職場定着の秘訣は、就業規則を理解し合うことにある!?

今回は、就業規則について考えてみたいと思います。
今回、書くにあたって、職場の就業規則を見返したり、書籍を読んだりしてみましたが、知識としてはまだまだ不十分かもしれません。書くことで私なりに現場感覚を整理したく、普段の現場で感じる就労支援と照らし合わせながらまとめてみました。荒削りなコラムになってしまいましたが、少しでも何かの参考になれば嬉しく思います。

1.就業規則と職場定着の関係性


少し古い資料ですが、厚生労働省が公開する「平成25年度障害者雇用実態調査」によると、障がいのある人が離職する主な理由に、「職場の雰囲気・人間関係」「賃金・労働条件に不満」「仕事内容があわない」などが上位を占めます。
また、仕事を続ける上で改善等が必要な事項では、「能力に応じた評価、昇進・昇給」「調子が悪いときに休みを取りやすくする」「コミュニケーションを容易にする手段や支援者の配置」が意見として多くあります。

さて、就業規則とは、企業において使用者が労働基準法等に基づき、当該企業における労働条件等に関する具体的細目について定めた規則集のことをいい(ウィキペディアより)、入社時に確認したり、入社後に何度か見返すなど、社会人として働く上ではとても重要となる規則です。
これは、あくまで私たち就労支援現場で感じる意見ですが、この「就業規則」が障がいのある人にきちんと浸透していない、または障がいのある人が規則を理解していないために、上記の離職理由や改善等が必要な事項に繋がっていることは多いような気がしています。

例えば、就業規則には「服務規律」が書いてあると思います。
ここには、その組織に所属する者に求められる言動や慎まなければならない言動が明示されています。「職務専念義務」「秩序維持」「情報管理」「ハラスメント」など、項目は多岐に渡り、「当たり前」と思えることも明示され、定められています(「新標準の就業規則(下田直人)」より引用)。
服務規律にある「当たり前のこと」は、もしかすると、障がいのある人にとって捉え方がそれぞれであったり、当たり前と思っていたことが「当たり前ではない」と本人が認識していることもあるかもしれません。コミュニケーション(理解や表現)にズレが生じやすい発達障がいの人なら、服務規律に書いてあることを丁寧に、一人ひとりに合わせて、理解を促すことが職場定着の秘訣なようにも感じています。

2.理解浸透は1on1でやり取りしながら深めてく

私の職場(社会福祉法人)の服務規律には、こんな文言が書いています。

「法人の方針、業務上の指揮命令に従い、職場の秩序を保持し、互いに協力してその職責を遂行しなければならない。」
「業務上の指示・命令に従い、自己の職務権限を超えた専断的な行動は慎むこと。」
「職務の遂行にあたっては、互いに人格を尊重すると共に、他の職員と互いに協力しあってチームワークの向上に努めること。」
「他の職員等と協力して快適な職場環境づくりと職場秩序の維持に努めなければならない。」

上記は、服務規律の一部となります。内容は、お分かりの通り「当たり前のこと」が書いてあり、端的に、シンプルに、書かれています。当たり前のことばかりの内容ですから、難しいことは何一つ書いておらず、簡単なことを求めることで記載されています。
ただ、障がいのある人とこれらの内容を話し合う際、違った角度で理解しているケースもあり、そこは一人ひとりに合わせた確認と理解を浸透させる取り組みが必要だと思います。

その際、個人的に効果的と感じるのは「1on1」。 上司と部下の一対一でやるミーティングです。1on1は、密度の濃いコミュニケーションが期待でき、相手に合わせたコミュニケーションが取れるのが最大の利点でもあり、部下との信頼関係の構築にも繋がります。
服務規律などを正しく理解してもらうために、1on1に取り組んでみるのは悪くないと感じています。

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2018.01.24

3.規範意識の強さを活かして人材育成を


最後に、障がい特性の視点から、就業規則への理解、人材育成について考えみたいと思います。ここでのキーワードは「規範意識」です。
障がい種別で言うなら、発達障がいの人は「規範意識の高さ」が目立つ人は多いよう思います。「規範」ですから「ルール」「手順」「マニュアル」などに置き換えて考えると、職場にとって当てはまることもあるのではないでしょうか。
また、知的障がいや精神障がいの人も同じくして、ルールを守ること、手順やマニュアルを意識することは、視覚的な情報伝達であればより一層理解しやすく、きちんと守ると言われています(もちろん、個人差はありますが…)。

ルールやマニュアルを遵守する強みが障がい特性として備わっているとするなら、これを活かさないわけにはいかないと、就労支援の現場では日々感じているところです。前述の服務規律においても、内容をきちんと理解していくことで、「守らないと!」といった意識は高まり、他の従業員にとって模範となる態度に変化することも期待できたりします。
ただ、注意点もあります。それは、ルールやマニュアルを「後出し」で情報伝達しないこと。後出しジャンケンで子どもがよくケンカするように、ズルはせず、業務前にルールやマニュアルを伝えることが大切です。それに、「誤学習」という言葉があるように、最初の教え方が肝心で、誤った理解で物事が進んでしまうと、誤学習を後から修正することのほうが余計に労力かかる場合もあり、注意が必要です。

就業規則と職場定着については、以上となります。
ざっくりした書き方になりましたが、「規範意識の高さ」は、就業規則や服務規律を理解してもらう上で必ず強みになると思います。注意点に書いた「教え方の大切さ」に気をつけつつ、就業規則を活用した職場定着を進めていただけたら幸いです。

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▼プロフィール:
京都生まれ京都育ち。児童福祉の専門学校を卒業後、長野市にある社会福祉法人森と木で障害のある人の就労支援(企業就労の支援、飲食店での支援と運営管理等)に限らず、生活面(グループホーム、ガイドヘルプ等)の支援、学齢期のお子さんの支援などに従事。2013年に帰阪し、自閉症・発達障害の方を対象に企業就労に向けたトレーニングをする2つの事業所ジョブジョイントおおさか(就労移行支援事業・自立訓練事業を大阪市と高槻市で実施運営)にて勤務。2014年より所長(現職)。また、発達障害のある大学生に向けた就活支援プログラム(働くチカラPROJECT)の運営にも力を入れており、2016年より大阪にある大学2校のコンサルタントも務めている。

▼主な資格:
社会福祉士、保育士、訪問型職場適応援助者(ジョブコーチ)

▼主な略歴:
長野市地域自立支援協議会 就労支援部会 部会長(2011〜2013)淀川区地域自立支援協議会 就労支援部会 副部会長(2015〜)高槻市地域自立支援協議会 進路・就労ワーキング 委員(2016〜)日本職業リハビリテーション学会 近畿ブロック代表理事(2017〜)NPO法人ジョブコーチネットワーク、NPO法人自閉症eサービスが主催する研修・セミナー等での講師・トレーナー・コンサルタント等(2013〜)