オーストラリアでダウン症の女性がキャビンアテンダント1日体験

はじめまして、長谷ゆうといいます。
第1回目コラムは、「オーストラリア・ジェットスター航空でダウン症の女性がCA1日体験をした」というニュースを題材にしたものです。

日本のメディアでは報じられていませんが、オーストラリアのインターネットヤフーニュース、ニュージーランドの地方紙ヘラルドや通信社ニュースハブ、アメリカのTV局フォックス、イギリスのタブロイド紙デイリーメール、ドイツの新聞ウェルト、スウェーデンのタブロイド全国紙アフトンブラーデット、香港の巴士的報、インド紙インディアンエクスプレスほか何か国ものメディアが報じています。

キャビンアテンダント(CA、客室乗務員)といえば、華やかな見た目の裏で、体力的に重労働で、感情労働でもあり、有事には保安要員としての能力も必要で、なかなか普通の人には務まらないような…そんな認識です。
今年4月、オーストラリアのLCC(格安航空会社)、ジェットスター航空で、ダウン症の女性が1日CA体験をしたのだそう。

ジョージア・ノールさん(同国クイーンズランド州出身、25歳)は、ダウン症を公表するモデル・タレントとしてTV出演や動画配信などの活動をしています。公に出る活動を通じてこころのバリアフリーを呼び掛けています。
そんなジョージアさんの夢は、CAになって人をハッピーにすることでした。ジョージアさんは、客室乗務員としての立ち振る舞いの特訓の末、18年11月に家族に協力してもらって、自分をアピールする動画を投稿しました。するとそれがジェットスター航空の目に留まり、夢がかないました。

ジェットスター航空の1日CA体験

ジョージアさんは、ジェットスター航空のオレンジ色の制服を着て、他のCAやパイロットなどの“同僚”とともに、オーストラリア国内線のブリスベーンーマッカイ間(約950キロメートル)のフライトでアテンダント業務に就きました。その動画は81万回以上再生されています。

“Be yourself. Tomorrow’s going to be great!” (あなたらしさを大切に。明日はいいことがあります!)と元気に言うジョージアさん。

CAチームのマネージャーのニッキーさんが、ジョージアさんを指導します。ジョージアさんはニッキーさんとともに、搭乗前のチェックインや、機内で安全対策を行ったりします。最も楽しそうなのは、やはり乗客へのおもてなしです。人をハッピーにするという情熱で、一生懸命乗客と向き合うジョージアさん。

ニッキーさんは、「ジョージアさんと一緒にいることは素晴らしいこと。彼女はとてつもないエネルギーを持っています」と述べました。
ジョージアさんの母デブラさんも、「人々が平等に扱われることへの強い情熱を持っている子です。これはきっとダウン症の人々にとっていいことになるでしょう」「本当に恐れを知らない子です」と誇らしく語っています。

ジョージアさん本人も相当頑張ったのでしょうが、そんなジョージアさんの夢をかなえたジェットスター航空も成熟した会社に見えます。
今回は1日体験でしたが、今後ダウン症の女性が本当にCAとして採用される可能性につながっていくといいですね。

ダウン症など知的障がい者の現状


さて、ここで日本の現実を。
ダウン症など知的障がい者で企業などに雇用されている人は全国で推計15万人とされています(厚生労働省の平成25年障害者雇用実態調査)。知的障がい者108万2000人(平成29年)のうち、企業などで就労している人は13.8%程度にとどまっているのです。
そして就いている仕事は、1位が生産工程作業員で25.8%、2位が運搬・清掃・包装で21.9%、3位がサービス業で20.5%、4位が販売で10.7%、5位が事務で10.0%となっています。知的障がい者の1ヶ月の平均賃金は10万8,000円となっています。

職業に貴賤はありません。しかし、日本でも障がいのある子供や若者が、「夢のある職業」に就きたいと言える空気があっていいのではないでしょうか。特に、より幅広い職種において障がい者の企業実習体験の機会が増えると、より障がい者と企業の相互理解が進み、様々な可能性が広がるのではないかと考えられます。

障がい者差別の解消は、世界各国共通の課題です。障がい者の就業率、賃金、職域、教育などについて健常者との格差が、日本だけでなく、多様性への理解が「進んでいる」と思われている先進国にもあるのが現状です。
2006年、国連で障がい者の権利条約が採択されました。これは「障がい者の生きづらさは個人の側より社会の側にある」(障がい者の生きづらさ解消は、障がい者個人の努力で行われる個人モデルから、社会の環境整備や理解促進によって行われる社会モデルへ発想を転換)という思想が具現化された条約で、現在177の国・地域が締結しています(外務省)。日本も2007年に署名し、国内の法整備を始め、2016年に障害者差別解消法が制定・施行される運びとなりました。

このニュースをもって、オーストラリアではダウン症者や障がい者が生きやすい、と結論づけるのは早すぎます。世界的にも珍しい出来事だから取り上げられたという可能性も高いでしょう。
ですが、海外の障がい者事情には、「うん、素晴らしい! これが日本でもできないか?」と思えることが数多くあります。私はそんなニュースをリサーチして翻訳し、分析した記事を発信していきます。

今の日本国内の現状に絶望しかけている人も、海外には素晴らしいことがたくさんあることに気付き、希望を持てるようになったらいいですね。
特に障がいのある人ほど、海外に目を向けてほしいと考えています。

ABOUTこの記事をかいた人

▼プロフィール:
神戸市生まれ、都内在住。翻訳者・ライター。大学在学中に広汎性発達障がいの診断を受ける。発達障がいにより人間関係に困難さを抱えた経験を経て、ダイバーシティ&インクルージョンの進んだ外資系企業で新たな経験をする。障がい者が活躍できる社会を願い、当事者・社会双方に向けたメッセージを発信したり、相互理解とつながりを広める活動を行う。

NPO法人「施無畏」で、障がいのある女性向けフリーペーパー「ココライフ女子部」の制作や、障がい者に関する調査に関わる。ミルマガジンでは海外の障がい者雇用事情をリサーチ・翻訳・分析した記事を執筆する。

ブログ「艶やかに派手やかに」
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LinkedIn(Yuko Hasegawa)
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▼執筆メディア
障がい・難病の女性向け季刊フリーペーパー「CoCo-Life☆女子部」
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障がい者調査シンクタンク「CoCo-Life調査部」
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