Q&A:採用したばかりの精神障がい者の従業員が欠勤してしまったのですが・・・

 今回ご紹介するご相談は、初めて精神障がいの手帳を持つ方を採用した企業のご担当者からいただきました。おそらく多くの企業で起こりやすい事例となります。

先日、採用しました精神障がいの手帳を持つ従業員のことでご相談があります。初めて精神障がい者の方を採用したのですが、勤務後1ヶ月を過ぎたあたりから遅刻や早退が目立ち始めました。普段の様子や体調にも気を配り、時々声を掛けていましたが、その際には「大丈夫です。」ということで本人の意思を尊重していました。でも、1週間も経たないうちに欠勤するようになり、最終的には本人からの申し出により退職となってしまいました。

受入れをしていた部署では、精神障がい者と働くことへの難しさと大変さを感じてしまい、しばらく期間をあけてからでないと採用活動ができなくなりました。今後に向けて、精神障がい者の採用で気を付けた方がいい点を教えてください。よろしくお願いします。

今回のケースは、初めて精神障がい者の方を採用した企業で発生した事例です。厚生労働省の発表によると、ハローワークで取り扱う「障がい者求人情報」の身体・知的・精神障がいそれぞれの募集割合は、1位が精神、2位が身体、3位が知的障がい者となっています。ほんの数年前までは1位が身体で2位が精神障がい者だったのですが、現在では入れ替わってしまい、精神障がい者の採用が大きく進んでいることが分かります。ということは、精神障がい者の採用の裏には今回のようなケースが隠れていることが想像されます。

精神障がい者の採用や雇用は、これまでの障害者雇用の中心であった身体障がい者のそれと同じ感覚で進めてしまうと失敗することになり得ます。自社にとって必要な人材を見極める手段を身に付けることが求められます。

それでは、精神障がい者に限らず障がい者の採用活動で失敗しないための気を付けるところや確認すべき点をご紹介したいと思います。

① 面接が重要です

まずは、面接についてお話しします。障害者雇用でとても重要なのが面接です。当然のことですが、直接お会いして本人を確認できる機会であり、個々で特徴が違う障がいについても本人から詳しく聞くことができます。履歴書類などのプロフィールだけで得られる情報には限りがありますから、本人のことを知る上でも非常にメリットがあります。

でも、採用担当者から「障がい者との面接で何を聞けば良いのか分からない」というお話しを時々耳にします。確かに、「どこまで聞いて良いのか」「障がいのことを根掘り葉掘り聞いても大丈夫なのか」など、気にしてしまう担当者のお気持ちもよく理解できます。この場合は、「はい、しっかりと聞きたいことを聞いてください」。なぜならば、採用してから配慮のできないことがあった場合に困るのは両者となり、それがもとで職場での関係性が悪化、結果として退職になってしまうことが考えられます。障がいに直接関係のないプライベートなこと(結婚、宗教など)を聞くのはよろしくありませんが、長く働いてもらうことを前提にお体のことや配慮が必要なことはしっかりと確認してください。この時に、ご自身の話に対して抵抗を持たれる方だった場合、おそらく良い関係性を持って勤務することは厳しいかもしれません。その時には、自社に合わない方だったと諦める方が賢明です。

面接の内容や方法に関しては別の機会に改めてご紹介したいと思います。

② ご本人の支援状況

特に、精神障がい者や発達障がい者、知的障がい者の方を採用する時に本人が受けている支援に関する確認が必要になります。

特例子会社という会社組織をご存知でしょうか。簡単に説明すると、親会社の障がい者法定雇用率の充足を目的とした障害者雇用を中心とする企業のことで、重度の障がいを持つ人材の雇用を実施するために必要な配慮などを整えた雇用環境を持っています。全国にある特例子会社では、障がい者を雇用するに際して、福祉などの支援機関の協力のもとで採用を進めています。

分かりやすく説明すると、支援機関を活用し、生活と就労に関する支援や訓練などのバックアップ体制の取れた障がい者人材を採用します。そうすることで、心のバランスを崩したり、特殊な悩みを抱えた障がい者に対して専門的なフォローを掛けてもらえた結果として職場の定着につなげているのです。

身体障がい者と違って精神障がい者や発達障がい者、知的障がい者の方々を長く雇用するためには専門的な方面からの支援が必要となりますが、現状ではその点を企業内に設けるのはもう少し時間の掛かる部分です。そういう意味では、外部にある支援機関からのサポートがあるというのは、企業にとって安心材料となる人材なのです。

③ 「企業実習」や「障がい者トライアル雇用」の活用

人間関係にとどまらず、仕事内容や職場の雰囲気などの相性って、長く働いてもらうためにはとても大切な部分です。お互いをより良く知ってもらうためには実際に体験してもらう場が必要です。

障害者雇用には「企業実習」や「障がい者トライアル雇用」といった制度があります。

「企業実習」に関しては、福祉などの支援機関を活用している障がい者であれば、その支援機関を通じて自習を受け入れることが出来ます。前項でありました特例子会社が障がい者の採用時には、絶対といっていいほどこの「企業実習」を実施し、採用の判断としています。働くことを通じて、本人を知る機会となりますし、障がい者の方にとっても自分に合った職場なのかを確認することができます。

あと、国の制度として「障がい者トライアル雇用」というものがあります。最大3ヶ月間活用することができ、トライアル期間 = 試用期間の間は月額4万円が国から支給されます。詳しくは最寄りのハローワークにご確認ください。

このように、障がい者を受け入れる際に必要な確認事や支援体制、活用できる制度を知っているとご相談のようなケースを未然に防ぐことが出来ます。採用活動を始める前に、もう一度採用方法の確認をしてみてはどうでしょうか。

ABOUTこの記事をかいた人

[障害者雇用コンサルタント]
雇用義務のある企業向けに障害者雇用サポートを提供し、障害者の雇用定着に必要な環境整備・人事向け採用コーディネート・助成金相談、また障害者人材を活かした事業に関するアドバイスを実施。障害者雇用メリットの最大化を提案。その他、船井総研とコラボした勉強会・見学会の開催や助成金講座の講師やコラム執筆など、障害者雇用の普及に精力的に取り組んでいる。

▼アドバイス実施先(一部抜粋)
・opzt株式会社・川崎重工業株式会社・株式会社神戸製鋼所・沢井製薬株式会社・株式会社セイデン・日本開発株式会社・日本電産株式会社・株式会社ティーエルエス・パナソニック株式会社・大阪富士工業株式会社・株式会社船井総合研究所・株式会社リビングプラットフォーム