法定雇用率2.3%引き上げにみる「企業に求められる障がい者雇用」

新型コロナウイルスに世の中が巻き込まれて1年が過ぎました。国内の感染者数に目を向けると2020年の末から全国的に増加傾向となり、年が明けた2021年には都心部を中心とした地域で2回目の緊急事態宣言が発令されました。
一般企業による有効求人倍率は令和2年1月から下降し始め、現時点でも回復の兆しが見えない状況にあるのは、新型コロナウイルスによる経済活動への影響が終息する見通しが立たないという心理的な要因も多く、更なる悪化の可能性も強く感じています。この状況では、障がい者の求人や雇用維持の範囲にも大きく影響があり、障がい者の雇用促進を邪魔してしまうのではと懸念しています。

法定雇用率2.3%の引き上げ


そのような中、「法定雇用率2.3%の引き上げを2021年3月1日に実施」することに決定したという情報が入りました。
当初、法定雇用率2.3%への引き上げについては2021年1月1日の実施で予定されていました。しかしながら、新型コロナウイルスによる企業への影響を考え、もしかすると1年以上延期されることもあり得るのではないかと考えていました。
ふたを開けると2ヶ月延期の3月から実施という決定は、「バブル崩壊」「大震災のような災害」「リーマンショック」にも匹敵する、あるいはそれ以上に我々の社会生活や経済活動に多大な被害が出ており、未だに終息も見えない不安な状況にもかかわらず、今回の引き上げを決定した厚生労働省労働政策審議会障がい者雇用分科会のここまで障がい者雇用が浸透した世の中の流れに対する期待感と推進する力を止めたくないという強い意識の表れだと感じましたし、このような状況下でも障がい者の雇用を減速させてはならないという姿勢を評価したいと思っています。

一部ニュースでは、全国で障がい者の解雇が1,000人を超えるというお話も聞いています。それぞれの詳細については確認が取れないところもありますが、おそらく雇用していた企業や就労継続支援A型事業所が倒産・廃業により止む無く解雇に至ってしまったケースも多いのではないだろうかと推察します。

このような状況ですから、企業が出す障がい者の求人数はそれ以前に比べると減少傾向にあると思っていましたが、想定していたよりも求人活動をやめてしまったという感覚は少なく、特に大企業については法定雇用率を維持する意識を高く保ちながら採用を検討している姿勢が見られます。
少しずつではありますが、企業にとって障がい者雇用というものが、新型コロナウイルスであっても影響が及ばないような、いわゆる「聖域」とした感覚になってきているのではないでしょうか。

世界的規模の危機にある状況下でも法定雇用率の引き上げが実施される中で、これからの時代に企業が求められる障がい者の雇用とはどのようなものになるのでしょうか。
具体的な方法については、それぞれの企業の状態に合わせる必要があるため、また別の機会にお話したいと思いますが、ここでは障がい者雇用の取り組みを進めるにあたり意識していただくことで組織内に雇用文化を浸透させるなど、障がい者雇用に対するデメリットな印象をメリットにする点をお伝えします。

先ずは法定雇用率の達成

障がい者の雇用義務がある企業にとって「法定雇用率の達成」は、取り組みを進める上での目標であり、企業の人事担当者にとっても大きな役割のひとつとなります。組織の考え方として「障がい者の雇用は責務」とするのであれば、この点は外せません。
今現在、法定雇用率が未達成で納付金(罰金)を支払っている状況であれば、先ずは不足している雇用をどのように採用を進めていくのかを計画や情報収集(活用できる助成金や外部の専門的なリソース)するところから始めましょう

障がい者が主体的にはたらく環境づくり

法定雇用率の達成を目標とする一方で、雇用数に重きを置くばかりに、「障がい者のはたらく」というところに対する配慮の手が届いていないと感じている人事担当者も少なくないのではないでしょうか。
無意識から障がい者を一括りにしてしまいがちな思考が邪魔をして、どうしても単純作業や付随的な仕事を任せる職場が多いと感じます。もちろん、それらの業務が適した障がい者もいます。
しかし、障がい者を個々の人材としてみなし、それぞれが適正と思われる業務に就けるような幅を持たせることがこれからの障がい者雇用には必要になってくると思います。

本来、自分にとって適正と感じられる業務であったり、責任を感じられる役割につくことで、個々に差はあれど障がいの有無に関係なく主体的に考え行動することができるようになり、それが雇用の定着につながっていきます。

経済的自立を目指せる雇用

我々が普段の生活で「当たり前」と思えることが、障がいのある人たちにとっては「当たり前」ではないことがたくさん存在します。
「はたらくことで自立する」というのは「当たり前」に聞こえます。ところが、障がい者の場合、そうだとは限りません。はたらきたいと思っているのにはたらくことができない障がい者はたくさんいます。(国内の障がい者数約960万人中、一般企業で雇用されている障がい者は約60万人)
「障がい者の求人がない」「重度の障がいのため採用されない」「障がい者への理解がない」など理由は様々ですが、はたらくというステップに進めない人が多くを占めています。
雇用されたとしても、「給与が低い」「勤務時間が短い」といった状況ではたらいている場合であれば自立できる状態にあるとはいえません。障がい者を雇用する企業は、障がい者が自立できるような所得を得られる仕事を提供するところまでが、求められる雇用の姿だと思います。

現在、障がい者の雇用取り組みは社会的に解決すべき課題のひとつとしての認識が進み、法律を遵守する意識や義務感の高い企業ほど、障がいのある人材の活用やその先にある本人たちの将来設計・キャリアアップといった観点も持ち合わせた雇用の実現を目指しています。

ABOUTこの記事をかいた人

上前 忠司 (日本障害者雇用総合研究所代表)

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム