今年度2024年から障がい者雇用に関する法律の改正が行われました。
障がい者雇用活動の中心となる人事担当者にとっては法定雇用率の達成・維持を目指すための採用・求人を進める役割として大きな関心事のひとつとなります。障がい者の採用・求人を進める上で世の中の障がい者雇用状況がどのようになっているのかを情報として認識しているかどうかという点はその後の雇用定着にも関わってくると考えます。
例えば、
- 「職場からの要望に応えて身体障がい者を求人」
- 「障がい者の雇用形態はアルバイト」
- 「障がい者は求人募集すればすぐに雇用できる」
といった採用活動を進めている企業では、思うような成果につなげられていないと感じている人事担当者や経営者が多いのではないでしょうか。
障がい者の雇用が活発になってきていると耳にする程度ではなく、全国で求職活動をしている障がい者がどの程度いるのか、企業ではどのような職種で障がい者がはたらいているのかといった情報を知ることで、成果が出る採用・求人活動を行うことができます。今回はそのような障がい者雇用状況を知るデータのひとつとして役立てることができる情報をご紹介いたします。
先日厚生労働省より公表されました『令和5年障害者の職業紹介状況等』がそれです。この資料は全国にあるハローワークを通じた職業紹介事業として、求職活動をする障がい者が企業に就職した障がい者の数値を取りまとめたデータとなります。
◯年間の就職件数が過去最高だった令和元年度実績(103,163 件)を上回る
『令和5年障害者の職業紹介状況等』ではハローワークを通じて就職された障がい者数が過去最高になったことが分かりました。これまでは令和元年の103,163件が就職件数としては最高でした。
令和元年までは毎年の就職件数が右肩上がりに更新されていましたが、新型コロナウイルスにより令和2年は前年から12.9%も就職数が減少してしまいました。しかし翌年令和3年からは再び前年を上回る就職者数となり、令和5年に過去最高の110,756件の障がい者就職件数となりました。
興味深い点として、令和2年は新型コロナウイルスの影響で従来の生活が大きく見直されたことにより当たり前だった社会活動・経済活動が制限される世の中となりました。先行きの見通しが立たないため、人員の採用についても様々なところでブレーキが踏まれてしまう状況でした。
もしかするとしばらくの間、障がい者の新規採用は停滞してしまうのではと感じていましたが、蓋を開ければ障がい者の新規採用件数の落ち込みは令和2年の単年のみでそれ以降はこれまでと同様に障がい者の新規採用件数は増加へと転じました。
コロナ禍ではあるものの法定雇用率の達成・維持や継続した取り組みであるという障がい者雇用に対する考えが、特に大企業を中心に浸透していることが理由のひとつだと考えます。
この中で特に注目をしていただきたいことが障がい特性(種別)ごとの就職件数です。令和5年の就職件数110,756件(前年102,537件)の内訳は、
- 身体障がい者:22,912件 / 20.7%(前年:21,914件 / 21.4%)
- 知的障がい者:22,201件 / 20.0%(前年:20,573件 / 20.1%)
- 精神障がい者:60,598件 / 54.7%(前年:54,074件 / 50.1%)
- その他の障がい者:5,045件 / 4.6%(前年:5,976件 / 5.8%)
※「その他の障害者」とは、身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳等を保有しない者であって、発達障害、高次脳機能障害、難治性疾患等により、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者である。ただし、令和2年1月のハローワークシステム刷新により、障害者手帳を有する者も一部計上されている。
(『令和5年障害者の職業紹介状況等』より抜粋)
となります。
障がい者求人を進める企業は法律の改正に合わせて障がい者の雇用実績を伸ばしていくことが、求人数・就職者数増加の要因のひとつでありますが、他にも労働者人口が減少する中で労働力の確保として障がい者に目を向けているところもあると考えます。
これまでの人材採用は、雇用する側である企業が出す条件に合致した人材を採用する「組織に人材が合わせる」型でした。しかし労働者人口が減少し、企業間による人材獲得競争が激しくなる中、「組織が人材に合わせる」型の採用が進んでいくと感じます。
それは、人材が求めるはたらき方ができる企業に人が集まる未来です。障がい者の場合は個々の障がい特性により、職場に求める理解や配慮も様々となります。
視野を広げれば障がい者でなくとも子育てや介護・看護が必要な家族のある人材も労働力として活用する企業が生き残る世の中が進んでいくことになります。
◯精神障がい者の就職数が半数以上
ここ数年、就職する障がい特性で最も多いのは精神障がい者で50%を超えています。
同じく厚生労働省から毎年公表されている「障害者雇用状況の集計結果」を見ると、障がい者雇用の半数は身体障がい者が占めていますが、年々雇用数が伸びてきているのが精神障がい者で、直近では知的障がい者の雇用数にもうすぐ追いつく勢いです。
【令和5年障害者雇用状況の集計結果より】
- 障がい者雇用数:642,178.0人
- 身体障がい者360,157.0人(前年357,767.5人) : 前年比0.7%増、雇用全体の56.1%
- 知的障がい者151,722.5人(前年146,426.0人) : 前年比3.6%増、雇用全体の23.6%
- 精神障がい者130,298.0人(前年109,764.5人) : 前年比18.7%増、雇用全体の20.3%
このことから、障がい者求人の多くは精神障がい者の採用も視野に進められており、実際に精神障がい者を雇用する企業が年々増加していることが分かります。また、年々増加傾向にある障がい者雇用数を見ると、法定雇用率の達成が第一の目的である一方、「障がい者に業務を任せても大丈夫である」という認識が職場にも浸透しつつあり、今後も障がい者が雇用を通じて社会参加する機会が増えていくことが予想されます。
法律の改正や様々な理由により障がい者の求人が増えていきますが、母数となる障がい者の人口はそれに比例しているわけでありません。やはり、企業間による障がい者労働力の獲得競争は現実に始まっていることが分かります。そのため、自社で障がい者の雇用を始めるための情報収集や将来を見据えた経営的な考え(労働力問題)、組織体制など、準備することがたくさんあります。