これからの障害者雇用に必要な専任担当者の重要性

毎年、厚生労働省から発表される「障がい者の職業紹介状況等」によれば、平成28年度の企業がハローワークに提出する求人申込の内訳は、ここ数年精神障がい者の採用募集がトップとなっており、障がい者採用の対象が精神障がい者や発達障がい者に移行してきていることが分かります。

併せて、新規採用数も精神障がい者が前年比21.3%増と最も多く、10年以上連続で障がい者の採用数が右肩上がりの状況となっています。(身体障がい者が前年比2.1%増、知的障がい者が前年比7.2%増)

精神障がい者の採用数増加に伴い、雇用のミスマッチも増え、離職率は身体障がい者と知的障がい者と比べても圧倒的に多い割合となっています。こういった結果から、“精神障がい者の雇用 = 不安”を抱かせしまい、なかなか雇用定着が進んでいないというイメージを植え付けてしまいます。

精神障がい者の離職率の高さという事実に対して、具体的な対策を用意しなければ、障害者雇用が悪循環な形で根付いてしまう恐れがあります。

とても難しい問題ですが、現状の雇用状況を見てみると

  1.  障がい者の雇用は精神障がい者が中心となる
  2.  精神障がい者の雇用は定着が難しい
  3.  精神障がい者の具体的なサポートが分からない

といった点が挙げられます。

今後の障害者雇用の中心となる精神障がい者を職場に定着させるための対策とはどのようなモノでしょうか。

それは、企業内で「専門的サポート」を提供できる人員の配置が大きな成果につながると考えています。

「専門的サポート」と聞くと、従来からある福祉事業所が提供するようなサービスと受け取ってしまいますが、ここで挙げているのは企業内における障害者雇用が円滑に進むための専任者で役割としては、

  1.  採用時の人事担当者との連携(アドバイス)
  2.  従業員向けの研修や勉強会の実施
  3.  配属先との調整や勤務後のフォロー
  4.  社外の専門機関との連携

などが考えられます。

現状、障がい者の採用や雇用の役割は人事担当者が多く、一般採用や社内の労務関連などの業務と並行してあたっているのではないでしょうか。厳密にどの程度の事業規模と明記しづらいのですが、人事担当者の日常業務にプラスして障がい者の採用や雇用定着に向けた仕事をしていくことには限界が出てくると感じています。これまでの障害者雇用の中心であった身体障がい者であれば、専門性の高いサポートを企業側で準備しなくても良かったのですが、精神障がい者や発達障がい者に見られる特徴を想定すると、あらゆる場面で今より障がい者の職場定着に軸足を置いた人員配置が必要だと考えます。

例えば、①で言いますと、健常者の採用と違う求人活動が必要です。障がい者の採用時に活用するハローワークや就労系の福祉機関、人材会社などとのやり取りでは、エントリーシートを送付するだけではなく、企業側から伝える職場環境や希望する人材・障がいについての連携、相談先からの提案や問い合わせへの対応も必要となります。特に、提案や問い合わせがあった場合、配属を予定している部署の管理者との連携が発生します。その時に障がいに関する知識や情報を理解した状態である専任担当者が配置されているとスムーズなやり取りができます。

次に、企業内で障害者雇用の理解や協力体制を根付かせるためには、社内に対して②のような働きかけが必要となってきます。障害者雇用は一時的な取組みではなく、継続性を求められますから、計画をもとに定期的な発信が雇用推進へとつながります。場合によっては、専門機関への依頼や相談が必要となるでしょう。

また、採用活動の一環として、候補者の能力や職場との相性を確認する上でも企業実習を推奨しています。その場合、実習を受入れる部署の選定や事前準備、協力してもらう支援機関との調整などが必要となってきますが、これらも専任担当者の配置で進めることができます。

そして、採用が決まりいよいよ雇用がスタートする時にも様々な業務があります。まず、配属先の従業員に対して新しく雇用された障がい者の特徴や伴う配慮についての情報連携を行うための勉強会があります。雇用を失敗する企業事例に多い理由として、「障がい者の特徴や配慮が職場に伝わっていなかった」があります。これを補うための働きとして部署への勉強会実施が挙げられます。

それに、配属後のフォローについても障がい者本人だけではなく一緒に働く従業員に対しても定期的なヒアリングと情報収集をお願いします。双方をサポートすることで障害者雇用の歯車が噛み合います。

このような採用後のサポートも専任担当者を配置することで職場の管理者を中心に定着支援としての役割が発揮され、今後の障害者雇用に役立てるためのノウハウ蓄積となります。

最後に社外にある専門機関との連携も障がい者の雇用定着には必要と考えます。近年は、従来からある福祉事業所のような専門機関だけではなく、一般企業を母体にした就労を支援する事業所やコンサルタント会社も増えてきました。企業との相性や強味によって選択できる時代になってきましたので、専門機関の力を借りることで、2018年度以降の障害者雇用を乗り切っていける枠組み作りを準備していただきたいと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム