「ロクイチ」報告目前。これに当てはまると雇用率達成していても安心できない企業②

前回からの続き。

「ロクイチ」報告目前。これに当てはまると雇用率達成していても安心できない企業①

2020.05.21

③身体障がい者のみの雇用実績《危険度★★★★★》

こちらは厚生労働省の「障害者の職業紹介状況等」という資料から抜粋したデータになります。

参考:厚生労働省「平成30年 障害者の職業紹介状況等」
https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/000518394.pdf

厚生労働省では、毎年ハローワークを通じて企業に就職された障がい者の数値を取っています。抜粋したデータは平成20年から5年おきの数値になりますが、障がい特性ごとに就職者の変動に特徴が見られます。身体障がい者・知的障がい者に比べて精神障がい者の就職数の伸び率が高いことが分かります。直近の平成30年では、精神障がい者の就職数は他の特性よりもおよそ2倍になっています。

次に同じく厚生労働省の「平成30年度障害者雇用実態調査結果」という資料から抜粋したデータになります。こちらの資料は常用雇用労働者5人以上の企業を対象にした調査結果をもとに算出したデータになり、毎年厚生労働省から公表される「障害者雇用状況の集計結果」では雇用義務のある企業(法定雇用率2.2%・常用雇用労働者45.5人以上)を対象にした集計よりも企業の雇用実態に近い内容になります。

参考:厚生労働省「平成30年 障害者雇用実態調査結果」
https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/000521376.pdf

世間の障害者雇用の現場では想像以上に精神障がい者や発達障がい者が働く職場が増えていることが分かります。精神障がい者の離職率は他の特性に比べて高いという面もありますが、上記の雇用実績が示すように企業は精神障がい者を求人の対象としており、実際に雇用が増えてきているということになります。その裏には働く能力がある精神障がい者や発達障がい者への理解が進んでいることも理由のひとつです。
企業の人事担当者の努力で社内理解が進んできていることが考えられます。

これらから、障がい者求人の現状は精神障がい者や発達障がい者へと移行されています。その波に乗り遅れた企業は、今は法定雇用率が達成している状態であっても、精神障がい者に対する社内理解や雇用準備に時間と労力が掛かり、実績を上げる前に雇用率を割り込んでしまい、罰金を支払うことになるかもしれません。
現在、国として精神障がい者の雇用を進めるための助成制度が設けられています。制度を活用できる期間が限られていますので、一日でも早く取り組みされることをおすすめします。

2018年4月から「短時間労働の精神障がい者の雇用も1カウント」ってご存知ですか?

2018.04.17

④障がい者の正社員登用制度がない《危険度★★★☆☆》


この数年は毎年のように障がい者の求人数が増えています。正に障がい者の求人も売り手市場になっています。以前までなら障がい者が就職の相談をする先というのはハローワークがほとんどでしたが、今では障がい者の求人サイトも増えており、登録をしておけば企業からのスカウトメールが届いたり、就職や転職などの悩みも専属のコーディネーターが熱心に対応してくれます。
自社で勤務している障がい者の中にもそういった求人サイトに登録し、転職の機会をうかがっているという話もよく耳にします。

障害者雇用は採用の始まりであり、職場定着してもらうことが本来の目的となります。これまで、雇用した障がい者は付帯業務がメインで待遇面も一般の従業員と比べても決して良いといわれるものではありませんでした。それは、「障がいがあるため日常的に周囲からのサポートが必要」という企業の考え方が所以です。しかしながら、時代が進み障がいがあるために支援が必要であっても一般の従業員と同様の仕事をしているのであれば、待遇も同様にしないといけない(同一労働同一賃金)という考え方が主流となってきています。
当然、障がいのある人材でも昇格やキャリアアップを希望する方もいますので、障がい者のポジションの選択肢を増やしていくことが必要だと感じます。優秀な人材は「この会社で働いているメリット」を感じないと残ってくれないと思います。そのために各社は障がい者の雇用条件を見直す時期に来ているといわれます。

⑤柔軟な勤務形態が未導入《危険度★★★☆☆》


世界的な新型コロナの影響でこれまでの生活や仕事のかたちが大きく変えられました。特にテレワークや時差出勤などを導入する企業が急激に増えましたが、これは障害者雇用にとってもプラスの影響になります。都心部の通勤ラッシュは心身ともに掛かる負担が大きく、障がい者にとっては想像以上のストレスであり、車いすなどの歩行が不自由な方にとっては危険なシチュエーションが生まれやすい状況になります。

今回の騒動をきっかけとしてテレワークや時差出勤の運用に大きく舵を切った企業で働く障がい者からはこのような声を聞きます。
「通勤時よりも体の痛みが減りました(下肢障がい・女性)」
「感覚過敏のため満員電車から解放されて体調が安定しました(発達障がい・男性)」
「時差出勤で通勤時に危険だと感じることがなくなりました(重度下肢障がい・男性)」

現在、国はテレワークの普及を推進していますので、助成金の活用も導入の後押しになると思います。(自治体によっては独自の助成金を設けているところもあります)障害者雇用をきっかけとした働き方改革は企業に大きなメリットをもたらします。

テレワークや時差出勤の導入が困難な職種や業種もあるため、すべての企業に該当するわけではありませんが、働くことへの固定概念が邪魔をしていることで、これから世の中に浸透することが考えられる「新しい働く姿」からかけ離れてしまった場合、障がい者は貴社を選んでくれるでしょうか。もしかすると、今雇用している障がい者従業員からも見放されるかもしれません。

これからの障害者雇用では、自社がコントロールできる採用状況を作るというのが望ましい状態だと考えます。これは、仮に法律の改正により雇用率が上昇した時というのは、雇用義務のある企業全体に掛かる影響のため、世の中の求人活動が通常よりも活発化します。
また、雇用している障がい者の急な退職が発生した場合、求人募集・人選・配属先の選定及び社内説得・受入れ準備など、各種手配に時間と労力が掛かることになります。

人事担当者の皆さん、今からでもできる対策はあります。

ABOUTこの記事をかいた人

上前 忠司 (日本障害者雇用総合研究所代表)

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム