当事者と企業から見た障がい者雇用!『テレワーク勤務導入で実感するメリット』~障がい者の視点~

前回のテーマに続き、障がい者の視点からお話します。

当事者と企業から見た障がい者雇用!『テレワーク勤務導入で実感するメリット』~企業の視点~

2020.06.23

週1日程度の在宅勤務から週5日の在宅勤務へ 〜通勤により体調を崩していた日々〜

新型コロナウイルス感染症の影響により、在宅勤務を実施する企業が増えました。執筆時点、筆者の職場も原則在宅勤務となり、筆者自身も完全在宅勤務を行なっています。
実は筆者、この新型感染症の影響が出る前から、不定期に在宅勤務をしていました。それは自身の障がいの影響により、体調を崩していたためなのですが、完全在宅勤務となってから、大幅に体調が改善しました。

さて、今回はそんな筆者の実体験に基づき、前回の投稿に続いて障がい者本人の立場から、障がい者雇用において、様々な場所での労働を認めることの有用性について述べていきます。

通勤は戦であった


完全在宅勤務を始める前、筆者は極度の不眠に悩まされていました。夜、幾ら寝ても眠りが浅く、酷い時には中途覚醒が発生し、遂には定期通院先の病院から睡眠薬を処方して貰わなければならない状態となりました。

ではなぜ、そこまで酷い睡眠環境に陥ったのか。その主な原因は、「通勤」でした。
基本的に、筆者は見ず知らずの人が大変苦手です。体臭や化粧品の匂い、会話や聞こえてくるその内容、ヘッドホンから漏れ出る音、無意識に規則的に揺れる足や指、満員の車内や隣り合って座らざるを得ない時のヒトの触覚と、味覚以外の五感に止まる事無く突き刺さるストレス。
そして外出する際は、どの様な「被害」を被るか見当も付かず、常に「戦闘モード」で最大限の警戒心を持って出かけるという異常事態。大袈裟に思われる方も多いかと思いますが、見知らぬ人から受けるストレスの影響は計り知れず、その対処・対応は筆者にとって重要死活問題なのです。

この事に気づいたのは現在の職場に電車通勤するようになってからでした。列車に乗ること自体は好きでしたし、通勤ラッシュは幾度となく経験して来ましたので、問題ないだろうと鷹を括っていましたが、いざ毎日通勤ラッシュとなると、次第に心身にストレスが積み重なって行きました。通勤時間帯は様々な場所で見ず知らぬ人で溢れ返っています。道も駅もバスも列車も、何処を見ても人だらけ。職場に着けば顔見知りの方々ばかりですので落ち着くものの、帰りはまた同じく見知らぬ人溢れる街頭に繰り出さねばなりません。

睡眠障がいまで発生する状況に頭を悩ませた筆者は、会社に相談して週一回程度、在宅勤務を行う事となりました。在宅勤務の日は通勤がありませんので、体調は比較的良好なのですが、週一日では睡眠障がいは改善しませんでした。やはり完全在宅勤務せざるを得ないと思い、会社に再度相談していましたが、自分自身、それで業務が回るのか想像も付かず、なかなか踏ん切りがつきませんでした。
そんな中、期せずして完全在宅勤務の日々が始まったのです。

在宅勤務により、驚くような変化が起きた


週5日で在宅勤務を行うようになり、徐々に心身に変化が見られるようになりました。まず、通勤がなくなり、ストレスが大きく軽減されたことで、よく眠れる様になっていきました。そして遂には、睡眠薬を服用せずにしっかり眠れる様になったのです。
さらに、筆者の在宅勤務環境は幸いにも静かだった事もあり、以前に比べて集中力が増し、業務効率も上がりました。そして、以前よりも更に意欲的に業務に取り組めるようになりました。これら、仕事に関わらず、私生活でも大きな変化が訪れ、以前は満足に出来なかった家事や、休日の余暇を楽しめるようになり、QOLが大幅に向上したのです。

さて、今回の完全在宅勤務を行う前、前述の通り、完全在宅勤務下で果たして自分の仕事は回るのか、不安に思っており、当時、気にしていた点は2つありました。

  1. 紙媒体を用いた業務があり、月に数回は出勤する必要がある。
  2. 定型業務量に波があり、在宅勤務の予定が立てづらい。

しかし、蓋を開けてみれば、全て杞憂に終わりました。
①については、筆者の業務はそこまで緊急性が高いものでは無かった事もあり、上司と相談の上、数ヶ月は執り行わない事となりました。また、社内で多くの業務がオンラインで完結するようになったことも追い風となりました。
さらに、②については、時期的な要因もあり、筆者が普段行なっている業務が急増したこと。また、同じ部署での在籍年数が増え、扱える仕事が増えたことにより、定型業務が増え、そこから派生した業務にも対応する事となり、仕事の幅が広がったことで、在宅勤務中も計画的に業務を進めることができたのです。
これらは、筆者に比較的適した業務を、健常者と同様に任せてくれた職場の方針のお陰でもあります

一方、在宅勤務環境についても、会社から支援により、大変効率の良い業務環境を整えることができました。元々、不定期で在宅勤務をしていたこともあり、会社からサブモニターを兼ねたタブレット端末と、Wi-Fiルーター、携帯電話を借りていました。また、完全在宅勤務が始まったのに合わせて、自分でもサブモニターを揃えた事もあり、事務所と遜色ない業務環境を構築する事ができ、滞り無く業務を執り行う事ができました。

就業場所を限定しない事で、新たなチャンスが得られるかもしれない

本稿では発達障がい者の立場でお話しましたが、障がい者雇用を進めて行く上で、多様な働き方や就労場所を確保することで、新たな採用チャンスが増えたり、既存の社員が効率良く働けるようになるでしょう。今回は感染症により、外出が出来ない状態が続きましたが、身体障がいや精神障がいなど、自身の持つ障がいや疾病により、平時でも外出が難しい方々もいますし、筆者の様に、障がいの特性上、外出する事で多大なストレスを受け、パフォーマンスの維持が難しい人もいます。

感染拡大防止措置に基づき、半ば強制的に多種多様な人達が在宅勤務を行う事となりました。その中で、在宅勤務でパフォーマンスや健康の維持が難しかった方々も少なくないでしょう。それと同じ様な経験を、私たちの様な障がい者は外出する事で経験しているのです。つまり、事務所で業務に取り組んだ方が良い人もいれば、自宅やサテライトオフィスで業務に取り組んだほうが良い人もおり、一人一人、効率的に働ける環境は異なるのです。

今まで就業場所を一か所に制限していた事で採用できなかったり、能力を十分に活かせなかった事もあったでしょう。就業場所を複数確保する事は、障がい者採用の枠を広げ、更に採用した障がい者本人の能力を遺憾なく発揮できる事に繋がるかもしれません。

ABOUTこの記事をかいた人

野添 浩一郎 (阪和興業株式会社 大阪本社 人事部厚生課)

1989年生まれ。2015年末、ADHD(注意欠陥多動性障がい)と ASD(自閉症スペクトラム)の診断を受ける。その後、LD(学習障害)の特性がある事も判明する。それまで自身を健常者と見做して生活してきたが、生活の様々な場面で支障を来しており、それ以降、自身の障がい・特性を認めた上で活かすようになった。永らく、自身の特性から低い自己肯定感に苛まれていたが、大学院時代に知り合った留学生たちと、留学先の米国で自己肯定感を高めることになる。2016年末より現職。