ガーデニングと障がい者

初めまして。
障がい者雇用のコンサルタントをしております、古里と申します。
この度コラムを担当させていただくことになりました。
どうぞよろしくお願いいたします。

まずは簡単な自己紹介から。
私は高校を卒業後、造園会社に就職しました。
外で体を動かす仕事がいいなとその程度にしか考えていなかったのですが、やってみるとこれが案外面白かったのです。
団地の植栽の手入れが中心でしたが、毎日重いものを持ち運んだりの過酷な重労働ではなく、適度な運動にもなって汗をかく仕事は性に合っていたようです。
それに同じ外仕事でも建築などと違って1センチ1ミリ狂うと大変というものではなく、幼い頃絵を描くのが好きだった私には、生きて動くものを扱う方が合っていたのです。
また同じ職人でも、大工や土方と違って庭師は少し変わった人が多い印象でした。仕上がりがアバウトなうえに、花や虫に触れたりするからでしょうか、芸術家肌の人が多かったですね。乱暴な人間にはつとまらないのかもしれません。

3年目には外の景色が見たくなって、日本中を仕事道具かついで旅しようか、外国へ行きたいな、などと考えるようになりました。
青年海外協力隊のことを調べている時に、アルバイトの大学生からアメリカの庭師の先輩を紹介してやると言われ、飛びつきました。
カリフォルニアでの庭師の仕事はまさにカルチャーショックの連続でした。
共に働くのはほとんどがメキシコ人で、個人邸の庭の芝刈りを中心に、一日に何十件もトラックで次から次へと移動していってこなすのです。
メキシコ人の他にはベトナム人も多く、その多くは不法滞在者で、ガーデナーはそういう輩の仕事と相場が決まっているようでした。
庭仕事の違いはとても勉強になりましたが、それ以上に自分が少数派(マイノリティ)で、しかも差別の対象になっているようだという経験は貴重でしたね。

2年間の「修行」を終え、帰国してからは、デザインの専門学校へ入学するも周囲との力の差を思い知らされ、挫折。
その後も職を転々とし、自分探しに明け暮れていましたが、結婚し子供ができたのを機に自分にできるのは庭師しかないと悟り、毎月一回定期的に訪問して庭を手入れするというカリフォルニアスタイルのガーデニングサービスを始めました。

他にはないサービスで、手軽さが受けてお客が増え、収入も生活も安定し始めた頃に園芸療法に出会いました。
精神障がい者と一緒にハーブを育てる作業所でボランティアをしたのをきっかけに、庭仕事が彼らの役に立つんじゃないかと考えました。
青空の下で芝刈り機を押し、草の匂いを嗅ぎながら汗を拭うときなどにふと、癒されている自分に気付いていたからです。
その頃通い始めたキリスト教会の牧師に相談したところ、彼が運営するNPO法人でやったらどうだと推してもらいました。
前年に障害者自立支援法が制定されたところで、役所に相談に行き、障がい者と庭仕事をやりたいんだと話したら、B型ですねということで、就労継続支援B型という福祉サービスを始めることになりました。

知識も経験もない中で、採用した資格を持つ社員らに学ぶことからのスタートでしたが、3年後には株式会社を設立して独立し、ミルマガジンでも取り上げていただきました「ガーデニングで障がい者支援」をコンセプトにしたレインツリーを開設しました。
12年で4か所の事業所を作り、数えてみたら延べ300人以上の障がい者の方の支援に携わらせていただきました。

取材レポート:就労継続支援B型事業『レインツリー』

2021.07.06

「障がい者は社会の鏡」と言いますが、本当に様々な生きづらさを抱えた方々と共に飯を食い働く中で、彼らの就職について見聞きするうちに、雇用する企業の支援が必要であることに気が付きました。
企業を見る目は年々厳しくなっています。ステークホルダーにそっぽを向かれないように様々なことに取り組まなければなりません。
持続可能な企業であるために、環境や人権にも真摯にそして積極的に向き合わなければなりません。
障がい者雇用は、女性の活躍や外国人の採用といったダイバーシティの取り組みの中で避けては通れないことであり、今や法定雇用率を達成すればよいというものからその中身が問われるフェーズに移ってきたように感じます。

工場などの事業施設を建てる場合には、自治体条例などによって緑地を確保しなければなりませんが、とりあえず緑があればいいというものから、美観はもちろん、生物多様性のある環境で、地域住民の憩いのために開放したり、社員の心身の健康に寄与するものであったりすることが期待されるようになってきました。
この緑地を、障がい者雇用によって維持管理することができれば、企業ブランドのイメージと価値を高めることができるのではないかと思うのです。
庭仕事が自らの特性に合う知的や精神の障がい者が少なくないことは知っています。
神経系が刺激され、生活リズムが整ったり、意欲が出たりするケースを多く見てきましたし、そうしたガーデニングの効用は研究され証明されてきています。
職場の人と環境に慣れることに時間がかかる彼らには、採用を担当した人事や総務といった部署でまず緑地管理の仕事から始めるのをお勧めしたいですね。
適度に体を動かして体力と自信がついたら、他の職種に挑戦するのもいいでしょう。

障がい者雇用を始めてから企業風土が変わったとはよく聞く話です。
言葉遣いが丁寧になったり、お互いを思いやったりすることが、一人一人に浸透していくからでしょうか。
そうして障がい者がいきいきと働く緑豊かな企業が増えることで、社会全体が豊かになってほしい、そう願っています。

この度レインツリーは後任者に託し、新たに法人を立ち上げました
社名のウェルガーデンは、well-beingとgardenを合わせたものです。
現在、緑化推進団体や園芸療法関係者などとその活動を始めたところです。
そうした報告と、考えたことなどをお伝えしていければと思っています。

法人のホームページはこちらです。
https://wellgarden.work

ABOUTこの記事をかいた人

[ 障害者雇用コンサルタント ]
[ 緑地管理&園芸療法コーディネーター ]
▼プロフィール:
1965年生まれ、秋田県出身。
神奈川県の高校を卒業後、造園会社に3年間勤務したのち渡米し、カリフォルニア州サクラメントで2年間ガーデナーとして働く。帰国後、様々な仕事を経験したのち、個人宅を中心に毎月1回定期的に訪問するスタイルのガーデンクリーンナップサービスを開業。事業が軌道に乗った頃、園芸療法を知る。所属する教会の牧師が運営するNPO法人のもとで障害福祉サービス事業所を開設。3年後に株式会社ナチュラルライフサポートを設立し、「ガーデニングで障害者支援」をコンセプトに就労継続支援B型事業所レインツリーを開設。以降12年間で事業所を4か所、延べ300名以上の支援に携わる。
事業を通して障害者雇用の現状を知り、障害者本人への支援から、雇用する企業の支援に軸足を移すことを決意し、株式会社ウェルガーデンを設立。障害者従業員による緑地の維持管理体制の構築と、園芸療法の導入を主とするコンサルティング事業を開始。障害者がいきいきと働く緑豊かな企業が増えることを目指して活動中。


WebSite:https://wellgarden.work