「中央省庁2019年度中に約4,000名の障がい者を新規採用」は上手くいくのか

2018年を振り返ると「障がい者雇用」にとって大きな出来事がある年となりました。
例えば、ひとつは「2018年4月『障がい者雇用促進法』の改正」。主な改正ポイントは「精神障がい者の雇用義務化」と「障がい者法定雇用率の上昇」などがありました。(個人的には雇用のメリットにもなる助成金の拡大もあると嬉しかった)これにより、法律を遵守したい企業の障がい者求人が拡大、特に都心部を中心に精神障がい者の雇用が大きく進んだのではないでしょうか。

そしてもうひとつ忘れてはいけないのが「中央省庁による水増し問題」。ここ数年では非常に大きなニュースとなりました。

<簡単におさらい>

  1. 2018年8月に所管する厚生労働省、総務省や国土交通省など複数の中央省庁が障がい者の雇用実績を水増ししていたことが発覚
  2. 発覚から数日の間に他の中央省庁や地方行政でも雇用実績を水増ししていたことが判明
  3. 2018年10月に第三者検証委員会が不正に3,700人を障がい者として計上していたとする報告書を発表。「法定雇用率を充足するため、恣意的で不適切な基準を用いた」と認定
  4. 地方行政機関では約3,800人が障がい者として不適切に計上
  5. 2019年度中に全省庁で約4,000人の障がい者の雇用を目標に掲げる方針を固める

これを受けて、人事院は障がい者を対象とした国家公務員選考試験を2019年2月に実施すると発表をしました。昨年末にこの選考試験の募集状況が報道されていましたが、一次募集676名に対して8,711名の応募があったということです。(倍率13倍)障がい特性ごとの応募の内訳は、精神障がい者57%、身体障がい者40%、知的障がい者3%でした。また、応募者のうち1,500名の方が試験時の特別な配慮を希望されているとのことです。

この中でとても気になる点があります。それは、⑤にあります「2019年度中に全省庁で約4,000人の障がい者の雇用」を実施するという点です。

障がい者雇用を成功させるためには


私は、企業の人事担当者から障がい者雇用に関するご相談をいただいています。多くは法定雇用率が不足している企業になります。それら担当者の中には雇用の義務感から急いで求人活動に取り掛かろうとする方もいらっしゃいますが、実績を残す障がい者雇用を始めるのであれば、「受け入れの準備」がとても重要だとお話しをしています。「受け入れ準備」で特に重要になってくるのが一緒に働く『従業員の理解』です。障がいのある方たちと働くことが周囲の従業員の方々にとって安心・安全であることを会社側が証明する必要があります。障がい者雇用を進める上での『理解』というのは、決して障がい者本人のためだけのことを考えているのではありません。実は、最も長く時間を共有する周囲の従業員の方々のためでもあります

例えば、新しく配属される障がい者の特性や特徴を事前に情報共有されないまま勤務が開始された場合、本人との関わり方や指示の出し方を知らないと日常業務に大きく影響することが考えられます。もし、その方が発達障がいのある方であれば、もっと細かい配慮が必要になってきます。そういった情報を知っておくことは、本来なら感じなくていいストレスを抱えてしまう危険を軽減させることにもつながります。そのために、企業内での研修や雇用前実習の導入など、多くの時間を掛けて『従業員の理解』に努めるようにしています。
それは、受け入れ準備段階中であれば、求人活動を一時的にストップしてでも『従業員の理解』に重きを置くことになります。それだけ重要なことなのです。

今回の中央省庁の場合、本来の半数程度の障がい者しか雇用の実績しかなかった状況で、今後新たに採用された障がい者が配属されるであろう職場ではどの程度の障がい者理解があるのでしょうか。それは、職場の方々の声をしっかりと聞いた上での計画であってほしいと感じます。

それともう一点は、今回の採用時に「職場実習」は活用するのかというところです。精神障がい者や発達障がい者のある人材の採用の場合、「職場実習」というのはメリットが高く雇用定着の大きな成果に繋がる手段だと考えています。特に応募数8,711名の57%が精神障がい者ということですから、おそらく採用活動のどこかの段階で導入するのだと考えられますが、本人や職場の方々のためにも実施してもらいたいと思います。
また、実習を経て採用にいたった場合であっても、仕事や職場に馴染めなかったという話も少なくありません。仮にミスマッチだった場合でも、配置転換や業務の見直しなども実施していただきたいと思います。

雇用数水増し問題から見えた課題


一般企業の手本となるはずの中央省庁や行政機関による障がい者の雇用数水増し問題は、障がい者の雇用を目指す立場の私たちにとって大きく心が傷ついた出来事でした。今回の一件で改めて知ったこともありました。例えば、

  • 法律として1976年の障がい者雇用義務制度発足時から水増し
  • 一般企業と比べ中央省庁や行政機関のチェック機能がずさん
  • 雇用不足による納付金(罰金)の支払い義務がない(助成金受給資格もない)

のような点です。

しかしながら、中央省庁は早急な対応策として「2019年度中に全省庁で約4,000人の障がい者の雇用」を実施すると発表をしました。
私はひとりでも多くの障がいのある人材が働くことにつながるのであれば応援したいと思っています。ただし、今回の求人が単なる水増し分の数合わせ雇用が目的であったり、これまで努力している一般企業の採用を邪魔するものになってもらいたくないと強く願います。

ABOUTこの記事をかいた人

上前 忠司 (日本障害者雇用総合研究所代表)

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム