や教科書などは参考にしながら、目の前の本人と横に並んで歩くことの大切さを学びました

みんな可能性は無限大です。仕事に限らず、クロフネファームで働きながらみんなの人生が豊かになっていくことを願って、今日もみんなでがんばっています。

(続きは次回の第2章にて)

ABOUTこの記事をかいた人

▼プロフィール:
1978年5月9日生まれ。福岡県糟屋郡粕屋町出身。同志社大学経済学部卒業。1998年度生。

▼現在:
野菜を中心としたビュッフェレストラン『クロフネファーム(就労支援A型施設)』を経営。接客業での障がい者の方が働く場所を作り、仕事の楽しさを共に分かち合っている。『地元の食』と『障がい者就労』という演題で講演活動も行っており、障がい者就労に対する意識や見解を広く伝えている。将来の目標は、『47都道府県クロフネファーム化』であり、一人でも多くの障がい者の方が働ける場所を広げることに努めている。

▼これまでの道のり:
大学卒業後、憧れていたウエディング業界へ就職する。海外ウエディングの会社やイベント会社を渡り歩きながらたくさんの経験を積む。2005年、東京から転職で三重の地へ。
有限会社クロフネカンパニーに入社し、ウエディングの勉強をする傍ら、講演会で全国を飛び回る同社代表中村文昭のマネージャーを務める。彼の思いや考えたことを具現化することが仕事となる。
あるとき、中村が出張先の仙台で、障がい福祉事業所としての野菜ビュッフェレストラン『六丁目農園』に出会う。『この料理を障がい者さんたちが作っているのか!』と、その料理のクオリティの高さと美味しさに感動し、このモデルを伊勢でもやろうと提案がある。その運営責任者を任せられる。当時は飲食の経験がわずかにあっただけで、障がい福祉に関しては知識や経験は一切なく、全くのド素人。文字通り1からのスタートとなった。
2016年12月12日、クロフネファーム~伊勢からやさしい風が吹きますように~がオープン。連日たくさんのお客様にご来店いただいている。オープン当初は3名だった障がい者スタッフも、現在では25名まで増え、みんなで一緒にお客様に喜んでいただくための新メニューの考案や、様々なイベントを企画している。ひとりひとりの個性・能力と向き合いながら、可能性を信じて日々新しいことに挑戦している。
2019年8月、オンラインサロン『47都道府県クロフネファーム化計画!!』を開設。全国各地のメンバーと共に、新しい形の障がい福祉事業を47都道府県すべての地区に開設する目標を掲げている。