【Q】
現在、システム開発の会社で勤務をしています。学生の頃に発達障がいの診断を受け、障がい者雇用枠として就職をしました。職場では、私の障がいのことを理解した配慮を受けることができ、困ったことが発生した時には上司に相談をするとこちらの話にしっかりと耳を傾けて対応をしてもらっています。
職場としては問題もなく安心して働くことができているのですが、自分のやりたいことや将来の成長を思うと転職もひとつの選択として考えるようになりました。
ご相談なのですが、障がいのある私が転職をする場合の障がい者雇用の求人状況について知りたいと思います。また、転職にあたって注意する点などあれば教えてください。
よろしくお願いします。
《システム開発、20代男性、発達障がい》
【A】
企業の障がい者の求人状況からお話をしたいと思います。厚生労働省が毎年公表している「障がい者の職業紹介状況等」では、全国のハローワークを通じて求職・就職する障がい者に関する数値を見ることができます。直近の令和5年と平成21年にハローワークを通じて就職した障がい者の数値を見てみると
となっています。
特徴としては、この約15年の推移として身体障がい者の就職件数はほぼ横ばいですが、知的障がい者はおよそ2倍、精神障がい者はおよそ5.5倍に伸びています。ハローワークからの就職数全体で見ても数が約2.5倍となり、一般企業への就職を希望する障がい者が増えたことと比例して障がい者を採用したい企業も増えていることが分かります。
企業に就職した障がい者の数が大きく増加した理由としては、法定雇用率の引き上げを含めた法律の改正による影響が最も大きく、法定雇用率の引き上げと共に障がい者の雇用義務のある企業の母数も増えていることにあります。
平成21年の法定雇用率が1.8%だった当時では雇用義務のある企業数は72,328社だったのに対して、令和5年の法定雇用率が2.3%では雇用義務のある企業数は108,202社となり、約1.5倍になりますので、単純に障がい者の求人募集をする企業が増えています。また値として公表されているのはハローワークを経由した就職者件数となりますが、当然のことながら人材会社や専門の求人サイトによる障がい者の求人情報も増加傾向にあるため、それら障がい者特化型の採用ルートを活用して就職している障がい者も同様にこの数年で増えています。併せて、社会的な関心事として障がい者を含めた多様性のある人材への理解と社会参加が可能な環境整備が広まってきたことも理由のひとつだと考えられます。
今回のご相談者のように転職を検討している現職中の障がい者は少なくなく、目にする求人情報が増えていることから、今の就職先が最善ではないと感じる障がい者は今後も増えてくることが予想されます。
障がい者を新たに採用したい企業は自社にとって最良な人材を獲得するために、給与面等の雇用条件・業務内容・合理的配慮が提供できる職場環境であることを、求人票を通して前面に出してきます。
一方、障がい者を雇用している企業にとっては雇用の繋ぎ止めにひとつとして現在のはたらく環境や待遇が障がい者の視点に立ったものなのかを見直す機会にもつながっていますので、今後も好条件の求人情報が増えてくると感じています。
次に転職活動時の注意点についてお話をします。
将来を想像したときに、置かれている生活環境によっては、先行きが不透明だと感じることも少なくないため、時には強い不安を抱くことも少なくありません。果たして「今の仕事が自分にとっていいのか」「もっとキャリアを積める会社があるのでは」「今よりも良い給料が魅力だ」といったことを考えるのは障がいの有無に限ったことではないでしょう。
よほど、今の仕事内容や職場環境に対して不満を抱えている場合であればお伝えする話の内容も変わってきますが、今回のご相談者のケースでは現状に不満を抱えている理由からの転職ではなく、自身の成長や将来を見据えた発展的な理由ですから、そういったことを考慮してお伝えしたいと思います。
①求人情報だけで判断しない
転職という言葉が頭に浮かんでいる時に好条件と感じる待遇や業務が表記されている他の会社の求人情報が目に入ると非常に魅力的な内容に映ってしまいます。しかしながら、魅力的に見える時ほど冷静な自分が必要になってきます。
他社の求人にエントリーし詳細を確認することも、求人募集をしている会社の人事担当者には大変申し訳ない話ではありますが、実は現職が自分にとって最良な場所なのだと再認識するためのひとつの方法だと考えます。現在の自分の価値を理解するいい機会だとして、面接などの直接確認ができる場面で雇用条件や仕事内容、職場環境の詳細なところを実際に聞いてみると想像と違っていたと感じることは案外少なくないと思います。
例えば、企業による障がい者雇用は毎年前年を上回りながら右肩上がりに増えていますが、雇用形態を見てみると正社員として雇用契約を結ぶケースはまだそれほど多くありません。アルバイトや契約社員としての雇用が割合としては多く、中には入社当初は契約社員だが数年の実績を経て正社員登用されるところが増えてきました。現在の雇用形態と比較したときに転職先ではどのような形態になるのか。仮にグレードダウンしても望むものが転職先にあるのであれば、そういったことも含めて総合的に判断して欲しいと思います。繰り返しになりますが、求人票だけでは見えない情報があることも理解しておく必要があります。
②転職先企業の雇用実績を見る
障がい者雇用として転職する場合、転職先の企業における障がい者雇用の実績も判断材料になってきます。仮に自分が精神障がい者の場合、過去に障がい者の採用実績はあるが、定着期間が短かったり、身体障がい者しか雇用実績がない職場だったり、自分が必要とする配慮に関する理解や提供をしてもらえる職場なのかどうかという点は、新天地に求める条件としては欠かすことができないポイントだと思います。
また、これまでの障がい者の採用ルートや雇用までのプロセス、社外の専門機関の活用をどのように行なっているのかを情報として確認することでその会社の雇用実績が見えてきます。
③面接での様子・聞かれる質問内容も判断材料
面接まで進むことができた場合、履歴書類では表現しづらかった自身のPR・障がい特性について・求める配慮などを企業側に伝える大切な機会となります。一方で企業にとっても自社の魅力を認識してもらう貴重な場面でもあります。
そういった機会だからこそ、お互いに気になることも含めて色々と聞いて欲しいと思います。
前項①②でお伝えしたような点を企業側へ投げかけた時に、自分にとって明快な答えであると感じたならば転職へ一歩近づいたことになるでしょう。また、質問される内容によって自分が転職を検討する会社かどうかの判断材料にすることができます。例えば、現職で提供されている配慮について話題となった場合、これまでに雇用する障がい者に対してどのような配慮を職場で実施されていたのかは、将来はたらくことになった時の自分に置き換えて想定することができます。
繰り返しになりますが、求人情報から得られる情報の中にはこれからの将来を明るく照らし導いてくれるような存在に感じることがあります。しかし、転職は人生の行う大きな決断のひとつですから慎重な上で判断して欲しいと考えます。