【上前のひとり言】障害のある人材を雇用する上で考えること

障がい者雇用の担当者の立場から

前職から、どれくらいの障がい者雇用の担当者とお会いしたのか数えたことはないが数百人単位であることは間違いないと思います。
障がい者に関わる仕事を始めて約20年になりますが、障がい者雇用の担当者がその役割について「嫌だ」「面倒だ」と内心では思っているのかなと感じることが少なくありません。
正面を切ってその理由を話す担当者はいませんのであくまでも想像の範囲ですが、おそらく障がい者雇用の取り組みを進める中で「知らない」「分からない」と感じる場面に遭遇することが多く、それらの答えが明確に示されるテキストのようなものがないため、それはまるで「手探りで暗闇を進んでいく」ような状態だからかもしれません。

また、CSRや多様性理解の重要性を発信する会社からは法定雇用率の達成を命じられる一方で組織としての支えや協力を得られにくいと感じている担当者にとって障がい者雇用という取り組みを「苦」と受け取られても仕方がないと感じます。大企業の担当者であれば次の異動のタイミングまで我慢しようと考えるのではないでしょうか。

国や厚生労働省はこれからの障がい者雇用には法定雇用率の達成はもちろん、障がい者の雇用に対する「質」を求めてきます。
障がい者の雇用に対する「質」については、各企業にとって解釈が違ってきますが、端的に表現するならば「障がい者を含めた組織で働く誰もが立場に関係なく同一の働き方ができる環境」を用意することだと考えます。障がい者雇用の担当者による孤軍奮闘で実現させることが困難であることは明白で、「障がい者雇用は全社を上げての取り組みだ」とする考えがそろそろ広まってもいい頃だと思います。

コロナによる影響も落ち着き、来年度以降の障がい者雇用に関連した法律改正も見据えた企業からの相談が増えてきました。相談当初は障がい者の採用について不安に感じていた担当者が、見学会への参加や障がい者の実習生の受け入れなどの取り組みを進めるうちにその表情が和らいでくるのを感じるとこちらにも安心感が伝わってきます。人は「分からないこと」「知らないこと」に対して不安や恐怖を感じる生き物ですから、知らないことの多い障がい者雇用に消極的な姿勢になってしまうのも理解ができます。

障がい者の雇用の「質」を実現させるためのキーマンは当然のことながら障がい者雇用の担当者です。
その障がい者雇用の担当者が「嫌だ」「不安だ」「分からない」が解消できる体制と後押しがある環境を会社側が作ることで、障がい者雇用に情熱と誇りを持った取り組みにし、結果的には企業にとって大いなる成果をもたらせることになります。

働く障がい者の立場から


「障がい者は成長しない」「障がい者は管理職になれない」「障がい者に基幹業務は任せられない」といった思い込みが頭のどこかにありませんか。

企業による障がい者の雇用実数は毎年前年を上回り、直近の令和4年度では企業で働く障がい者が初めて60万人を超えました。その一方で障がい者に対する理解度については徐々に深まってきていると感じますが、個々の障がい者が求める職場環境作りの面からは不安を払拭できないところもあります。

それは、障がい者を一括りに捉えた考え方がまだまだ少なくないと感じるからです。
例えば「うつ病の人とはどのように接すればいいのか」といった質問をいただくことがあるのですが、答えに困ることもしばしば。こちらとしては「うつ病のあるAさんとはどのように接すればいいのか」と質問をしていただけると答えられることが出てきます。
上記で「障がい者は成長しない」「障がい者は管理職になれない」「障がい者に基幹業務は任せられない」といった思い込みがありませんかと尋ねたのも、主語が「障がい者」全体にかかっていることで理解の深さが感じられるからです。
これからの障がい者雇用は一般の従業員と同じ就業基準を求められる、もしくは同じ就業基準でないと障がい者の雇用定着が叶わない時代になってきます。障がいがあるから「成長」しないのでしょうか。障がいがあるから「管理職」になれないのでしょうか。

自分の会社は障がい者雇用について『フェア』に取り組んでいると胸を張って言えますか。
障がい者を目の前にして『誠意ある』会社ですと伝えられますか。

障がい者を一括りにした思い込みによる考え方から、個人の特性にまで深く掘り下げる考え方を持つことでその人に対する理解を進めることができます。
もちろん採用する全ての障がい者に当てはまるわけではありません。しかし、障がい者であっても「就きたい役割」「管理職」を選択できる待遇・雇用条件を用意することがこれからの時代に企業が求められる障がい者の雇用に対する「質」にも大きく関わってきます。

人間が相手の立場を想像して行動することは社会の質を向上させる上で重要な要因です。
企業や組織は障がい者担当者を、障がい者担当者は障がい者の立場を想像することで求める成果を実現させられると考えます。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム