作業所化する大企業

このところ企業を訪問する機会が増え、やはり現場に入らないと分からないことがたくさんあると改めて感じたのですが、私にとってやや衝撃的だったのが、作業所化した大手企業で働く障がい者の姿です。

ある企業では、本社内の各部署から切り出されてくる作業をワンフロアに集約し、障がい者従業員がそれに当たっていました。そこではおよそ70名と、サポートする10名のスタッフが働いていました。
事務支援センターと呼ばれ、単純だけれど手間の掛かる作業を請け負う場所として、企業内でも重宝されているようでした。手掛ける業務は250種類以上といいますから、かなり細かく切り出されていて、それだけに様々な特性を持つ障がい者従業員の仕事が用意されていると言えます。
その中には重度の知的の方が多く含まれていました。

サポートスタッフと呼ばれる健常者の方がおよそ7対1の割合で配置されているのには驚きました。福祉サービスよりも手厚いのです。そして見ていると、そのスタッフは自分の仕事もあるのでしょうが、なによりも障がい者従業員のサポートを優先にしているのが分かりました。一人一人に目を配り、時々声をかけるなどしています。むやみに動き回ったり、大声を出したりする人がいない点を除けば、まさに作業所(就労継続支援B型事業所)のようでした。

このような体制は自力のある大手企業ならではと言えましょう。
特例子会社ではないものの、一カ所に障がい者従業員をまとめるというやり方は合理的ではあります。そしてこれまでは外注業者に発注していたものを内製化して、障がい者従業員の仕事に切り出すというのも多くの企業が取る選択です。
障がい者を「分けて」「集めて」管理するというやり方に従来の養護学校や精神病院と同じ類のものを感じ取り、批判する人もいます。しかし企業は規模が大きくなればなるほど従業員も増え、地域社会に対する責任が増していきます。成長を求められ続けるうちは宿命と言えるでしょう。それに伴って障がい者の雇用も増やし続けなければならないのですから、背に腹は代えられないと、雇用代行サービスを利用する企業があっても無理のないことだと思います。

ですからそういう批判に耐えるには、そうして集めた作業を「雑用」にしないことです。そもそも雑用という名の仕事はないはずなのです。これまではサービス残業をして、あるいは休憩時間に何となくやっていたのかもしれません。それを他の誰かがやってくれることで、本来自分がやるべき仕事に集中できる。パフォーマンスが上がれば仕事へのモチベーションも上がる。外注費を減らすことができて、業績が上がれば、会社にとっても従業員にとってもいいことづくめなのです。
そういう認識を関わる全ての人が持つことが大事ですね。障がい者の雇用のために「仕方なく」用意したとしないことです。その為には、この会社のように「事務支援センター」と呼び、その役割を表すのも大事ですね。障がい者の仕事として多い屋内外の清掃の仕事でも、それを「環境サポートチーム」と呼んでいる企業もありました。私は特に緑地の手入れに当たる人を「グリーンキーパー」と呼ぶことをお勧めしています。雑草を抜いたり落ち葉を掃いたりするのも、気持ちの良いきれいな空間で仕事をするためですし、お客様をおもてなしするには欠かせないことです。

それにしても福祉サービス並みにサポートする人を配置するのはどうなのだろうと、責任者の方に聞いてみますと、「確かに手厚すぎるかもしれない」との答えが返ってきました。でも目指すのは正社員並みに働く人を増やすことだと言いますから、それは「投資」なのかもしれません。ここでの働きが認められ、他の部署へキャリアアップしていく人が将来出てくるのかもしれません。当然正社員ともなると求められることも多くなるでしょうし、目指すのであれば、今与えられている仕事に真剣に向き合わなければなりません。重度の方も多いという中で、これだけ一人一人が仕事に集中しているのはそういう風土が行き渡っているからでしょうか。

ある企業のジョブコーチの方が言っていたことを思い出しました。「家庭でも福祉施設でもなく、仕事を通じてしかできない学びと成長がある」という言葉をです。かの精神科医のフロイトは「大人になるとは愛することと働くこと」と言ったそうですが、それに通ずるものがありそうです。すべての働く人が胸に刻んでおいてもよい言葉ですね。

それにしてもこの会社で働く障がい者の方は恵まれているなと思いました。ここで働いている人と作業所で働いている人の違いは何だろうと考えてしまいます。今通っている作業所の近くにこんな会社があったなら、そちらで働けるのだろうか。企業に雇用されて働くために必要なことは何か。
就労支援事業所では、毎日長い時間を休まず働けるようになること、挨拶や報連相などコミュニケーションを取れるようになることを目指そうとします。もちろんそれができるに越したことはありませんが、もっと大事なのは「この会社で働きたいという思いだ」とこの会社の責任者は言われました。そうなのです、福祉の側は見落としがちですが、要は本人の気持ち次第なのです。
営利企業ですから働きたくない人はどんなに能力があってもいらないのです。ある会社では、「企業理念に共感できる人」と言い、私は目から鱗が落ちる様な思いがしたものです。就労支援関係者はこれを「障がい者に何を求めるか」と憤慨してはいけません。このあたりが企業で働くのを選ぶ人と作業所で働くのを選ぶ人との違いかもしれません。選択肢は本人の前に開かれているのです。

このように一見作業所化したような企業が増えると、ますます就労支援事業所の存在価値が問われます。就労継続支援B型事業所はより就職を目指す就労移行支援か、手厚く生活を支える生活介護のどちらかに業種替えをしなければならなくなるかもしれません。それでもB型として生き残りたければ、就職したい利用者と企業との間の仲人のような役目を惜しまないことでしょうか。その縁談がうまくいくように取り持つのです。その際には利用者と長い時間を共に過ごし、関係者のうちで誰よりも一番よく利用者を知るものとしての自負を持って対峙するべきでしょう。それは企業にとっても心強いものです。そして万が一、その縁談がまとまらなかった場合でも、安心して帰ることのできる場所であり続けてほしいと思います。
居心地が良すぎるのも、利用者の足を引っ張ることになってしまうかもしれないですが。

ABOUTこの記事をかいた人

[ 障害者雇用コンサルタント ]
[ 緑地管理&園芸療法コーディネーター ]
▼プロフィール:
1965年生まれ、秋田県出身。
神奈川県の高校を卒業後、造園会社に3年間勤務したのち渡米し、カリフォルニア州サクラメントで2年間ガーデナーとして働く。帰国後、様々な仕事を経験したのち、個人宅を中心に毎月1回定期的に訪問するスタイルのガーデンクリーンナップサービスを開業。事業が軌道に乗った頃、園芸療法を知る。所属する教会の牧師が運営するNPO法人のもとで障害福祉サービス事業所を開設。3年後に株式会社ナチュラルライフサポートを設立し、「ガーデニングで障害者支援」をコンセプトに就労継続支援B型事業所レインツリーを開設。以降12年間で事業所を4か所、延べ300名以上の支援に携わる。
事業を通して障害者雇用の現状を知り、障害者本人への支援から、雇用する企業の支援に軸足を移すことを決意し、株式会社ウェルガーデンを設立。障害者従業員による緑地の維持管理体制の構築と、園芸療法の導入を主とするコンサルティング事業を開始。障害者がいきいきと働く緑豊かな企業が増えることを目指して活動中。


WebSite:https://wellgarden.work